Love call me.


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撮影をしている日和さんと漣くんを見ていた。ここ数日過ごしていて実感がないのと、普段からいい顔いい素材のアイドルと学校生活を送っているから感覚が麻痺しているのかもしれない。二人はアイドルで、多くのファンがいて、幸福を与える存在なわけで。輝かしい二人をみて胸がざわつく。そんな私の心情を知らず、隣の七種さんも進んでいく撮影をみている。

「…日和さん、本当にアイドルなんですよね」
「は?まあ我がコズプロが胸を張っていえるアイドルです!…いや、貴女だって周りにいたでしょう」
「あはは。いましたね」

言い表せないモヤモヤとした感情を消したくて、ぽつりと呟いた言葉。それを拾ったらしい七種さんは律儀に返答をしてくれた。確かに夢ノ咲で周りにアイドルがいたけれどまた別のはなし。私を連れ去って、自分のモノにして、そんな振る舞いをしている日和さんも変わらぬアイドルなのだという自覚をする。サマーライブも見てたしSSだってみてた。レッスン室での様子も見ていたけれど、ようやく自覚をしたという感じ。

「自分、まさか本当に殿下がモノにするとは思いませんでしたよ」

視線は撮影をしている二人に向けながら、七種さんも呟くような声量で話す。というか彼の解釈するところ、私は彼のモノ…所有物的な意味か、恋人的な意味かはこの際置いといて…に納得をしているとみているようだ。実際は全くの真逆なんだけど。

「了承してここにいるわけじゃないんですけど」
「おや?なら逃走という手段はとられないのですか?」
「手荷物とられたままなんです」

流石に個人情報の入った荷物を置いては帰れない。七種さんは「なるほど」と言わずとも中身を理解してくれたらしい。そもそも身一つで帰るにしても帰り方が分からないし、お金がなければ公共機関も利用できない。逃げられたとしても詰む結果にしかならないのだ。あとは逃げたあと、また捕まってしまったら今度こそ終わりだという恐怖がある。簡単に、軽率に逃げるなんて行為、私にはできない。

「坂内さんは今の状況を受け入れておられるのでは?」
「そんな訳ないじゃないですか。嫌ですよ」

逃げることさえしなければ衣食住が備わっている現状。しかし身の安全の確保ができるとはいえ、自分の身を差し出しているわけであって。好きの感情がない状態で事に及ばれるということにダメージを受けていないはずがない。何度もいうかもしれないが、彼から向けられる気持ちがあったとしても、こちらからは無かったのだから。
ここ数日の怒濤の出来事を思い出してみてげんなりする。想像もしていなかったことが身に降りかかっているな、と改めて感じ、ため息を吐いた。本当、自分がほしいと言われて拐われて手込めにされるなんて実際に体験するとおもう?漫画の中の出来事にしか思わないし、現実で起こりうるなんて思ってもみないじゃん。

「別に嫌な顔をしているようには見えませんが」
「え…」
「自分としてはもっと拒否をして寄せ付けない雰囲気をだしていると思っていたので。驚きましたよ、普通に話が出来るんですねえ、自分を拐った相手と」

確かにもっと拒絶をすればよいのだろうけど、価値観や考え方の違う日和さんの話を突っ込みなしに聞けやしない。それに拒否をすればするほど、なんだか彼はもっとしつこく言い寄ってきそうな気がする。そっちの方が面倒くさそうだ。どうしてか拐って、暴いて、自由を奪っている相手と普通にしていられるのか、自分でもよくわかっていない。最初こそ反抗しようとしたが、数日経って感じ方も変わっている気がする。七種さんの言うところは恐らく「理解不能」だということなのかな。自分でも理解不能なんだけど。嫌味のように言ってきた彼の言葉を素直に受け取っていいのか迷うところだ。これは関心をされているのか、言葉通りに刺のある嫌味なのか。

「ありがとうございます…?」
「どこも褒めていません」
「神経が図太いと思われたのかなと」
「ええ!まあ!そうですね、そうとも言います!」


この反応は恐らく嫌味だったのだろう。理解できない上に、自身のユニットメンバーのことだからあまりよくは思っていないはず。最初は私をどうこうする日和さんの意見に反対だったようだし。Edenのプロデュースをしているのは七種さんだと聞いているから、そういう立場的にもメンバーの不祥事などは極力避けたいだろう。
というか理解不能の神経図太い、はよくよく考えると日和さんにこそ言えるのではないかと思ったが、もう面倒くさくて言葉は返さなかった。

いつぞやの夜、日和さんは彼の思う愛を与えると私にいった。いつもの自信満々の表情とは違う、少し寂しげなあの顔を私は忘れられていない。あの表情を思い出しては彼を拒絶するなんて選択肢を選べるわけがないのだ。何故だか否定をしたくなくて、私が否定をして拒絶をしてしまったら彼はもっと酷い表情をするのではないかと根拠のない確信があるから。何の根拠もない、思い込みかもしれない、だけどそれを現実にしたくないという気持ちが私の中のどこかにあるからこそ、彼の側から逃げるという思いきった選択ができないのかも。思ったよりも彼に毒されてしまっている自分がいる。この数日の間で、私を作り替えられてしまったみたいに。
なんて自分の頭で考えているとそろそろ二人の撮影も終わりの雰囲気を醸し出した。しばらく撮っていたな。沢山撮ったなかでも使われるのはほんの数枚なのになあ。現場での仕事って、そういうもの。プロデューサーとして意識をすればここは悔しくなる場面なのだろうが、今の私はプロデューサーとしてここにいるわけではない。巴日和の付き添いで、ただ現場の見学をしている学生なのだ。

2020.03.01.
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