あんさんぶるスターズ | ナノ

その唇で甘美なを囁いて
 ※「甘い嘘を手渡して」の続き



ベッドに押し倒されて口を塞がれる。凪砂の長く骨張った指が肌を滑るたび、双葉は初めてではない感覚に襲われた。

「んっ…」

首筋に口付けられる。ちゅ、ちゅ、と音を立てるので、どうしても感覚的に倍増してしまうのはどうしたものか。しかも凪砂の長い髪が落ちてきて素肌を撫でるために、くすぐったさすら快感に変わってしまう。

「な、なぎささんはっ」
「…何?」
「本当に、昨日のこと、覚えてるんですか」

くすぐったさと、なんでこんなことになってしまっているのか理解が追い付かない困惑と、お腹の奥からじわりと熱を持ち始めるからだに耐えきれず、双葉は震える声を振り絞って声を出した。
凪砂を呼ぶ声は確かに震えていて、しかも裏返った。が、それどころではない。
本当に覚えているのか、嘘なのか。凪砂がこのようなことを流れるままにする人間ではないと知っている。だからこそこのような行為と結び付かなくて混乱するのだ。今からでも遅くはない。本当は覚えていないのだと言ってくれれば、まだ説得する自信がある。
けれど凪砂から紡がれた言葉は双葉の期待するものとは違っていた。

「覚えてるよ。双葉さんも、分かりやすい」

ふにゅ。お腹から服の中へと侵入した手は下着越しに双葉の胸を包み込む。もう片方の手は脚から付け根にかけてゆっくりと上り詰める。

「私が昨日と同じように触ると、身体を震わせてすごい戸惑ってる」
「っ!」
「記憶はなくても身体は覚えてるんだね」

凪砂の言葉に息を飲んだ。
この指先は、この手のひらは、私の肌に触れるのは初めてなのだろうか?いや、初めてのはずだ。それなのに何故こんなにも既視感を覚えるのか。この指先が与える快感を無意識に追い求めたくなるのは…。
双葉はそれ以上考えるのを放棄した。そこから先を考えてしまったら、道筋を辿ってしまったら、真実になってしまう気がしたから。いや、凪砂は真実だといった。双葉の既視感は真実なのだと。幻ではなく現実だと。
肌に置かれた手のひらが熱い。指先に少しだけ力が入っている。凪砂の瞳が少しだけ揺れた。

「や、うそ、だって私…」
「残念だけど本当」
「ひゃうっ?!」

胸に触れていた指が胸の先を撫でる。ゾクゾクと快感が背筋を通り、先端を硬くする。凪砂もそれに気が付いたのか、コリ、と硬くなった先を指先で転がした。
指はそのままで、はだけた胸に耳が押し付けられる。そっと静かに、左の胸へ。

「どくどくいってる…昨日と同じか、それ以上かな。昨日は双葉さん、楽しそうにしてたから。今日は違うものね」
「たのしそうに!?」
「そう。私と、楽しく過ごしてた」

脈動が激しくなる。鼓動が速くなる。全身をめぐる血液が熱く燃えたぎるよう。
楽しく過ごしたってなに。どう楽しく過ごしたっていうの。
記憶にないことはどう探っても正解は出せない。凪砂の記憶だけが全てなのだ。勿体ぶらずに教えてほしいと、双葉はこれほどまでに思ったことはない。
脚の付け根から、下着に指が引っ掛かる。咄嗟のことに反射的に動いた。凪砂の手に手を重ねて首を横に降る。

「だめ、だめです、凪砂さん」
「駄目じゃない。昨日の貴女はそう言ってた」

駄目じゃないと言った昨日の自分を恨む。双葉の手は結果的に防ぎきれず、凪砂の侵入を許してしまう。引っ掛かった下着の隙間。凪砂の長い指が割れ目をなぞった。

「あ、濡れてる。よかった。強引にいきすぎてないか心配だったんだ」
「強引ですよぉ…」
「でも、感じてる」

大きな手で、長い指で、あんなに熱い手のひらの愛撫で、甘ったるい視線を向けられて感じるなという方がおかしい。強引だが、その強引さも感じる要素の一つになってしまう。
そんな反論も出来ぬまま、双葉は再び声をあげた。凪砂は自分の思うままに双葉の秘部をいじりだす。同時に粘着質な音が指に絡み付く。

「あっ な、あぁっ」
「ちなみにいうとね、私は昨日と同じ順番で触ってるんだけど」
「えっ!?」
「ここ、気持ちいいんだよね?」
「ああっ!あ、っはぅ、や、ん、んんーッ」

膣液を絡ませた指が突起を撫で上げる。戸惑いなく、確実に双葉を快楽に引きずり出そうとしている。
気持ちよくて甘い声が漏れ出るのが抑えられない。揺れてしまう腰が、自然と力のはいってしまう足先が、言い逃れのできぬものを求めてしまう。

「あ、あ、ああっ、なぎ、なぎささ…っ、ぁ、」
「気持ちいい?」
「ひゃい、きもちぃ、っ…やだ、いく、からぁ!ああっ」

ぎゅ、と脚を閉じる。それでも既に触れることを許している凪砂の手はどうにもできない。
グリグリと押し潰される突起。逃れられない絶頂が込み上げ、呆気なくイってしまった。小刻みに腰を震わせる双葉に、凪砂の指は名残惜しそうに突起を一撫でして離れる。
は、は、と荒く息継ぎをする双葉は不本意にも、離れていく指が名残惜しく感じた。そんなこと感じてはいけないのに。鎮まってほしい、早くこの熱が冷めてほしい。正常な判断が熱に浮かされて出来なくなってしまう。はやく、はやく。そう願いながら目をつむる。脳裏に焼き付いてしまう、凪砂の熱い視線を、かき消さないと。

そんな双葉を見て凪砂は勢いづけて肩を掴む。反動で、何事かと目を見開いた双葉は思いのほか近くにあった凪砂の整った顔に鼓動を速めた。


「ダメ。今日は寝ないで」
「きょうは…?」
「…貴女は昨日、ここで寝てしまったから」

眉を下げ、悲しみが覆う表情をした凪砂の言葉を頭で噛み砕く。
ここで寝てしまった?誰が?…私が?

「もしかして、最後までしてない…?」
「うん、そうだね」
「……っはあ〜〜」

双葉は大きな大きな溜め息を吐く。全身の力が抜けるように脱力をした。よかった、という安堵が身体中をめぐる。
昨晩の自分に「よくやった」と言い聞かせる。その前に醜態をさらしているものの、ここまできたらかわいいものだ。最後までしていないという事実によく分からない笑いが込み上げる。怖かったのかもしれない。記憶をなくした自分に、昨日のことを話してくれない凪砂に。けれどようやく判明した昨夜の真実に、本当に安心した。
そんな理由もよくわからず笑い始めた双葉に、凪砂はきょとんと首をかしげる。

「なんで笑ってるの?」
「いや、一線こえてなくてよかったなと…」
「これから越えるよ」
「え?」

さあっと双葉の顔から血の気が引いた。今、目の前のこの人はなんと言った?これから越える…何を?一線を。
そんな馬鹿な、と凪砂を見ても、彼が嘘を吐いているようには見えない。むしろ体勢を整えて双葉を逃がさないようにと、影を落として迫りくる。


「私とこれから、越えるから」

脚の間には凪砂の身体がすべりこんでおり、からだの両脇には手がつかれている。愛撫をされているときに身体を捩ったのか、双葉のすぐ後ろにもう行き場はなく、ついた肘に当たるのはふかふかの枕。
逃げられない、と瞬時に理解した双葉は、これから越えるだろう一線とやらが、どうか優しいものでありますようにと願うことしか出来なかった。








「や、凪砂さん!ほんと、…っはぅ、そんな、舐めないでくださいぃ」

じゅるじゅると音を立てながら、たっぷりと濡れた秘部を凪砂に舐められる。がっつりと太腿を固定されて簡単には逃げられない。凪砂の熱い舌が割れ目を滑っていく。その度に双葉はびくんと腰を揺らせて感じてしまう。
互いに服を脱ぎさって、余計な引っ掛かりはなくして。せっかく服を着たのに、起きたときに逆戻りをした。…いや。起きたときよりも身に付けているものはない。シーツが、触れ合う肌がしっとりとくっつく。

というか昨晩、寝落ちをしたのならお互いにシャワーすら浴びてないのでは?ということに唐突に気が付いた双葉は、秘部を舐め続けている凪砂を慌てて止めた。
股の間にうずくまる髪に触れるが、凪砂は気にもせず舐め続ける。ばたばたと脚を動かしても効果はあまりない。むしろ暴れるほどに脚を動かないように固定されていく。

「あっ、ダメダメ、舐めちゃやだあ!」
「ん、ここ、触って気持ちよくなったところ」
「言わなくていいですぅ!」

突起に分厚い舌が触れた。唾液と膣液を絡めた舌がじっくりと愛撫する。器用な舌先は指で触れられたときのように双葉を感じさせ、腰がゆらりと浮く。骨抜きになるような、甘い痺れが双葉を襲う。

どれくらい突起を弄られていただろう。一分かもしれない、もしかしたら数十秒かも。それとも時間の感覚もわからないくらい長い間、舐められていたのかもしれない。静かに愛撫をしていた舌が離れる。凪砂の熱い吐息が内腿を掠めた。くすぐったくて、思わず「んぅ」と間抜けな声を出してしまう。
股の間からあげた凪砂の顔は、口許が少し濡れている。その正体が何であるかなどこの期に及んで考えることもない。恥ずかしさを自覚したと同時に、秘部に触れる何かが、先程まで舌が辿っていた割れ目をなぞる。そのまま撫で上げ、下ろされ、液を垂らす膣内へとゆっくり侵入してくる。


「ゆび…っ」
「あつい……中、こんなに柔らかいんだ。とろとろしている」
「感想は求めてないんで…!」

自身の股の間に位置する凪砂を見ていられなくて、見えない場所まで変に想像してしまって、双葉はぐっと目を瞑った。快感に支配されてしまう…そんなことは許されないのに。駄目なのに、凪砂の手招く快楽に何も考えずに身を委ねたい。このままなりふり構わず、どうにでもなってしまえるのなら楽なのに。
粘着質な音が小さく耳に届く。凪砂の指が柔らかな内部を撫で、ずるりと抜き出てはまた入っていく。そのなかで指を曲げると双葉の腰が揺れ、甘い声が出ることに凪砂は気がついた。恐らく双葉は恥ずかしさと快感で無自覚なのだろう。そのかわいらしい反応にもっと見たい欲が込み上げ、ぐちゅり、液を絡ませながら指先で内側を刺激する。

「ひ、っやだ、引っ掻くの、」
「気持ちいい?」
「きもちい、気持ちいいですから!だから引っ掻かないでくだ、さ…っ、ああ!」

思わぬ刺激に声をあげる双葉。続けて攻め立てられれば甘い声は途切れない。耳から入る甘美な声に凪砂は人知れずぶるりと身体を震わせる。
もっと、もっと見たい。甘く喘ぐ彼女の姿を。乱れて色を浮き出させる身体を。存分に味わい尽くしたい。ただ目の前の……。

「あ、ああっ、なぎささん〜っなんで、舐めちゃやだ…」

凪砂のなかで無意識に“男”が顔を出す。思うまま、目の前の芳しい果実にかぶりつき、先ほど知った双葉の弱みを舌先で突いた。指は中に埋めたまま、舌先と指で双葉を快楽へと引きずり下ろす。

「だめ、またいっちゃう…っやだやだ、あぅ、や、イっちゃうからぁ!舐めないでっ」
「ん…いいよ、幾らでもイって、気持ちよくなって」
「いきたくない、やだ…あ、あっ、ああ、イく、イっちゃう…っん、あああっ、イ、…ッ」

与えられるまま快感に身を委ね、双葉は絶頂した。中と外を同時に攻められ、全身に浴びるような快感が呑み込んでいく。
反射的に閉じた脚は顔を埋めている凪砂さえもそのままに挟み込んだ。呑まれる快感があとを引かず、脚の力をうまく逃せない。か細く喘ぐ双葉から凪砂は舌を離した。
ふと双葉の力が抜けた一瞬、隙をみて股の間から顔をあげた凪砂の瞳はこれ以上ないほど熱を帯びていた。その瞳が双葉の心臓を鷲掴む。まるで直接握りしめられているのではと錯覚を起こすほど。緊張感と、昂揚感とが混ぜあって、双葉の身体は更に火照る。

「かわいいね、双葉さん」

そんなに甘い声で名前を呼ばないで。
低温の声はどこまでも深く双葉の身体の奥底を刺激する。色のある声で呼ばれる度に、どろりとした欲があふれでそう。
ちゅ、と小さく音をたてて、双葉の頬に凪砂の唇が触れる。熱を持った視線が絡み合い、どちらも外すことができない。

「本当に、全部忘れちゃってるんだ」
「はひ…」
「あの言葉は、なかったことになるんだね…」

先ほどまで足をしっかりと固定していた手が、双葉の頬でするりと動く。名残惜しそうに、慈しむように触れた指に寂しさを感じた。何故かは分からないが、凪砂は今、悲しんでいると感じてしまった。

「あ、の、私、なにか言って…しまいましたか…?」

絶頂の余韻が未だ支配する思考で、ゆっくりと口にした言葉。双葉は自分が忘れた記憶の中に凪砂を悲しませている要因があると考える。
記憶にない昨夜の自分は、この美しく気高い人に何と言ったのだろう。何も思い出せない頭で、必死に考えてもたどり着かない答え。謝ることさえ出来ず、双葉は静かに呼吸を整えながら凪砂の言葉を待つ。

「私、双葉さんがすき」
「ぅえ?」
「双葉さんがすきで、双葉さんも、私がすきって言ってくれた」
「えっ!?」
「すきって言ってくれたのは、嘘だったのかな」

そう呟いた凪砂の声は、消え入りそうなほどに小さかった。
一方、双葉は凪砂の言葉に理解が追い付いていなかった。凪砂さんが私をすき?私もすきと言った?頭のなかで繰り返す言葉に戸惑いを隠せない。

実のところ双葉はずっと凪砂のことがすきだった。しかし仕事柄、加えて立場上、その気持ちを伝えるつもりもなく関係を発展させるつもりなど更々なかった。
なのに昨日から今日にかけての急展開。今伝えられた自身の失態。伝えるつもりはないと思っていた気持ちが、記憶のないところで本人へ口にしていたという事実。
状況が状況でなければ頭を抱えて逃げ出したかった。むしろ今からでも服を着て逃げ出したい。しかし凪砂を置いていくわけにもいかず。


「い、いいえ…いや、その、……嘘ではない、です…」

もうどうにでもなってしまえ。ここまできたら嘘もなにもない。
というか、ここで気持ちを隠せば嘘つきだということになってしまう。そういう人間だと凪砂に思われたくなくて、事実は事実であり、双葉は自分の失態を受け入れるしかなかった。
凪砂は双葉の言葉に何かを見出だしたのか、覆い被さるようにして双葉に抱きつく。ぐっとのし掛かるほどほどある体重の凪砂につぶれてしまいそうになるのはいわれるまでもなく。

「なんっ…ちょ、凪砂さん?」
「嬉しい」
「ひょああっ」
「私たち、両思いなんだよね」

ぎゅう、とまるで音がつくのではないかというように、凪砂は更に力を込めて抱き締めた。今まで以上に密着する素肌が生々しくてぞくぞくする。同時に囁かれる声は双葉の耳元で、首筋をなぞるようにして息づくために下腹部が反応してしまう。

「で、でも、この状況は違うと言いますかっ」
「どうして?」
「凪砂さん、七種くんに怒られちゃいますから〜!」

思い返せば凪砂には後ろに七種茨という男がいる。Adam、Eve、そしてEdenを牛耳る彼がいるのに、この展開は非常に不味いのではないか。双葉は先ほどとは違う意味合いで顔を青くさせた。
だが双葉の言葉に凪砂は気に食わなかったらしい。

「ベッドのなかで他の男の名前を言うのはダメだよ」
「ひぇ……」

そんな言葉言うんだ…などと感心している場合ではない。凪砂の瞳が先程より鋭くなったのに気が付き、双葉は言葉選びに失敗したと気付く。

「茨なら、承諾してるから大丈夫」
「はい!?」
「この状況にしてくれたのも、茨だから」

まさかそんな訳ない、とは言いきれなかった。昨夜このホテルに二人を突っ込んだのは紛れもなくその七種茨であることを、先程本人から伝えられたばかり。こういう展開になりうることを承知した上で放り込んだのだ。あの男は。
そういう結論に至ったことを悟った凪砂は、にこりと笑って双葉の唇にキスを落とす。どこまでが本当でどこまでが計算で、全ての事象は凪砂の思うままなのか。手のひらの上で転がされている自覚をもちながらも、双葉は凪砂の瞳に逆らうことが出来ぬまま。

いい?と聞かれて、何が、と返すのはあまりに馬鹿馬鹿しい。状況を鑑みて何がいいのかなんて、ひとつしかないだろう。続きを、この先を、という意味を受け入れた双葉は頷いて返事をした。凪砂はその返答にキスで返事をし、ありがとうと小さく呟く。
身体を起こし、手早くベッドサイドの引き出しからコンドームを取り出した。なんだかんだと凪砂はしっかりと双葉の痴態で興奮していたし、双葉もそれに薄々気が付いていた。根底にある彼への好意とは真逆に、凪砂が俗世的な欲をもっていることを半分疑問視していた双葉は少しだけ安心した。しっかりと凪砂も人間の男であるのだと、今まさに改めて認識しなおす。


「…双葉さん、いれるね」
「うぅ………」

ぐ、と足を開かれる。先程とは違い、凪砂に組み敷かれ完全に身体を繋げる体勢で、ゴム越しに凪砂の熱が粘膜に密着している。
いよいよなのか。プロデューサーとして双葉はここで「やっぱり駄目」と言うべきなのだが、両想いであることに嬉しそうにした凪砂を思えば、そして一人の女として思うのならば、ここでストップをかけるのは答えとして間違っていると思う。何が正解で、何が正しさなのか。個人を選ぶべきか、仕事を選ぶべきか、目の前の好きな男を選ぶのか。
この期に及んでぐるぐると考えを巡らせる双葉は凪砂の言葉にしっかりとした返答が出来なかった。もういっそのこと何も言わずにどうにかしてほしい。責めたりしないから、考えさせる時間さえ奪ってくれればいいのに。

「…やっぱりだめ?」
「もういいから、いれていいですからぁ!」

なんて双葉の思うようにはいかず、凪砂は律儀に返答を待っていた。つべこべ言わずに流されてしまえばいいと思っても、プロデューサーとしての自分がどこかで邪魔をする。もう引き返すことが出来ない瀬戸際にいるのに。ここから引き返せるものなら引き返したい。が、そんな強い理性など持ち合わせてない双葉は、身体の横についている凪砂の腕をそっと掴んだ。拒否ではなく、すがるような手付きで、静かに。
凪砂はそれが双葉の返答であることを理解し、密着している秘部へと腰を進める。初めて進入する内側にどのくらいの強さをもってすればいいのかは分からない。しかし事を急ぐ必要はないと、目を瞑って身体を差し出す双葉をみて、それだけは理解していた。
自分のなかに異物が挿入される感覚とはどんなものだろう。疑問に思えばそちらへと思考が傾きそうになるところを、生暖かく柔らかに進入した先が抱かれることで修正する。

「んっ………」
「…っ、は、いって…、ぁう」

ゆっくりと挿入されていく凪砂自身に、双葉は圧迫感を覚えながらも密かに感じていた。粘膜が刺激を受けた熱さに、大きさに、そして上から注がれる厳かな息遣いに。

「ふ…、はいった、かな」
「はいってなかったら、ぅ、嘘です…」
「そうだね。わたしも夢にはしたくないかな」

入りきるか心配だった凪砂は、どうやらギリギリ中へと収まったらしい。思ったよりも慎重な挿入に双葉はビビっていたのだが。凪砂は痛がらせることなく挿入できた安堵に、はあ、と大きく呼吸をする。
そして双葉の中にはいっているという現実を受け止めることで、身体の奥底から沸き出るような熱が込み上げる。ぐつぐつと煮えたぎるそれは血液に乗り、全身を駆け巡り、鼓動と呼吸を速め、双葉をもっと可愛がりたい感情へと変換させる。
双葉のなかはあたたかい。いや、それを通り越して熱さを感じる。熱と熱が重なりあって、まるで繋がった場所が火傷しそうなほど。敏感に感じている奥へと進入した先。熱さも、うねりも、初めて体験する凪砂には刺激が強い。

「ね…双葉さんのなか、すごく…あつくて……っはぁ…気持ちいいね…」

まだ挿入しただけなのに、こんなにも快感が疼く。動かしたらどうなるだろう。そんな好奇心に煽られながら双葉の肌を指先が滑った。

「…動くよ」
「ん、はい…っ」

ずるりと引き出し、再び押し進める。動かす度に痺れるような快感が凪砂を襲う。少し角度を変えて出し入れすれば双葉の口からかわいらしい嬌声がこぼれてゆく。その声に更に痺れは増して。

「あっ、ぁ、う…ああ、」
「は…ん、っ……ふ、ぅう…」

微かにきこえる結合部からのみずみずしい音。動く度にベッドのスプリングが鳴き、息遣いも喘ぎ声も動いた振動で誘発される。
少しずつ角度を器用に変えながら双葉の中を刺激していく。初めてながらも凪砂は本能でどうしようもなく、目の前の双葉を乱れさせたかった。ここに来るまでにも幾分か乱れさせたが、もっと繋がりを深めるような、ただ互いにしか視線がいかないような、夢中になるほどの情が欲しい。

「ん、んっあ…そこ……ぁ、は…ンンッ……ぁあっ…!」

ある一定の場所。そこに腰を打ち付けた瞬間、双葉の声色は変化する。痺れるような、脳天まで駆け巡るような快感の一端を覚えた双葉は無意識に凪砂を締めつけた。
ぐにゅりとうねった膣内に、凪砂も腰を貫くような快感がほとばしる。チカチカと目の前が眩むような、そんな快感に凪砂はぐっと息をのんで意識を保とうとした。必死に、ただ呑み込まれないように。

「あ、っだめ…締め付けたら、私、ん、んんっ」

だがそれも虚しく。無意識とは恐ろしい。制御の効かないうねりに凪砂は中から出ようとするが、双葉の中はそれを許さない。離れないように絡みつく襞に吸いとられるかのようにして呆気なく射精へと至る。
ゴム越しに放たれる精、腹部に力をいれて止めようとするも無駄に終わった。吐精が終わると凪砂の息は荒々しく再開し、双葉の腰を掴んだままの手に力が入る。

「はあ、はあ…ごめんね……」
「い、いえ…」

あまりのことに双葉は初め、凪砂が吐精しているとは分からなかった。ただ苦しそうにしている表情が、自分の上でひそめられる眉が、震えるからだに連動して揺れる髪一筋が、双葉の心を掴んではなさない。見つめて、凪砂以外がこの世界の全てのような、崇拝にも似た感情が沸き上がる。
そんな双葉の視線に気が付いたのか。吐精後のかき回された脳みそを整理した凪砂はじっと彼女を見つめ返した。

「…ん、何?」
「はっ、いや、なんでも…」
「何か言いたそうな目をしてた…何?いいよ…言ってみてほしい」

吐息と共に吐き出されるハスキーな声が、普段よりも数倍色っぽい。そういうことをしているのだし当然なのだが。
熱気を帯びた空気が二人を包む。双葉は胸のうちで思ったことを口にするか戸惑ったが、それも一瞬。自分の想いも昨日暴露しているし、今さらなにを隠して恥じらいたいのか。ここまできて口にしない方が凪砂は納得しないだろうと何となく感じていた。

「凪砂さんがその…きれいだなぁって思って」

先ほどの、自分の上で絶頂に至った凪砂をみて正直な気持ちを述べる。動作が、表情が、凪砂のひとつひとつが綺麗で…まるで美術品を鑑賞しているような錯覚。
そんな盛大な感情を「きれい」という言葉だけでは片付けられないのだが、今この状況で、回らない頭で、快楽に押し潰される寸前の双葉は他に選ぶ言葉が見つからなかった。ただ綺麗という言葉が、すとんと落ちるように納得のいく言葉であり、双葉の選択肢に居座った。

「…………」
「な、凪砂さん?」
「ごめんね、ちょっと何か、押さえきれない」

彼女からの言葉に凪砂は一瞬、身体を固くする。返答もなくただ目を少しだけ開いて見つめてから、倒れるようにして双葉の首筋に顔を埋めた。と思いきや、未だ挿入されたままであった結合部が再び律動を始めた。
双葉は動いていないため、もちろん動きを再開したのは凪砂である。

「あっ!?や、なに…っんああ!」

前触れもなく再開されたことに、そして終わったと思っていた双葉にとってはまさかの出来事だった。だって一回で終わると思った…なんて言い訳は聞き入れられない。
ぎゅう、と抱き締められたまま揺さぶられるのだが、如何せん体格が程よく良い凪砂にのし掛かられているため、それなりにある双葉の胸は凪砂の胸に押し潰されてしまっている。彼が動くことで擦り付けられ、下からだけでなく胸にまで影響が出ているなど凪砂は知る筈がない。

「は、双葉さん、双葉さんが、…かわいい。かわいい、かわいくて…わたし…!」

普段からは考えられないような、興奮した表情。ライブのときとは違う顔。この表情は自分しか見ていないのだということに、双葉は後程気がつく。

「っ…キス、」
「な、…んんっ」

目の前にある綺麗な顔が、赤みを帯びた興奮を伴って唇を奪いに来る。強引なそれに従い舌を絡ませながら、下から突き上げられる浮遊感が、ぞくりと背筋を駆けた。
いつもであれば恐怖を感じるのだろうが、今は強引な口付けにより少しだけ酸欠状態なことが重なり、ぼうっとした頭では深く考えられない。浮き沈みする動きに何か掴まらないとと、目の前の凪砂の首にすがり付くようにして腕を回した。

「ぁ、んっ、ふ…、あ…ッン」

重なる身体、分けあう体温、共有する快感。熱を帯びた結合部が、絡み合う舌先が、互いの肌を滑る指の腹が、すべて二人を掻き立てるものになる。
ちゅ、と舌を吸われれば腰に響くように甘いしびれが渡る。キスをして、擦りあわせれば次第に込み上げてくる快楽が双葉を襲った。

「んぅっ、んんー…っ!!」

攣縮する膣内に凪砂も唇を重ねながら声を漏らす。頭をかき抱くようにして、双葉は自分の身体を圧迫する凪砂の身体へと足を絡めながら、ビクビクと腰を揺らして絶頂に辿り着く。
続けて凪砂も大きく腰を揺らしながら二回目の精を双葉のなかで吐き出した。合わせた唇の中、くぐもった凪砂の声が双葉の腰へと弱く響いている。


「んむっ…は、ぅ…」
「…ん、」

絶頂の余韻に包まれながら、舌を絡ませるのを再開する。先ほどよりも幾分か熱い舌先と吐息が二人を酔わせた。昨日のアルコールは既に覚めているのに、今は違う要因で心がふわふわと踊っているよう。
絶頂を迎えて汗ばむ皮膚は、しっとりとして互いを離さないというように吸い付く。それは膣内から抜け出そうとする凪砂自身と同じくして。
唇を離し、至近距離でみつめあう。ぼうっとした意識の先で絡む視線は今日一番熱を帯びていた。


「やっと私のものに、なったんだね」

熱い吐息と共に捧げられた凪砂の言葉は、浮かされた意識のなかでどれほどの影響力があるのだろう。未だ速度をあげて脈打つ心臓に、甘ったるい視線によってぶすりと貫かれたような気がした。


2020.10.26. タイトル:秋桜
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