Love call me.


20



目が覚めると目の前にアイドルがいた。といってもここ数日、毎日目が覚めると目の前にアイドルがいましたけどね。


「…おはようございます」
「おはよう、ちょっと悪い日和」
「起きて早々機嫌が悪い…」

私はまだ意識がぼんやりとしている部分があるので、返答は少しゆっくりだ。だけれどわかる。日和さんの機嫌がよくないことくらい。昨日の朝はご機嫌だったのになあ。
ぷくっと頬を膨らませている日和さんは不機嫌を隠すことなく表している。そんな顔をしたまま、ずっと私の寝顔をみていたのだろうか。というか分かりやすすぎるでしょう。取り繕うことなく彼らしさが全開なのはいいことなのだろうけど。

「昨日、寝ちゃったんだね」

多少しょんぼりしたような、落ち込んでいるような。日和さんはとても残念がっている様子。だけど心なしか顔色は良さそうだ。体力を使わず就寝した影響だろう。今は疲れも滲んでおらず、よかったと心の中でホッと息を吐く。

「言ったじゃないですか。お疲れでしょう」
「ぼくは双葉ちゃんといちゃいちゃしたかったのに」

十分いちゃいちゃしてたと思うんですけどね…?べったべたにくっついてたのにあれで足りないのか。今だって身体を起こさず二人、ベッドに横たわったまま向かい合っている。手を伸ばせばすぐ届く距離にいるし、声だって小さいままでも耳にできる。いちゃいちゃはしていないけど密着してる分わたしはこれ以上はご遠慮したい。

「私は夜にぐっすり寝れて、とてもいい日和です」

数日ぶりにちゃんと夜に寝た。睡眠欲はほどよく満たされている。疲労が完璧になくなったわけではない、けれど夜に眠れたという事実は精神的に朗報だった。だからこそ日和さんに対して反発した発言が出来てしまうわけなんだよなあ。

「え…かわいいこというね…」
「どこがどうそう思ったんですか?」

とても嫌味に近い感じで言ったんだけど?貴方がよく口にする言葉を拝借して…あ、それがヒットしたのか。自分のよく口にする言葉を私が口にしたからその反応なんですね。日和さんの琴線に触れてしまったことに何となく納得してしまいながら、横にいた彼が覆い被さるように抱き付いてくる。

「かわいい!双葉ちゃんかわいいね!」
「うぐっ…」

そこまで喜ぶことだろうか。やはりこの人の感覚はわからない。というか他人の思考がそう易々と分かってしまうなら人生苦労はしないか。それができるのならアイドルの魅せ方にも演出の仕方にも苦労はしない。とすると彼のことが分からないと感じるのは何らおかしいことではないのだろう、と思っておく。

ぎゅうぎゅうと彼の胸に顔が押し付けられて息が苦しくなる。いつもなら隔てるものがないのだが、昨日はお互いルームウェアを着たまま就寝したので間に二枚布がかんでいる。私が着ているものも着心地がよく肌触りがいいのだが、この顔に押し付けられている日和さんの着ているルームウェア…いや、パジャマか?なんて肌触りのいいんだろう。絶対安物ではないし、もしやハイブランドの物かもしれない。こうして触れて実感すると益々ハイブランドという現実味が帯びてくる。
ちなみにわたしのルームウェアは女の子に人気の某お店のものだった。かわいいし、もこもこだし、日和さんが選んだ可能性が高いのだがとてもいい。かわいいのだが購入するにも奮発するぞ!くらいの気持ちがないとなかなか手が出せなかったので、思わぬかたちで身に付けられたことに少しだけ嬉しく思う。
抱き締められて息苦しいが、くっついてると暖かい。朝もまだ早い時間で部屋の空調は効いてはいるものの、冬の朝は寒い。くっついて肌触りのいいウェアを身に付け、ぬくぬくとすると再び眠気が襲ってきそうだ。ぼんやりと彼の腕に身を任せるようにしていると、なんだか手つきが次第に怪しくなってきた。ただただ抱き締められていたはずがいつの間にか足を露出され、腰を撫でられ、日和さんも静かになっている。

「…まだ朝早いから、一回しておく?」
「いやいやいや!?」
「大丈夫、今日はお仕事があるし授業サボっても問題ないねっ」

眠気が襲ってきそうになっていたことなど吹っ飛んだ。昨日しなかったからって、朝からする選択肢があります!?そりゃ沢山寝たから元気でしょうけど、その元気お仕事に回しましょう!?

「なーんて。されると思った?」
「今までの経験からして問答無用でされる展開でしたよね?」
「残念だけどしないからね」

本当に残念そうに、眉を下げてため息を吐く。露出させていた足を戻して頭を撫でられた。

「でももうちょっと、ベッドのなかで過ごさない?」

大きな手が心地よくて目を瞑って大人しく受け入れてしまう。綺麗でかわいい部類なのだろうけど、イメージとは違って身長もしっかりあるし手が大きいし、こうして私を抱き締めたりするとすっぽりとおさまってしまうあたり、日和さんはちゃんと男の子なんだと意識する。散々いろんな意味で彼が男であることは身をもって知ってはいるが、こう、なんていうか、何気ないことでも感じてしまうようになった。女性性を謳うEveだけど、ちゃんと中身は男の子。きらびやかな面だけじゃなくて、内面も少しだけかじってしまったが故に余計に感じるもの。広い肩幅も、小さく動く喉仏も、時折低くなる声も、私を愛おしそうにみる瞳も、攻め立てる言葉も。目の前のこの人はアイドルであり一人の男なんだ。
一介のプロデューサーがそんなところを身をもって知っているのもいかがなものかと思うが、日和さんに言わせれば今のわたしはただの「巴日和の所有物」。夢ノ咲の生徒ではない、プロデューサーでもない、ただの坂内双葉という名をもった所有物だ。今のわたしならそんな巴日和を知っていてもお咎めはない、はず。
でもなあ。今のこの状況を甘受しているわけではないしなあ。むしろ抗いたい気持ちもあるからなあ。そう思っていても現状は変えられないし、日和さんのモノである状況はどうしようも出来ないのだけれど。

「わ、ちょっ どこ触ってるんですか!」

真面目に冷静に大人しく脳を働かせていると、日和さんは懲りずに身体を触ってきた。おおよそ大人しくなった私につまらなくなったのか、楽しい反応が見たかったのか、そんなところだろうけど。吃驚して声をあげてしまったが、日和さんは楽しそうに微笑んで胸を揉んでくる。服越しとはいえ大胆にも鷲掴んでくるものだから呆気にとられてしまった。

「双葉ちゃんの胸、柔らかいね〜」
「しないんじゃなかったんですか!」
「触らないとも言ってないよ?」

ああ言えばこう言う。確かにしないとは言ったが触らないとも言っていない。ついでにいうと最後までするかしないか、途中まではするのか、どこまでするしない…など細かいことは言っていなかったので、日和さんに言い返すことが出来ずに唸る。

「うう…」
「言い返せないね?ふふ」

こうして漣くんがなかなか起きてこない私たちに鬼電をするまで、ベッドのなかでのいちゃいちゃ攻防は続いたのであった。

2020.04.07.
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