Love call me.


14



「茨、おまたせ」
「閣下!準備が整いましたか?」
「うん」

奥から出てきたのはAdamのリーダー、乱凪砂さん。そういえば合流した時点から姿がなかったけれど、どうやら衣装に着替えていたらしい。Eveのふたりは爽やかな印象のものだったがAdamは大人の雰囲気を纏った衣装のようだ。七種さんは既に着替えているし、二人並ぶとEveと比べてぐっと雰囲気が変わる。EveとAdam、それぞれ特色の違うユニットなのに、Edenで一緒になると違和感がないのは本当に不思議だ。そういったものも計算されているのかもしれない。七種さんすごい。

「自分、ちょっと席をはずします」
「いいの?双葉さんは」
「ああ…撮れたものを見に行くだけなので、二人でここにいてもらえれば平気であります!」

敬礼!七種さんはそういって私と凪砂さんの側から離れていく。残された私たち二人は共に七種さんの姿を目で追っていた。そういうことで二人でEveの撮影と七種さんの帰りを待つことに。凪砂さんは私との距離を少し空けながら、そっと隣に立つ。
メディアに露出している凪砂さんはもっと雄々しい感じだが、こんなにもカメラが回っていないと落ち着いているのか。衣更くんに聞いたときは威圧感があるとか言われた気がするんだけど…今は威圧感の「い」の字もない。むしろほやんとした表情で隣に立っているので空気がほわほわしている。若干失礼かもしれないことを考えながら、隣の凪砂さんを盗み見る私。視線に気がついてしまった彼は私の方をみて「どうしたの?」と声をかけてきた。

「あの…今日は突然日和さんに付き添うことになり、すみませんでした」

せっかく話せる機会なので、と咄嗟に口に出た話題がこれだった。そもそも本日挨拶をしていないのでそれを兼ねて。今回の件は私が謝ることではないとは思うのだが、メンバーの側にいつもいない人物がいれば多少なりともストレスになるはずだ。当人であるので一応謝罪はしなくてはいけない。


「聞いてるよ。日和くんの恋人なんだって」

まさかの返答!誰に聞いたんですか、その情報。誤報にも程がある。というかその言い方からして日和さんから聞いているのかもしれない。アイドルの恋愛スキャンダルは大変厳しいものだし、コズプロの人気アイドルのスキャンダルを七種さんが野放しにしているはずもなく。誤報元は日和さんか七種さんだろう。だがスキャンダルになるネタを七種さんが伝えるはずがない。高い可能性で日和さんからだ。何してくれてるんだあの人!

「いや……そういうわけでは…ないんですよ…」
「違うの?恋人は側におきたいものだって日和くんがいってたから、そういうものなんだと思ったのだけど。なら恋人ではないのにどうして側にいるの?」

ほらみたことか。日和さんからの情報に間違いないだろう、これ。誤報に次いで難しい質問されてしまったんですけど!んんっ…今回のことは一から説明するのが難しい。何より私の事情と、日和さんの事情のすり合わせをしているわけではないから。あとは日和さんの内情を私は知らない。憶測で説明しても無理だろうし。
私側の説明だけをするならば…様々な事情がある。不可抗力なこともある。理不尽な状況なんだと言いたい。等々が挙げられる。だがしかし、この場合は何を選択したらいいのか。悩んでいる私をじっと凪砂さんが見ている。やばい綺麗な人にこんな見られると焼け焦げてしまう錯覚に陥る。お願いですのでそんなに見ないでください。

「…わたしも、わからないです。どうしてでしょう」

返答を待つ視線に耐えきれず、自然と零れた言葉は何の説明にもなっていない。むしろ質問を質問で返すという事態。やってしまった…と冷や汗が背中を伝うが、当の凪砂さんは特に返事をすることなく、撮影を終えカメラマンと七種さんと共に撮れた画像を確認しているEveの二人に視線を向けた。

「日和くんのことは、すき?」

すき。その言葉に頭をガツンと殴られたような衝撃。凪砂さんは率直に「恋愛的な意味合いのすき」かどうかを問うた。いやもしかしたら「人間として」かもしれない。親愛的な意味合いのすきなのかも。逆に言えば、私はどういう意味で日和さんを……。考えて一瞬思考が停止する。私、…わたしは日和さんが、すき、なのだろうか。不本意な現状にしている日和さんを私は。
凪砂さんが「双葉さん?」と私を呼ぶ声で現実に戻される。問いかけに対してなにか返答をしなければ。しかし嫌いと答えるには何か違う気がして、かといってすき…すきとは断言できない…。はっきりとした答えは出せないけれど、今はとりあえず。

「う、うーーんと、今模索…しているところ?です」
「そう」

凪砂さんの質問に何も答えを導き出せない。わからないとか、考え中ですとかの回答しか出せない自分に、自分自身がわからなくなる。こんな私の回答で凪砂さんは納得するだろうか。というかわたしは凪砂さんとこんな話をしていて大丈夫なのだろうか。チラッと横目で彼をみれば、彼は真顔で私をみていた。ちゃんとした回答を出せない私に怒ってしまっただろうかとガッチガチに構えれば、凪砂さんは柔らかな視線に変化する。

「双葉さん。日和くんをよろしくね」

今までの会話のなかでどうしてそのような言葉が選ばれたのかが分からなかったが、とりあえずガチガチの私は「は、はあ」という間抜けな返答しかできなかった。
端からみれば私と凪砂さんは見つめあっているように見えるだろう。だがそこに熱っぽい雰囲気などはない。鋭いなかに柔らかさをもった凪砂さんの視線で私が固まっているだけだ。自分からその視線を反らせず、とにかく誰かどうにかしてくれないだろうかと思っていると身体に鈍い衝撃が走る。横からのそれに驚いていると、知った香りに包まれているのに気がついた。

「双葉ちゃん!ちゃんと見てた?ぼくはやっぱりいい被写体だねっ」

衝撃の正体は日和さんだった。撮影が終わったらしい彼は衣装はそのまま私に突進してきたようだ。ぎゅうと私を抱き締める光景に周りはどう思っているのか。そういうこと現場でするのよくないと思いますよ、人気アイドル。というか私、ここ数日でよく鼻にする彼の香りを覚えてしまったな…。

「みてましたよ。アイドル〜って感じしました」

凪砂さんの前でこんなことしてたらさっきの恋人じゃないと否定したことが嘘になってしまう、と気が付いた私は日和さんを必死に剥がした。意外と時間がかからずに日和さんは私を抱き締める腕を解く。にこにこと、日和さんの機嫌を損ねないように表情はにこやかに。

「ぼくはアイドルなんだけど?」
「そうなんですよね〜!」

馬鹿丸出しの返答をした、と自分でも思った。とまあ日和さんを引き剥がせたので良しとしよう。やっばい、このあとどうしようと焦り始めると、何と凪砂さんが助け船を出してくれた。

「日和くんお疲れさま」
「双葉ちゃんを見ててくれたんだね。凪砂くん、ありがとう」

凪砂さん神様か。拝み倒したい。と心のなかで拝もうとすると、日和さんが「じゃあ凪砂くんもいっておいで」と撮影に送り出してしまった。凪砂さんは迷いもせず向こうで待つ七種さんの方へと歩き出す。ああ、撮影中ずっと拝ませてください。凪砂さんと入れ違いに漣くんが向こうからやってきた。

「おひいさん…ちょっと、走らないでくださいよ」
「だって早く双葉ちゃんのところに来てあげた方がいいでしょ?」
「はあ、まったく」

疲れた様子の彼と目が合えば、あははと私も同じように疲れた目で笑った。お疲れ様です、撮影も、日和さんのお世話も。
今度はAdamの撮影をEveの二人に両隣を陣取られながら見学する。先程よりも少し大人っぽい、シックな空気を醸し出しながら撮影は順調に進んでいく。二人の撮影が終われば短時間でEdenの四人で撮影だ。そのあとに取材をしている彼らと現場を見学となる。いつの間にか時間は大幅に過ぎ去っていて、私の現場見学という名の日和さんの付き添いは陽が橙に変わる頃に終了した。

2020.03.01.
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