25 勢いに任せて日和さんを押し倒したのはいいものの、自分で主体的に動くにはどうしたらいいのか分からなくて固まっていると、したにいる彼に笑われた。取り出して擦りつければいいのだろうけど、なにぶん今まで日和さんとシてきたときには全てわたしが受け身であったのであまり自信がない。この行為に正解や不正解などはないと思うのだが、どこから始めたらいいのやら。 彼のものを触ったこともないし、出来る限り見ないようにされていたし。そう思うと無理矢理されていたものの、舐めたりなんだりはしたことがないな、と思い返す。彼の気遣いなのか、単に主導権を握らせたくないのか真意は分からないが、兎にも角にも「私からする」のは初めてなのだ。 「ん、は…ぁう」 戸惑っていたわたしに、まずはリラックスをしてとキスが始まる。そうだ、いつも大抵キスから始まっている気がする。そうして意識がとろけていってぐずぐずに解されてしまっているんだ。うわ、なにも参考にならない。要するに自分は日和さんの手でどうにかなっているうちに致してしまっている、ということを自覚しただけにすぎなかった。これ程むなしいことがあるだろうか。そんな気持ちを覚えながら熱い息を交わし合う。日和さんはいつもより控えめに舌を絡ませて、うまい具合に気持ちがいいキスしてくれている。 唇が離れて今度は日和さんが私の首から鎖骨、胸に唇を寄せていく。いつもと違って自分で意識をして身体をたてていなくちゃいけないので、与えられる快感に力が抜けそうになるが必死に取り繕っている。そんな私に丁度よく掴めるものがある。そう、目の前の日和さんだ。せっかく彼の膝に座って乗り上げているのに、バランスを崩して自分がしたになったのでは意味がない。彼の肩にしがみついて肌を這う日和さんの舌を素直に感じる。キスをしているときから思っていたが、二人で身体を起こし向かい合っていることのなんと恥ずかしいことか。本当にいつも私は下にいて上から日和さんにされるがままなのだな。 そうして流れるままに服は脱がされているし、日和さんも肌触りの良いパジャマの上は脱いでいるからお互いのからだが火照っているのはバレてしまっているだろう。 「少しは興奮してくれてる?」 「言わなくても、分かってるくせに…!」 「あはは、意地悪いってごめんね?」 胸の頂を吸われる。ご丁寧に音をたててくるから厄介だ。優しくて甘い声が聞こえたと思ったら、やらしい音をわざとたててくる。それで気持ちよさを増長させている自分にも腹が立つ。ああ、もう、どうしてこんな、気持ちいいことを教えられてしまったのか。 触れられる胸の、彼の手のひらも熱い。胸からお腹、足の付け根へと指先が滑っていき、ついに本命の場所に触れられる。下着越しとはいえ自分でもなんとなく濡れていることを自覚してはいるので、触った日和さんはすぐに気づいただろう。 向かい合ったまま日和さんの膝の上で下着を剥ぎ取られる。ようやくお出ましになったといわんばかりの表情で舌舐りをする彼に下腹部が鈍く疼いた。日和さんはもパジャマの下と下着を脱ぐ。いつもより意識がある状態でこうも目の前で脱衣されるとドキドキしてしまう。連れ去られた初日にも彼が服を脱いだところを見て文句を言ったが、今はそれとはまた違った気持ちだ。今まで彼としたことと、これから起こり得るだろうことを想像して心臓が脈打つ速度をあげていく。 「あまりいいものではないから、見なくてもいいからね」 見なくていいと言われても、今から必要なんだから仕方ないだろう。恥じらいはあるもののもう少し自分に可愛げがあったなら、ここで彼に位置取りを任せるというのも手だったのだが。生憎わたしはそこまでの可愛げは持ち合わせていない。むしろ今は意地になっている節がある。 「ぼくが下になるのは初めてだけど、案外いい景色だね!」 「そうですか…」 「あれれ?双葉ちゃんはやる気削がれちゃった?」 「別にそういうんじゃないですが」 ここまで来るのにつかれた。これ普通にしてるのとあんまり変わらないんじゃないか…むしろいつもと違うことしてて逆につかれるやつだったのでは?選択を間違えただろうか。 「乗り上げちゃっていいですか」 「うん、いいよ」 下をじっくり見るのはやめておいて、そのまま日和さんに跨がりなおす。仕方ないので遠慮がちに優しく、ちょっと怖いなと思いながら興奮を示している彼に触れる。あ、硬い。でも思ったより硬すぎない。下着を取っ払っているまま腰をゆっくり下ろしていく。間違えても挿入なんてしないように。ぴったりと陰部同士がくっついたのを感じたあとはぎこちなさが残るまま腰を前後に動かしはじめた。 「…っ」 ああ、これ思った以上にわたしも気持ちよくなりそう。濡れてるから滑りやすくて、前屈みで動かすと丁度気持ちいいとこが擦れる。 「これで平気そう、です?」 「ん、…っあ、うん、そうだね、うん…」 返事のタイミングにタイムラグがあった。どうしたんだろうか、もしや何か違ったかな。素股ってこう、擦るんじゃなかったっけ?期待と違うのなら言ってほしい。折角わたしから日和さんのために動いているのに、彼に不満が残るならしない方がましだ。 「日和、さん?」 「…ああ、思っていたより双葉ちゃんがかわいくって吃驚しちゃったね」 かわいい、なんて言われて少しだけ、ほんの少しだけ気分がよくなる。かわいいと言われて皮肉ととるか、正直に受けとるか、数日前なら迷わず前者だったのだが。日和さんはそういうところはズバッという。彼の言葉の素直さを少しでも知ってしまったから素直に受け止められる。 気分がよくて、感じて気持ちがよくて、もっと快楽がほしくなる。気持ちよくなりたいなんてここに来てからこんなに思ったことなんてないのに。いつも与えられるだけの気持ちよさが自分で手にはいる状況で、思考がおかしくなっていたのかもしれない。私はもっともっと、と感じて粘着質な音が耳に届く度に腰を動かしている。半ば夢中で動いていた私に日和さんは「ねえ」と苦しそうに声をかけてきた。 「気持ちよかった?夢中で腰を動かしてるね?ぼくを使って自慰してるみたい」 「やだ、ちょ…なに言うんですか!」 「間違ってる?」 言われて腰の動きが止まる。図星…だからこそ恥ずかしい。日和さんを気持ちよくするためというよりは、自分が気持ちいいように動いていたのは事実。それを自覚しているだけならいいものの、相手にバレていたというこの上ない羞恥心が込み上げてくる。恥ずかしすぎて消えたい。冷静に考えて、むしろこの状況で動けるなんていったら自分の精神状態を疑うくらいだ。無理、終わりにしたい、お願いだからわたしを見ないでほしい。 「怒ってるわけじゃない、むしろぼくは嬉しいね」 がっしりと腰を掴まれた。止まっていたい自分の意識とは反対に、無理矢理にでも前後に揺らされる。自分で制御せずに気持ちいいところに擦れる快感は乱暴以外のなんでもない。 「んっ、ぁん、ふ…あ、ああッ」 「うんうん、たくさんそうやって、腰動かして…」 段々と上がっていく息遣い。ごくり、日和さんの喉仏が動いたのがわかった。いつも意識しないところで何故か彼の男の部分を見せつけられたようで、熱に浮かされつつある身体がさらに熱を持っていく。ゆるく腰を動かしていいところに当てながら…本当は彼の気持ちいいように動いた方がいいだろうに。それでも彼は嬉しそうにわたしを見ている。だからもういいか、と。自分の欲に少しだけ任せても許してくれるかもしれないと。前屈みになって、彼のお腹に手をついて腰を動かす。 そうやって懸命に動いていると視界に突如と日和さんの手が侵入してくる。そのまま露出し、腰の動きでふるふると存在を主張していた胸を包まれた。意識がどうしても腰を動かすことに向いてしまったことがいけなかったのか、下から伸びてくる日和さんの手に気付けなかった。吃驚して動きを止めるのとほぼ同時に、先ほど舐められていた胸の頂をきゅっと指先でつままれる。 「ひゃうっ!?」 「ふふ、ぼくがもぉっと、気持ちよくしてあげるね…」 「あっ…ひ、日和さん、なにっ、んぁ、ああっ」 「ほら腰は動かさないとダメ」 前屈みになっているから彼には触りやすい位置にあるのだろう。彼の手で形を変える胸にぐっと口をつぐんで腰を動かす。ただ彼が触れる胸だけじゃなくて、自分で腰を動かして気持ちよくなっているところもあるから噤んだ口の端から声が漏れ出てしまうのは必然。奥歯を噛み締めながら動かしているが、さっきよりも滑りがよくなっているみたいだ。下手をするとぬるりと粘着質な液と勢いで挿入してしまいそう。 「ん、んっ…このまま、なかに入っちゃいそうだね…っ」 「やぁ、やだっ いれるならゴムして、くださいぃ」 日和さんもはいりそうなことに気が付いたのか、少しだけ下から腰を浮かせてくる。勝手に動かれるとこちらで勢いを加減をしているのに意味がなくなってしまう。というか動きに息が合わなさすぎてうまく擦れていないんだけど。 「はあ、…動かないで、っん、ください……ね?」 「…じゃあ可愛くイって」 「ひ、ああッ やぁ、んんっ」 彼の手が今度は下腹部に伸び、自分でも擦り付けていた突起を指で押し潰される。ぐにゅりと粘液を絡ませてくるから簡単に弄くられてしまう。与えられる刺激に腰がゆらゆら揺れながら、間接的に日和さんにも刺激を与えてはいるけれど。 ああ、もうだめだ。いくら喘いでもダメだといっても日和さんは指を退けてくれない。逃げ切れないまま快感が全身に響き渡る。がくがくと腰を震わせながら、抑えきれない声が口から漏れた。 「っは、ぅ…あ、はあ……」 うまく身体に力が入らない。甘い快感に痺れて自分の身体をまっすぐに保てない。腕にも力が入らず、がくりと力が抜けて下にいる日和さんの胸に飛び込むところだった。とっさに身体の横に肘をついて、全身倒れ込む最悪の事態を防ぐ。勢いづけて重力に従うまま倒れなくてよかった、とぼんやりした頭で思う。さすがに力ない人間の上半身を勢いのまま受けたら日和さんも軽傷で済まないかもしれないし。 なんて息切れを起こしたまま一人で考えていると、下の日和さんがわたしの肩を掴んで起こした。 「ごめんね、ぼくもイきたい」 ちらりと見えた彼の瞳は、いつにも増してギラギラしていた。優しい顔ではなくて、でも怒っているわけでもなくて、さっきのわたしを可愛いといった穏やかなものでもない。目の前のわたしを…女を求める男の瞳だと、直感した。 身体を起こした日和さんに驚き戸惑っていると、いつの間にか視界が反転している。快感を得たわたしの身体は未だにいうことがあまり効かなくてされるがまま。どうにもできないままうつ伏せにされ、後ろにいるだろう日和さんにお尻を掴まれている。にゅる、と絶頂で濡れている私の股に未だ硬さを保つ日和さんが擦り付けられる。まさかそのまま挿入するんじゃないかと後ろを振り向けば、彼は「心配しなくても、いれないからね」と私の頭を撫でた。ゆるゆると粘液を擦り付けるように、だけど挿入はせずに動かしている。回らない頭で必死に考えていると、ああ、これも素股のひとつか、と大分遅れて結論が出た。 「足…挟んで、ん……そう、上手、だね…」 彼にいわれるがまま足を閉じる。股に挟むような形で日和さんを閉じ込めれば、その柔らかさを利用して前後に動いた。ぬちぬちと粘着質な音が先ほどよりも耳につく。時折突起に擦れてくるから、気持ちいいのが終わらない。 「あ、あぅ、んんっ…あ、」 「っふふ、結局…ぼくが動いちゃってるね…君が折角、ン…動いてくれたのに」 挿入はされていないけれど、これはもう後ろからされているのとほぼ同義。端からみたら完全にセックスだ。最初からセックスしてるのと変わらないことをしていたが。実際に挿入されていてもいなくても関係ない。 こうなるなら大人しく日和さんのされるがままになっておけばよかった。じゃなかったら自分で気持ちよくなることだってなかったし、恥ずかしい姿だって見せなくて済んだし、いつも以上に疲労がでそうだ。ああ、もう、結局はこうなるのか。直近の二日間が例外だっただけなんだ。 「かわい…っはあ、双葉ちゃん…っ双葉ちゃん…!」 私の股の間に必死になって腰を打ち付けて気持ちよくなろうとしてる。彼の表情は見えないけれど、後ろから聞こえる声と荒くなっていく息遣いでイきそうになっているのを察した。名前を呼ばれて胸の奥がくすぐったくなる感覚を覚えながら、彼がちゃんと気持ちよくなるように少しだけ足に力をいれる。きゅ、と閉じた足が鍵となったのか、日和さんが股の間から出ていく。と同時に後ろから彼の低い唸り声が聞こえて、お尻に暖かなものがかけられた。 少し早い彼の呼吸と、ぬちゅりという粘着質な音が小さく聞こえる。彼がイったことと、吐精したことを理解した私は完全に身体の力を抜いてベッドに倒れ込む。 挿入しなくても彼がイったという事実に小さく身体を震わせながら目を閉じる。結局彼が動いたし、どう転んでも疲れない選択肢はないのだという学びを目を瞑りながら頭のなかで繰り返した。 2020.05.03. |