Love call me.


17



目が覚めるといつもの通り同じベッドに日和さんがいた。私の寝顔を見ていたようで、寝ぼけ眼の私の髪を優しく解く。そのまま頬に触れた手つきは今までの何倍も柔らかで別人なんじゃないかと思うくらい。「かわいい寝顔だったね」と囁くような声はどこか色っぽくて、何言ってるんですかとか、寝顔なんて見ないでほしいとか、返事をする前に鼓動がうるさくなった。朝一番から心臓に悪いのでやめてほしい。「やめてください…」と言った自分の声が思ったよりも女らしい声で驚いた。返答に気分がよくなったのか日和さんはふふん、と笑いながら起き上がる。私も続けて起き上がり、着替えて支度をしなくては。
昨晩はまさかの優しいえっちをされる展開に混乱していた。だってここに来てからの性行為は日和さんの一方的なものだったのに…昨日はなんだ。ただ快楽を目指すだけのものではなかった。私を気遣い、突き放すようにして興奮を与えられることもなく、優しく手を取り合って進んでいったような感覚。夢じゃないかと思ったけど、それならこの疲労感はない。絶対現実です。

着替え終えたら隣の部屋で朝食を食べるために移動をする。何だか日に日に慣れ始めている玲明学園の制服に身を通した私自身。日和さんは私の制服姿を見るたびにいい笑顔をするんだよな。そんなにこの制服姿、いいかな。よく分からない。所有物的な感覚を覚えるのだろうか。
隣の部屋では漣くんが待っていて、テーブルには食事が並んでいた。そこそこバランスのいいものたちで美味しい。最初はビクビクしながら手をつけていた食事。今でもいい食材使ってるんだろうな、と思うが、最初よりはスムーズに食べられるようになっている。

「おはようございます。もう少ししても来なかったら起こしに行くとこだったんすよ」
「えー ジュンくんが来たら大変なことになっちゃうね?」
「その話題、私に振ります??」

大変なことというか…別に日和さんはよくないですか。大変なのは脱がされて下着姿の私では?あ、だから私に振ったのか。大変なものを見ることになるだろうなあ、と思い、でもそれを口にするのは些か勇気がない。どうしようか迷った末、「何を見ても驚かないなら」と言うと漣くんは「…ゼッテェ起こしにいかないんで」と答えた。何か想像したんだと思うけれど、なにしろいい判断だと思う。絶対起こしに来ないでね。お互いを守るために。
とりあえず三人席について「いただきます」と挨拶をして各々食べ始める。やっぱり美味しい。食欲がなかった最初の頃より食べられるようになったなあ。普通の量に戻っただけなんだけど、お腹が減るようになったのは環境に慣れてしまった部分もあると思う。悔しいけど慣れなければストレスにしかならないから、慣れたくないけど慣れていかなければ。

「そういや坂内さん、食べられるようになったんすね」
「…んー、お腹は減るようになったかな」
「いいことだね!いっぱい食べて大きくなるんだよ」
「私は子どもか…。まあ美味しいので、食べないと勿体ないし」
「作ってる身としては食べてもらえるのが一番っすけど」

…ん?作ってる身として?聞き間違いか?漣くんを見ると彼は特別可笑しな顔はしていない。むしろ私の方が吃驚して可笑しな顔をしていると思う。

「えっ これ漣くんが作ったの?」
「はい。…え?」
「今までのごはん、お店以外は全部ジュンくんの手作りだよね」
「そうっすね…?」
「え???」

素材がいいし、バランス考えられてるし…野菜も果物も大抵あるし…日和さん宅からの提供だと思ったんだけど違うんだ。というか漣くん、料理スキル高くない!?最初はそんなに食べれなくてごめん…今は沢山食べるから許して。

「いつも美味しいごはんをありがとう…」
「改めて言われるとなんか変な感じするんで止めてください」
「そうそう。いつも作ってるんだし、双葉ちゃん一人増えたところで変わりないね」
「おひいさんが言うことじゃないっすよ」

思わずお礼を言ってしまった。というか漣くんがいつも食事作ってるって大変だけど有り難すぎる。日和さん、もっと漣くんに感謝しなきゃダメですよ。こんなに美味しいご飯作ってくれてるなんて!私もこれから拝んでから食べることにしよう。ここ最近拝むことが増えたな。
話をしながら食事を終え、今日も二人は仕事に出掛ける。昨日今日と休日なので一日かけての仕事が入っているようだ。メディア展開に長けているコズプロらしい。私も昨日と同じく付き添いが強制のようなので支度をしようと立ち上がると、いつも感じない浮遊感が襲う。足に力が入らずガクリと体制が崩れる。あ、やばい。

「わっ」

倒れる、と思った瞬間、すぐそばにいた日和さんが私の身体を抱き止めた。お陰で倒れなくて済んだけれど、結果日和さんに抱きつく形になってしまった。まだ脚にうまく力が入らなくて寄り掛かったままだ。すみません、重いでしょう。早く退きたいんですけど出来なくてですね。

「平気?怪我してない?」
「へいき、です…ビックリした」

吃驚してパチクリと瞬きをする倒れた私を見て漣くんが眉を潜める。支えてくれた日和さんは今回は何事もなかったけれど、下手をしたら一緒に倒れ込んで怪我をしていたかもしれない。アイドルを危険な目に合わせるなんてって怒られてしまうかも…そう覚悟を決めていると。

「おひいさんが無理させ過ぎるからじゃないっすか」

まさかの私ではなく、日和さんが怒られるやつだった。なんてことだ。そりゃ確かに毎晩しているけれど。漣くんもしっかりと認識している事実を口にされると凄く気まずい…はずかしい…。いや、最初からそうだったし何なら察する視線も頂いていたから分かっていたことなんだけど!数日過ごしていて改めて漣くんにバレているのが恥ずかしい。
勝手に日和さんの腕のなかで恥ずかしがっていると、頭上から大きな溜め息が聞こえる。

「今日はお留守番だね。残念」

え?お留守番?わたし置いていかれる?
何も答えられず頭上に「?」を浮かべているわたしを、日和さんは黙って抱き上げる。まさか支えてもらっていた上に抱き上げられるとは思っていなかったので、頭上に浮かべるのが「?」から「!?」に変わってしまう。抱き上げられた理由も分からないままでいると、日和さんは隣の部屋へと足を運んだ。先程まで二人で寝ていたベッドの縁まで来ると、わたしを下ろして座らせる。

「身体を休めておくんだよ、いいね?」

かちゃりと音を立てた首もと。下を見れば首には昨日外したチョーカーがつけられていた。そういえば出掛けるときに外したっきりで、夜はつけずにいたのだったなと思い出す。一日ぶりのチョーカーに指を這わせると、日和さんががしりと頭に手を置いて撫で回してきた。さすがに撫ですぎだろうというほど撫でていると、ぱっと離される。

「いってくるね」

あっさりと今日の同行を引き下がった理由はわからない。昨日みたいに問答無用で連れていくのだと思ったのに、今日はどうして。離れていく彼の後ろ姿を何も言えずに見つめる。だって何て言っていいかわからないの。何を言いたいのかわからないの。引き留めたいのか、連れていってほしいのか、他の何かなのか。わたしの視線に気が付いたのか、日和さんはひらひらと手を振った。そんな彼に手を振り返すこともできず、扉を閉める日和さんの哀しげな瞳に私は暫く動けずにいたのだった。

2020.03.11.
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