Love call me.


08



朝から機嫌はよくない。当たり前だ。好きでもない男とえっちしてご機嫌なやつがいるか。加えて数時間に渡って散々弄ばれたのだ。寝る時間はあったけど体力も疲労も回復しきれていない。怠い身体に鞭を打って起きたのが現実。普段のプロデュース業も鞭打ってると感じるけど、それとは別物。

「…………」

目の前に並ぶご飯は朝からそこそこ豪華なもの。さすが財閥の息子の通う学園、というか特待生だからの方が理由が強いだろうか。でもアイドルだからか高カロリーなものばかりではなく、ちゃんとバランスも考えられている。そして一つ一つの素材がいいとよくわかる。何か色つやがいい。簡単に手出しできない素材だなと感じて手がだしにくい。

「機嫌悪いね。ぼくはとってもいい日和!なのに」
「悪くなるに決まってるでしょ…」
「むっ なんでジュンくんはわかるの」
「普通にしてたらそういう意見になります」

カチャカチャと食器を鳴らしながら朝食を食べる二人。わたしとは正反対に機嫌が良い日和さん。朝からわたしの不機嫌さとげっそりしたの見て色々と察したらしい漣くん。普通の考えが分からないのか、分かろうとしないのか、日和さんは「どうして?」と首をかしげる。まあ…貴方はご機嫌じゃないとおかしいでしょうね。

「というか坂内さん食欲あります?」
「ご飯はちゃんと食べないとダメだね!双葉ちゃん、昨日の夜もそんなに食べてなかったのに」

精神的なものだろうか、あまり食欲がわいてこない。けれど昨日の夜も軽食で済ませているし、昨夜は体力を消耗させているから体力を取り戻すには何かを摂り入れないといけない。仕方がないと諦め、日和さんが差し出したお皿のものを口に入れて噛み締めた。摂取し出したわたしに満足したのか日和さんは笑顔で食事を再開する。
日和さん…と、彼を自然に呼んでいるのは、昨晩散々口にさせられたからだ。彼の努力の賜物といってもいいだろう。巴さん、と呼ぶ度に「名前は?」としつこく返され、日和さん、と呼べば褒めてくれるという、躾さながらのことをされていた。快感で思考を放棄させられながら呼び方を修正されるという出来事が現実で自分の身に降りかかるとは。思い出すだけで羞恥に苛まれる。


「双葉ちゃん」

ドキリ、日和さんに名前を呼ばれると正直吃驚する。昨日は自分もたくさん名前を呼ばされたけど、彼も彼でわたしの名前をたくさん口にしていたことが思い出されて仕方がない。その声のなんて甘いことか。砂糖が全身にかけられ、溶けて侵入してくるような、重くしっとりとした感情をのせて。加えてかわいいやら何やらをつけてくるので恥ずかしいったらない。冷静に考えて、あの時のわたしはおかしかった。

「坂内さん?」
「……え?」
「もう、聞いてなかったの?ぼくが折角教えてあげてたのにねっ!」

腕を組んで怒っているらしい日和さん。漣くんに呼ばれて二人が私を見ていることに気がついた。日和さんの言い方的に今、彼が何かわたしに話しかけてくれていたんだろう。昨夜の回想を頭に巡らせる流れになっていたところで引き戻された。

「今日は仕事がないから普通に登校するよ。とりあえず昨日のレッスン室で授業中は待っててね。中休みとお昼にはちゃんと顔出してあげるから」

昨日のトイレのことを踏まえてなのか、レッスン室に収容されるが頻繁に様子は見に来てくれるらしい。日和さんだけでなく、漣くんも場合によっては来てくれるとか。

「…………」
「すんません、返事だけでもしてやってくんねえっすか。おひいさんの機嫌も悪くなるんで」

というかそれ、わたしが一緒に登校する意味ある?レッスン室に閉じ込められるなら、確実に生活用品のあるこの寮の一室に閉じ込められていた方が格段に快適なんだけど。拐われている身で快適さを求めるのは如何なものだが、この部屋に閉じ込めておけば一先ずトイレの心配もないし、二人はわざわざ休み時間に様子を見る手間も省けるだろう。そこまでして私を学園につれていく意味って何?

「私も行くんですか」
「行かないとひとりぼっちだよ?」
「行っても一人にされるのに??」

どこにいても一人にされるんだったら生活感のある方を選ぶでしょ!!何でわざわざ知らない学校のレッスン室に閉じ込められなきゃいけないんだ。

「寂しいの?」
「寮の部屋にいた方が快適だなと」

と、素直に答えると日和さんの表情が怒に近くなった気がした。「いや〜一人にされると寂しいですね!だって一人ですもん!!」勢いでそういうと日和さんは「そうだね!」と機嫌を良くした。我ながら咄嗟の判断で切り抜けるの凄くないか。ほっと胸を撫で下ろすと、漣くんは若干引いた目で私を見ている。だって機嫌を悪くさせない方がお互いの身のためだと思うんですよ。わかってくれるでしょ。

「というか、そもそも部外者がいっていいのかってはなしなんですけど」
「いいもなにも、夢ノ咲のプロデューサーが施設の見学とかに来るって理由で許可されてるからねぇ」
「は!?」

何でそんなことになってるの!?プロデュースする予定でもないのに部外者が入れるようになってしまってるの…絶対日和さんが何かしたじゃん…。それ以外に考えられない。拐ってくることも、わたしが学園内にいてもいいように手を回すのも、彼にとって自分のためにする当たり前のことなのかもしれないけれど。私では考え付かないことをするので理解が追い付かない。

「だって一緒にいたいでしょ?目立たないように制服も作らせたんだよね」
「え…わざわざ作らせたんですか?」

嘘でしょ、この制服を?サイズはどこで知ったのか知らないけれど作らせた?お金が関わることなのに、平然とやってのけてしまうというか、そういった考えに至ってしまえることに思考を止めたくなる。
この制服…確かにかわいいんだけど…赤いスカートで。でもなんというか、夢ノ咲のプライドがぼろぼろにされるというか。夢ノ咲の制服が奪われてしまっているので平然と今日も着てしまっているが、そんな自分に嫌気がさす。居心地の悪さを自覚しながら、スカートをぎゅっと握りしめた。

「いいじゃない。制服、似合ってるね!」
「そういうことでは!なくて!」
「イヤなの?双葉ちゃんは昨日からワガママだね」

他人のこと言えないですからね。貴方の我が儘でわたし拐われて軟禁されてるんですけど。ここからだして、夢ノ咲に帰らせて…なんて私の我が儘は可愛らしい部類だろう。一方の日和さんの我が儘は我が儘の度を越している気もする。どうしてこんな、度を越した我が儘に関わってしまっているのか。

「さ!ぼくたちと仲良く登校しようね〜」

くい、と身に付けているチョーカーを、日和さんの指先で引っ張られる。忘れていたがチョーカーはつけっぱなしだ。彼の手で付けられて外されていない。チョーカーの存在を思いだし、いくらわたしが我が儘を言えど聞き入れてもらえないという現実を叩きつけられる。だって今のわたしは日和さんのものにならなければならなくて、彼の所有物のように扱われる。彼が一緒に登校するという意見を持つ限り、わたしは我が儘をいっても却下の道しかない。無駄な体力はもう使いたくないので、大人しく引かれるがまま私は玲明学園へと向かうのだ。


2020.02.14.
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