第二皇子とわたし | ナノ

04



もう限界だ。部屋の中に籠もりっぱなしで数日過ごすだけでこんなにも落ち着かなくなるだなんて思っても見なかった。この部屋に通された初日には感じなかった違和感。
今まで色々と動いていた璃芳は数日何もしないだけでストレスを生み出していた。


「部屋から出たいのです」
「紅炎様から出すなと仰せつかっていますので」
「私は何処にも逃げません!部屋に閉じこもりっぱなしで腐ってしまいます!」
「と言われましても…」


部屋の出入り口で侍女と口論を交わす。この部屋に閉じ込めることを命じたのは紅炎だが、璃芳には何故部屋から出られないのかが分からなかった。この禁城の中、ひとりでうまく歩けるはずもなく、またここから逃亡など出来る筈などないというのに。
数日何もできなかったことがもどかしく、痺れを切らして部屋から出たいと主張をしたのだ。

「璃芳様ぁ」
「では書庫かどこかへ連れて行ってください。書を読んで過ごします。あなたがいれば大丈夫でしょう」
「しかし…」



この会話が幾度続いただろうか。扉の両脇に控える兵も、なかなか引かない璃芳に驚いている。

「ですから私は……」
「どうかしたのですか」
「こ、紅明様っ!」


侍女が急いで頭を下げる。璃芳も侍女の視線をたどり顔を向ければ、そこにいたのは練紅明その人であった。
遅れをとったが、璃芳も侍女と同じく手を組み急いで頭を下げる。

「…あなたはしなくていいんですよ」
「いえ、そんなことはございません」
「私の婚約者でしょう」
「婚約者といえど、未だ紅明様に嫁いだ身ではありませんので」
「同じ様なものです」

とりあえず顔を上げてください。そう言われたため大人しく顔を上げる。意外にも近くに来ていた紅明に内心驚くが、今はそれどころではない。


「それで何かあったのですか」
「ずっと籠もりっぱなしでしたので部屋から出たいのですが、出させていただけなくて」

ぽかんとする紅明に、反対に渋い表情を浮かべる璃芳。侍女は未だ璃芳の横で頭を下げている。

「出られないのですか?」
「紅炎様からの命らしく」
「兄王様の…」

処遇を考えているらしい。璃芳の不機嫌な顔を見る。あまりこの顔を表に出さない方がよいと気が付いたのか、袖口で顔の下半分を隠した。

「いいでしょう、私が許可します」
「本当ですか?!」
「はい。ただし禁城内ですので、あまりおおっぴらにでないことと侍女を連れて行くことが条件です」
「あ、ありがとうございます」


出てきた室外出歩きの許可に笑みがこぼれる。今まで二回会った中で笑顔を見たことはなく…恐らく緊張していたからであろうが…少女の幼さが残る笑顔に一瞬言葉が詰まってしまう。
まさかこんな顔をするとは思わず、自分も言葉に詰まるだなんて思っても見なかった紅明は心を鎮めてから璃芳へと向き合う。

「…それなら丁度よかった。あなた付きの侍女を連れてきたんです」
「わ、私に侍女だなんて…」

紅明の後ろに控えていた三人の侍女が並び、璃芳へと頭を下げる。結われた髪はまるで性格を表しているかのようにしっかりとしていた。三人の内でも前に立つ一人の侍女は侍女の鏡そのものの様な出で立ち。
今の今まで口論をしていた侍女は臨時だったらしい。正式な侍女はこの三人、どれも紅明が選んだ者だ。それは璃芳の知るところではないのだが。


「私と結婚するということはそういうことです」


…と言われてしまっては仕方がない。当然のこと第二皇子に嫁ぐということはこういうこと。
皇族となりその中の一人として生きてゆく。皇子の妃として恥じぬような存在にならねばならない。妃であり女である璃芳には身を守るための従者及び世話をするための侍女の存在が生活の中では不可欠。紅明はそんな意味を含めて言葉を紡いだ。
心中は複雑ながらも紅明に言われてしまった璃芳は黙ってそれを受け入れ、頷く。


「ああそれと、あなたへ服を用意させてもらいました」

運びなさい、と侍女たちが次々と服の納められているであろう箱を部屋の中へと運んでいく。

外で立ち話もあれなので、璃芳は紅明を部屋の中へと案内をした。紅明の従者は外で待っている意を示し、璃芳付きの侍女は続いて中へと入る。紅炎から受けた服が数箱あったが、部屋には今までの倍以上の箱が積み上げられていた。


「ありがとうございます…こんなに、紅明様から頂けるなんて」
「私が独断で選んだので、気に入らないものもあるかもしれません」
「紅明様が?」
「ほんのお詫びです。…今日まで来れなかったことと、ご連絡を差し上げなかったことの。これで許してほしいと言うわけではないですが」
「そんなことはございません」

忙しい中で軍議に追われていたと聞いた。その合間でもこうして自分の為に選び、こんなにも沢山の服を届けてくれた。部屋まで足を運び、訪れてくれた。
それだけではなく室外への出歩きも許可してくれた。


「素直に、嬉しいのです」

他でもなく“紅明が”してくれたという事実が。
例え心からの婚約でなかったとしても、その事実がある限り。

14.02.09.
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