今のご時世、オボットに頼る部分もある家事であるが、ハートランドに住まう天城家ではなまえがそれを代行して行っていた。
だが住まいの面積がとてつもなく広いことが問題で、掃除はオボットに任せてある節もある。しかし出来る限り出来ることは人の手で行うのが一番だということもあり、日常生活で使用する部屋、その他よく利用する部屋はなまえの手によって掃除されていた。他に家事を手伝ってくれるオボットも利用しつつ、今日も役割である洗濯物を畳む作業をしていた。

そんなところにガチャリと音を立てて扉が開かれる。いつものハルトが手伝いに来てくれたのかと思い振り向けば、其処にはハルトではなく、ハルトの兄であり自分の恋人であるカイトが立っていた。
その姿はいつもの恰好ではなく、シャツにパンツというラフなものであった。最近ではあまり見ることのないものだったので驚きが隠せない。


「ここにいたのか」
「うん。乾いたから畳んでるの」

隣に積まれている洗濯物を見て理解したらしい。この時間に部屋にまでくることは少なかったので、私がいつも何をしているか知らなかったようだ。平然と作業をする私に、彼はこれが私の日常のことなのだと改めて知った。
カイトが扉を閉めて部屋に入ったことはなんとなく想像がついた。タオルを畳みながら彼の行動を視界の端で捉える。歩み寄ってきたことは足音でもわかったし、当然開いている隣に座るだろうことは予想が出来た。案の定隣に足を進め、立ち止まる。
しかしその後、頭にふわりと何かが添えられ、額に柔らかいものが押し付けられたことは予想外だった。


「っ!」


隣に腰を落としたカイトを見やれば、彼はこちらを見ることなく、むしろ反対側を向いていた。横顔でさえ見れないようにしているかれの耳は赤い。そのことと先程の感触などを足して推理をすした。
恐らく頭を撫でて額にキスをされた。何も言わずに、しかも積極的な恋人のコミュニケーションをしてくることはあまりしない。だからこそ予想できなかったし驚きもした。だが反対に嬉しくもあった。

「……っはは」
「…なんだ」
「どうしたの、入ってきて早々に」
「別にいいだろう」

耳を赤くしたまま観念してこちらを振り向く。その頬は耳と同じく赤く染まっていて。むすっとした表情であるが、して悪いのかという意味合いも含んでいるもの。普段しないことに恥ずかしさが退かないカイトだが、私は真逆でそんなことをしたカイトに関心を寄せていた。


「珍しいこともあるのね。ビックリした…こんな愛情表現してもらえるなんて」
「別にそう頻繁にしてる訳でもないし、全くしてないわけでもないだろう」

確かに全くないわけではない。買い物の時に手伝ってもらうときは手を繋ぐこともあるし、キスだってする。勿論夜だって都合がよければそういうことだってしている。けれどこう、日常の一コマにするりと入り込むように、一般の恋人同士の自然な触れ合いというものは少なかった。
カイトは私に触れようと手を伸ばしてくる。が、私が未だ洗濯物を持っていることと、それを畳む仕事が残っていることを思いだすと、何もしないままその手は下ろされてしまう。


「もうしてくれないの?」
「してほしいのか」
「そりゃ、滅多にお目に掛かれないカイトだから」


残念そうに呟き、手に持った洗濯物を畳んで積み上げた。次の洗濯物を取ろうと手を伸ばすが、それは隣から伸びてきたカイトの腕に遮られる。そのまま手を包み込まれ、カイトの方へ引き寄せられる。胸へと倒れ込んだ後、優しく頬を包まれて顔を持ち上げられた。
頬に唇を寄せ、瞼にもちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて口づけていく。こめかみや鼻筋などいたるところに優しく唇で触れ、そっと離れていった。優しく頬を包む手に、自然と笑みがこぼれた。


「…ふふ」
「…笑うな」
「いいじゃない。嬉しいんだもん」


先程取ろうとしていた洗濯物を、今度こそ手に取る。そうして隣に座っているカイトの肩に頭を預けながら洗濯物を畳んでいく。
こんなことが日常になるとは思っていない。今日はたまたま、こういうことが出来ただけ。そのことが分かっているとしても、今は嬉しさのほかに替えられるものはない。また自然と零れる笑みにカイトは気付く。けれど何を言うわけでもなく、少し短めの息を吐いただけで静かに洗濯物を畳む私のことを支えてくれていた。

この嬉しさをカイトにも分かってほしい。唐突にそう思った私は洗濯物を畳みながら考えた。どうすれば嬉しさが分かってもらえるだろうか。
今、自分が感じている嬉しさはまずどこから得たものなのかを思い出す。そう、カイトがこの部屋を訪れて、唐突に、自然と頭を撫でて額にキスをしてくれたことがきっかけだ。まさか考えてみなかった彼の行動が嬉しかったのだ。ならば自分も、彼の考えてみなかった行動をしてみよう。
少し先にある洗濯物を取るために、カイトの方に預けていた頭をもとに戻し、自力で座る。手を伸ばして取った洗濯物。畳むと思いきや、膝に置いてカイトの方を向く。今だ恥ずかしいらしい彼はまっすぐ前を向くわけでもなく、そっぽを向くというのが似合っていて、横顔どころか斜め後ろの顔を見せていた。
気付かれないように、そっと、静かに。カイトに顔を近づけて。
後数センチ、というところで虚しくも振り向いてしまったカイト。けれど近づく自分の顔は止められず、振り向いたカイトと唇を合わせてしまった。


「!」
「…!」


お互いに目を見開いたまま、唇を合わせて、ばっと近づけていた顔を離す。

「ちょっと、いきなりこっち向かないでよ」
「いきなりはこっちの台詞だ。俺は何か近づいてきたから振り向いただけで…」

別にキスが不満なわけではない。キスだって当然する仲であるし、その先だってあるのだから今更どうこういうものではない。けれど忍んで頬にキスをしてみようと企んでいたところ、振り向かれて唇同士が重なるのは滑稽ではなかろうか。


「…不満か?」
「そんなことない。…むしろもう一回、してほしいくらい」
「もう一回、でいいのか」


細められた瞳と、がっしり腰に回された腕、それと唇を撫でるカイトの親指に、首を縦に振るのはもったいないと感じた。唇に触れているカイトの手を掴み、逃げないようにしてから親指を口に含む。舌で指先を転がすように舐め、ちゅ、と音を立てて離した。懇願するようにぎゅ、と手を握り、上を向いて首を横に振る。近づく唇に、お互い何を言うわけでもなく薄く口を開け、静かに重ねた。
ああ、これ、いつ洗濯物を畳むのが再開できるのか、わからないかも。



愛情暴走行中

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さやさまへ!リクエストありがとうございました*
室内でじゃれあうって、じゃれあうって…こんな感じでいいのかな、と心配です。Wやベクター、シャークなんかだともっとキャッキャさせてもいいのですが、カイトがそんなキャッキャしながらじゃれあうかな、と考えた末、静かにイチャイチャがじゃれあうことだという結論になりました。

15.03.03. 祐葵
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