あんさんぶるスターズ | ナノ

イブのあと




お疲れさまでした、とライブ後のユニットへ挨拶をしていた。皆一様に熱冷めやらぬ形で過ごしている。そういえば影片くんが見当たらないな、と思っていると、同じユニットの斎宮先輩も彼を探していたようで。衣装を着替えていざ帰ろうとしたところで姿が見えなくなったらしい。今日はステージのことで怒ってもいないし、特段彼が逃げ出すようなことはないという。先に帰る伝言を頼まれた私は、出演者に挨拶をしながら影片くんの姿を探した。
人気のない空き部屋で誰かがうずくまっている姿があった。具合が悪いのかと思い近づいて声をかければ、振り返ったのは探していた人物。

「影片くん?」

黒髪で、オッドアイ。漸く見つけた人物は、今にも泣きそうなほど目を潤ませてこちらを振り返った。というか泣いてる…目に溜まった涙が今にも零れ落ちそうだ。
今日は斎宮先輩、怒ってないっていってたけど。本人が気づかないうちに怒っていたんじゃないだろうか。

「どうかしたの?斎宮先輩も心配してたよ」
「あ…ひっ」

怯えられてるような気がするんだけど。別に私は怒っているわけではない。何も言わずにいなくなったのはダメだと思うけど、何事もなく無事に見つけたからよしとしよう。

「斎宮先輩、先に帰るって。解れた衣装直すからって伝言頼まれたんだけど」
「お師さん、帰ったん…?」
「何か失敗しちゃった?話聞くだけなら私でもできるかな」
「っ双葉ちゃん!」

しゃがみこんでいる影片くんの肩に手を置こうと伸ばした腕。拒否するように逃げた影片くんを捕まえるようにして触れれば、彼は一瞬睨んだかのように私を見て立ち上がる。

「え」

と同時に抱きつかれた。勢い余って倒れそうになるけれど、踏ん張って仰け反る。密着する身体。ライブ後で汗をかいただろう彼は少しあたたかい。細いなあ、なんて思っていると、ふいに制服のスカートからでた足に当たる…硬い何か。密着して詳しくは見れないが、位置的に彼の、その、大事な部分ではないだろうか。

「あの、影片くん…物凄く、言いづらいんだけど」

当たってるよ、なんて口にできるはずもなく。これはセクハラを受けているんだろうか。当たってるなんて口にしたら、私がセクハラしていることになるのだろうか。どっちなんだ。
思考を巡らせて考えていると、頭の横で影片くんも小さく唸っている。唸りながら、啜り泣いている。泣きたいのは私も同じなんだけど。クラスメイトに何をされているんだ私は。今にも泣きそうな彼と私。端から見たら慰めたくなるのは彼だ。足に当たっているものがなければ…。

「ちゃう…その、ちゃうで。エッチしたいとかじゃないんや」
「う、うん?」
「ライブで興奮してこうなってるだけや」

ライブで興奮して。男の子は興奮するとこうなるのは知っている。けれど性的興奮だけじゃなくて、違う興奮でもこうなってしまうのか。何とも難しいし、管理が思ったより大変そうだ。
そうかー…生理現象のひとつなのかー…。納得しづらいが、納得しなければならない。この足に当たっているものが、そう至った経緯は理解した。だがそれを当てられて、抱きつかれている理由はどうしてだ。

「影片くん、わかった。こうなってるのはわかったから、どうして私に抱きついたの?」
「ひとりで何とかするから、その…材料がほしくて」
「…え?」

ひとりで何とかする?これを?何とかするって、どうするの?

「はあ…双葉ちゃん、やわこくて、めっちゃいいにおい…」

すんすん、と耳の近くの臭いを嗅がれる。ちょっとそこかがれると変な気分になってくる!やだ、と身体を離そうとしても抱き締められた腕はなかなか離れない。細いのに、その力は何処から来るんだ…!所詮は男子と女子。彼は男の子で、私は女の子。性別の力の差には勝てるはずがない、ということなのか。そうこうしているうちに彼の腕が動き、衣擦れる音が耳に届いた。背中に回った腕は腰の辺りに落ち、もう一方はお尻に当たりそうなまで降りて来ている。
ひとりで何とかする、材料…つまりオカズを探しているわけ!?その材料もとが私ってこと!?

「ちょちょ、影片くんなにを!」
「んあっ アカン!抱き締めたら離したくなくなってしもた!」

もとから離す気全然ないよね!?さっきから抵抗しても無意味だもんね!?
この震える子犬みたいなクラスメイトを慰めようとしていた数分前の自分に止めておけといってやりたい。だって慰めようとしていた子犬が、立派な獣だったんだ。騙された、なんて言ってももう遅い。


「なあ双葉ちゃん、…やっぱりシよ?」


ギラギラと瞳を光らせた影片くんに押し倒されて、熱い吐息にくらくらする。思考が犯されるみたいに熱い。浮かされた熱は私も負ってしまっていたらしい。ライブの熱が今になって込み上げてくる。ドキドキと鳴る鼓動に、どうか気付かれませんように。火照った熱で全身犯されていく私は、噛みつくように口を開いた彼をじっと見つめていた。

2020.02.07.
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