流れる前髪が耳にかけられる。先ほどまで私の身体を愛撫していたその手は今、優しく頭を撫でている。柔らかく温かい手の熱に情事を思い出させながらすり寄った。そんな私に頭上からクスクスと笑い声が届く。 「気持ちいいか?」 「ん…真月くんの手、すごく落ち着く」 「そうか」 頭を撫でていた手は髪を弄り、続けて耳、頬と落ちていった。まるで動物を愛でるみたいに指先を器用に動かして触れられる。 くすぐったくもスキンシップの一つとしてとらえているため、彼からの行為ひとつひとつが嬉しい。まだ続けてほしいとすり寄れば今度は額に唇が触れた。 「先ほどまではこの手で落ち着いていられずにいただろうに」 二人で横たわっていた体勢から視界が暗く覆われる。横にいたはずの彼が上にいて、先ほどまでの行為を思い出させた。触れる指先、動き方ひとつのどれからも愛情を感じた行為を思い出すだけで身体の芯が熱くなる。次第に熱を帯びていく身体。まだ触れられていないのに、一人で勝手に熱くなって、恥ずかしい。 「わっ ちょ、やだ」 「嫌なのか?…本当に?」 近づく顔、撫でられる頬、触れる吐息。完全に治まっていなかったのだろうか、彼の熱っぽい息は余計に私の身体を熱くさせた。 撫でられていた頬はゆるゆると刺激をしないよう、柔く皮膚をなぞるだけ。もっとしっかりとした感触が欲しい。ちゃんと触れてほしい。優しく撫でてほしい。そしてそのまま唇を重ねて、真面目で真っ直ぐなあなたが私で表情を崩していくところをまた見せて。 「真月、くん」 「どうしてほしい」 「ちゅーしたい」 「ちゅー、か…可愛らしい言い方をする」 希望通り、柔らかい唇が静かに重なる。何度も重ねて、舌を絡めて、吸いあって。音を立てながら柔らかい舌を堪能する。ちゅる、と滑り込んで絡め取っていく彼の舌に翻弄されないように自分からも動かしていく。息を時折正しながら、口端を伝うどちらかもわからない唾液をそのままに続けた。 はあはあと軽く息を上げて離れれば、名残惜しむようにもう一度重ねるだけの口づけ。楽しんだらしい彼は瞳を細くして微笑む。 「…ほら、次は私に何をしてほしい」 「も、もういいよ」 「嘘はいけないな」 下着をつけていない下半身に指を這わせ、軽く疼き始めていたところを刺激される。やっと熱が引いたのに、またぶり返されて触れられるなんて思わなかった。抵抗する前に到達してしまった手。ぬるりと彼の指を湿らせる自覚を持った。 「君の身体が一番正直だ。ほら」 「っひゃ!ちょっと、やだ」 「本当は乗り気だろう?なまえ、素直になった方がいい」 下半身で感じていることを確かめた手は太ももを大きく円を描くようにして撫で上げた。やらしい触り方に逃げられもせず、足先が痺れるように感じていくのが分かる。 じれったいやり方は彼の得意分野だ。じわじわ攻めてたまらなくなったところで動きを止める。ほら、今だって段々と動いている手がゆっくりになって、もうすぐ、止まるの。 先程までの熱が十分に治まっていなかったからか、彼の焦らしたやり方が身に沁みついてしまっているのか、どちらかはわからない。けれど抑えきれないほどに我慢がならないほど感じてしまっていたのは確か。 待っているのは辛いから、それなら恥ずかしさを乗り越えて求めてみても良いじゃない? 「なまえ」 「〜〜っも、」 「もう?」 「さわって、ほしい」 口に出してしまってから込み上げてくる羞恥心。今までも何度か言わされてきたものの、簡単に折れて言うなんて言うのは初めてだった。だからこそいつもより羞恥心が激しく込み上げ、うまく彼を見ることが出来ない。 「何処を、と聞くのは意地悪かな」 「いっ意地悪だよ!」 これ以上意地悪するの?いつもより大人しく言ったんだから大目にみてよ。 言いたいことは考えればいくらでも出てくる。意地の悪いことを口に出して聞いてくる彼に、なかなか触れてくれない彼に自然と涙が溢れてきた。恥ずかしいのと意地悪が嫌なのといろいろと混じった涙に彼はあまり驚かなかった。瞳に溜まっていく涙を優しく指で拭い、目尻にそっと唇を当てて、零れる涙を舌で掬う。 「私はもっとなまえの可愛らしいところをみていたいんだ、わかってくれ」 わからないよ、分からない。でも振り払うこともできない。触れる手にされるがまま、再び熱を帯びた肌を重ねるだけ。絡む舌は熱く、甘く、私のすべてを痺れさせた。 髄まであいして ――――――― ユメルさまへ!リクエストありがとうございました* 短編できっちり警部で書いたことがなかったので、ちゃんと警部にできているか心配です…。 15.02.27. 祐葵 |