Love call me.


26



「今日はぼく、凪砂くんとお仕事があるんだよね」


日和さんは食事をしながら何気なく言った。本当にそれとなく、今日は楽しいレッスンだったね。メアリはかわいいね。なんて言う素振りで。それにしても凪砂さんと仕事?Edenとしての仕事ではなく?ユニット毎に仕事をうけるのだと思っていたけど、別々でうけることもあるのか。確かに個人の得意不得意な仕事があるだろうし、凪砂さんとのお仕事も理由があるのかな。
深く突っ込めない立ち位置のわたしは日和さんの言葉を聞いて頭のなかで考えるだけ考える。答えは当然のようにでないけれど。わたしと同じく日和さんの話を聞いていた漣くんは「ああ、そういえば」と軽く返事をした。

「そんなに時間をとるような仕事じゃないんだけど、お昼前から午後に掛けて学校をでるから。それまでジュンくんに双葉ちゃんのこと任せるからね」

いやまるでペットの世話を頼むような言い方。彼のなかでわたしは同列なのかもしれないけれど、なんだかこう、やっぱりモヤモヤするんだよなあ。分からないこともあるけど、一人でなにも出来ない年齢でもない。もし漣くんの邪魔になるようなら今日はこの寮から出なければいい話だし。一人で隣のお部屋で待ってますけど。

「別にわたし子供じゃないんで…」
「朝からへろへろなのに一人で大丈夫なわけないよね?」
「それは昨日、日和さんが!」
「あ〜あ〜 そういうの聞きたくねぇんで〜!」

昨日日和さんとこれまでとは違った方法でするから!いつもなら自分からはそんなに動かないし、されるがままだからそんなに身体に負担はないのだが…疲労はたまるけど、どこかが痛くなるとかはないんだけど。昨日はわたしが主体で動いていたから腰がどうも痛い。腰回りと、足が主に。滅多に動かさない筋肉を使ったからなのか朝から身体が鈍く悲鳴をあげている。その様子を目の前で見ていた日和さんは当然わたしがそうなっている原因を分かっているようで。昨日突っぱねずに相手をしたことが功を成したのか、朝から笑顔だったのにはよかったのだが。
漣くんは話を遮ったけど、何となく察したのだろう。遮らなくても細かく口に出すつもりはないから安心してほしい。わたしだって恥ずかしいわ。

「いいっすよ。ナギ先輩、おひいさんとの仕事楽しみにしてましたからね」
「うん、ぼくも凪砂くんとの仕事は楽しみだね!」

凪砂さんと日和さんは夢ノ咲にいたし、仲が良いことは知っていた。ついでに日和さんからも仲が良いことは一方的に聞かされていたので、楽しみにしている様をみるのはまあいい。ただ漣くんが一緒ではないことは機嫌を損ねる部分だったようだ。仕事を振り分けたらしい七種くんに文句を言っている。そんな話を黙って聞いていたわたしに顔を向け、日和さんは「大丈夫」と言った。

「お仕事が終ったら帰ってくるからね。それに明日はお仕事がないから、昼間から授業サボっちゃおうね!」
「サボるのはやめておきましょうね…」
「ええー 変装して買い物にでも行かない?」
「行きません!」

買い物になんて行って七種さんにバレたらわたしの命がない気がする。これまで徹底していた通販で文句はないのでどうかそのままでお願いします。

「つぅか、おひいさん仕事でいないならもう坂内さんは部屋にいてもらう方が早いんじゃないっすか?」
「え!一緒に登校したい〜」
「移動の手間を考えてくださいよ。仕事行く前に顔見りゃいいでしょ」

確かにいちいちレッスン室に行って寮にきて仕事へ行く、となると動線が悪い。本来ならどこにも寄らずに仕事へ向かえるはずが、とんだ足手まといだ。漣くんがいるので寮に来なくても彼の授業が終るのをまってもいいのだけど、休み時間の度にレッスン室に来てもらうのも申し訳ないし。彼だって休み時間を自由に使いたいはず。ここしばらくはわたしのせいで不自由をしていただろうし。彼の申し出にはとても同意する。わたしも誰かを気にせず閉じ籠っていた方が気が楽だもん。

「ううん…でもそうだね。離れがたくなって凪砂くんを待たせるわけにも行かないからね」

てっきり、ヤダヤダ!というと思っていたのだか、日和さんは呆気なく提案を飲んでしまった。頷いてくれていいのだけど、少しだけ拍子抜けした顔をしてしまう。いやいや、まるで駄々をこねて欲しかったとか、一緒に登校するのを望んでいたとかそんなことはないけれど。複雑な心情を言葉にするのは難しい。自分で思っていることなのに、どうしてこう、すっきりと出てこないのだろう。兎に角、今のわたしの心情は複雑だ。

「じゃあ仕事に行く前に顔見せるからね。ちゃんといいこにしててね」

ぽん、と頭に置かれた手を払うこともせず、わたしは大人しく撫でられることを受け入れていた。



彼らはわたしを置いて登校し、昼前に日和さんは仕事へと向かった。宣言通りに寮へ顔をだしだ彼は、どさくさに紛れていってらっしゃいのキスをして。漣くんは授業が続いているから不在であったので油断をした。彼がいないときこそ日和さんの本領発揮だろうに。でも正直、漣くんがいなくてよかったとも思う。ただいまも見られていってらっしゃいも見られてたらお互い地獄だ。
嵐のように日和さんが仕事に行ってから変に疲れてしまったのだが、もうお昼だし食事の準備をしようと身体を起こす。何を作ろうかと簡易的な冷蔵庫を開けると同時に、ガチャリと扉の鍵が開く音がした。ご丁寧に日和さんは鍵を閉めていったし、忘れ物でもあっただろうか?と扉を見ていると、向こうから姿を現したのは漣くんだった。

「え、漣くん?どうしたの」

突然の彼の訪問に驚きを隠せない。昼御飯は学園の方で食べるんじゃなかった?一緒に食べる?なんて頭を過ったが、彼の表情がそんなものではないと気が付いて口を閉じる。
何か大きな袋を抱えてきた彼に黙って視線を向けていると、手にしていた袋をこちらに向けて寄越した。訳が分からない。中身が分からないまま受け取るのを戸惑っていると、彼はため息をついて言った。


「これ、今おひいさんいないんで。逃げるなら今がチャンスですよ」

2020.05.09.
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