あんさんぶるスターズ | ナノ

まりなさい



それは周年記念のユニット別写真を確認しているときだった。手元にある写真を見て、衝動的に口にした言葉は…。

「日々樹先輩、かわいい…!」

恋人である渉の写真は、贔屓目を抜きにしたかったので後回しにしていた。ついでにいうと贔屓目がどこまでも通用しそうだったので、fineの写真確認は双葉ではなくあんずに確認してもらっていた。
となると、本当に最終段階の場面で初対面となった今回のユニット写真。手の中のそれに釘付けになりながら、双葉はうわあ、と頬に熱を通していく。

「恋人にかわいいと言われて、なんとも複雑な気分ですぅ」
「え、どうしてですか!!」

声がしたのは手の中の写真からではなく、隣に座った恋人の渉本人から。少し拗ねた彼は唇を尖らせて自身の髪を弄っていた。

「かわいい、お口がかわいいです…ウインクもかわいくて、普段より目が大きくつぶらな気がします!かわいい、超絶かわいいですよ!」
「複雑といったのにそうも連呼されるとは」

実は今も可愛らしい仕草をしていたのだが、悲しいかな、そこは全面スルーされた。
しくしく、と泣き真似をするが、双葉にこれは通用しない。愛してもらっている自覚はあれど、こういったことはあまりにも冷静に対応されるので泣き損なのは渉も分かりきっている。のだが、だからといってしないとも言っていない。いつかは本気にしてくれる時が来るのではと期待しながら、回数を重ねていくのだ。

「かっこいいって言った方がよかったですか?」
「男心としてはそっちのほうが嬉しいのですが」
「こんなにも可愛いのに、嘘をついた方が嬉しいですか?」
「ンンッ…」

あまりの純粋さに心が痛む。嘘をつかれるより真実の方がよいのは確かだが、葛藤が男心との狭間で揺れ動く。渉が双葉のことばに返事が出来ずにいると、双葉はしゅんとした表情で俯いた。悲しませてしまった。悲しませるつもりはなかったのに。

「そういう嘘はつきたくないです」
「そうですねえ」
「なのでかわいいです!日々樹先輩!」

開き直ったように目を輝かせて顔を上げる双葉に、渉は敵わないなと密かに思う。コロコロと変わる表情に、自分にまっすぐ向かってくる彼女に、かわいいと言われることでさえ既に嬉しさに変わっていた。
隣に座る双葉の腕をとり、彼女が手にしていた写真をするりと奪っていく。写真を後ろ手に隠しながら、もう片方の手を双葉の方へと差し出す。人差し指をゆっくりと柔らかな唇に押し付けて、それから。

「二人きりの時はなんと呼ぶのでしたっけ?」

甘い秘密を共有するように呟く。しっとりとした吐息が双葉の肌を掠め、唇にあたる長く綺麗な指の先がふにゅりと遊んだ。

「…わたるさん」
「ンッフフ、良くできました」

息のかかる距離だったものが、重なってゼロになる。指から唇へ遊ぶ相手が変わり、それもまた舌へと変え弄ばれる。
絡める舌と併せた唇が双葉を抑制したのは間違いない。かわいいという言葉も、こうして抑え込んでしまえば聞くこともできないのだ。あっけなく封じられた言葉に、渉は既に興味はない。あるとすれば目の前の、

「はわ…かわいいお口が狂暴に…」

かわいらしく、憎みきれない愛しい女だけなのだ。

「もとからこのかわいい私のお口が狂暴なのは知っているでしょう」
「お口というか舌ですね?」
「お黙りなさい」

きゃあ、と声をあげられるが、それもまた塞いでしまえば同じこと。押し倒した身体に這いずる小さな手は、迷いもなく渉の首へと巻きつく。
更に近くなった距離と熱に溺れるのは果たしてどちらか。

2021.05.30.
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