あんさんぶるスターズ | ナノ

めやかに誘惑



「宗くん?」

名前を呼ばれて振り替えると、目の前には彼の体があって、背中に回った温もりに抱き締められたんだと理解する。こういったことはあまりしない印象だったので驚きに身体が一瞬固まった。
包まれている匂いは宗くんのものだし、視界の端に見える柔らかな髪は桃色だ。間違いなくこの人は宗くんである。

「え、どうしたの?熱でもある?」
「…僕がこうしたら可笑しいかね」
「まあ熱を疑うくらいには」

そっとおでこに手を当てて熱を確認する。が、ほんのりと人肌の体温がのるだけで、発熱らしき熱さはなかった。

「熱はない…」
「熱なんてないのだよ!」

二人きりの室内ではあるけれど、まさかこんなに優しい檻に閉じ込められたような抱擁をされるとは思ってもみなかった。
彼の腕はわたしを拘束するほどの力をいれていない。しようと思えば、簡単にこの腕から逃れることができる。でも私にそんなこと出来るはずがない。どんなに簡単に外れる檻でも、壊れて朽ち果てそうな檻だったとしても、わたし自ら彼の腕から外へ出ていこうとはしないだろう。

「こういうの、そんなに好きじゃないでしょう?」

如何にも恋人同士のする愛の囁きなんて尚更。
私の言葉に宗くんはびくりと肩を揺らした。図星を全身で表現してしまうくらいに、私の言葉は鋭かったらしい。でもそんなの分かりきったこと。慎重なスキンシップをしていればなんとなく察してしまう。だから今の状況に吃驚しているし、彼の心情にどんな変化があったのかはわからない。

「今は嫌ではない」
「今は?」
「双葉だからね」

抱き締められていた腕が少し動き、いきなり抱き上げられた。視界が高くなったこともそうだが、彼に抱き上げられているということに恥ずかしさが一気に込み上げてくる。降ろしてほしいと名前を呼ぼうとすればタイミングよく開放される。降ろされた先は柔らかく、近くに在ったソファであることに気が付いた。
わたしを降ろした彼はそのまま雪崩れ込むようにして体重をかけてくる。後ろに倒れた私は全身をソファへと埋め、覆い被さる彼を抱き止める。こちらからのアクションが引き金となり、彼は私の首筋にすり寄って熱い息を吹き掛けた。彼の唇が首筋を絶妙な距離で撫でる。触れるか触れないか、駆け引きのようで喉の奥から小さく喘ぎたくなってしまう。なんとも甘美でぞくぞくと背筋が震え、意識せざるを得ない。


「終わったあとに色々と考えるだろうが、今はこうしたいのだよ」
「びっ、くりした…」

こんなに行動的で、直接的なことを彼がしているという現実に、酔いがまわってくらくらしそうだ。
顔をあげた彼は苦しそうな、追い詰められたような、もどかしさを孕んだ表情で、潤みを帯びた瞳で私を射抜く。

「ドキドキしてる。まさか宗くんから、そんなこと言ってもらえるだなんて」

求められていることを、こんなにも感じられるとは。
長く細い指が私の前髪を分けそこに唇が押し当てられる。そのまま瞼に降りてきて、視線を交えたら唇同士が触れる。ちゃんと瞳は瞑ったけど、唇が離れてから瞳を開けたらまだ至近距離に宗くんの顔があって驚いた。
衣装や小物など様々なものを作り出す指先が輪郭を撫でていく。首筋をたどって胸元まで来れば、嫌でも自分と彼の性別を意識してしまう。

「あまりこういうことは言いたくないが、僕も男でね」

私の足の間に滑り込ませた身体は凸凹を埋めるように密着している。その中心部分をわざとらしく太ももの内側に押し当てられれば、これからのことを容易く想像できてしまった。男である主張をされ、自分が女の自覚をしないはずがなく。

「…っ」

下腹部の奥が疼くのを感じた。私の中の女の部分が、彼の男に刺激されて目を覚ます。
胸元に置かれた大きな彼の手に、わたしの激しく高鳴る鼓動はバレてしまっているだろうか。こんなにも心臓が早く鼓動を打ちはじめている。もしかしたら触れていなくても、この鼓動が耳から聞こえてしまうのではないか。何だかそれが恥ずかしくて、胸元にある彼の手を掴んで離す。そのまま指先を傷つけないように、そっと唇を寄せてからべろりと舌を這わせた。

「…良い度胸だ」

ちらり、上目遣いで伺えば、妖しく笑ってわたしを見ている。その瞳は鋭く光り完全に捕食者になっていた。
喰われるように口を塞がれる。歯が少し当たってしまったが最早関係ない。粘着質な音を立てながら舌が絡み合い、互いの吐息を食すようにして貪る。

そっと彼の頬に手を伸ばせば、彼の身体も随分とあつい。最初に疑ったものとは別の熱が互いを奮い立たせている。この熱は触発されて大きくなり、ソファの上の二人をたちまちに呑み込んだ。


タイトル:レイラの初恋
2020.01.28.
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