第二皇子とわたし | ナノ

03



紅炎に用意をされた部屋はとても広い。こんな広い部屋を賜っていいのだろうかという程に。
簡易的な部屋とそれと天蓋付の寝台。家の寝台は天蓋なぞ付いておらず、始めてみるそれに一人興奮していたのは秘密だ。
しかしそんな興奮も時が経てば鎮まってくる。
部屋に一人でいるのはつまらないし、部屋の外も扉の前に兵士がいて出させてくれない。いつもなら家の外で子どもたちに書の読み聞かせをしたり母の家事を手伝ったりと身体を動かしていたものだから、室内で何もできずにいることは気持ちが悪い。

まるで拘束されたような感覚。
何かしたければ侍女の人に言えばしてくれるのだろうけれど、生憎私なんかが侍女の人をこき使うなんて出来ない。彼女たちも忙しいだろうし、私に構っている暇などないだろう。無駄な仕事を増やしてはならない、と一人静かに部屋で過ごしていた。




「私も時間が出来ればきますので」



そういって私を部屋に送り届けてくれた紅明様。随分と疲れていたようだし、それに他の皇子としてやらなければならないことなどがあるらしく未だこの部屋には訪れてくれなかった。
と婚約者(…であるはずだ、恐らく)を思い浮かべ、その後、紅炎様から贈られた着物の箱が何重にも積み上げられているものをみた。

この部屋に来て2日、今日は頂いたものの中から侍女の人が選んでくれたものを着ている。
生憎基本的なことは自分で出来るため、侍女の人には最後に直してもらった程度。いけません、とは言われたが私はまだ結婚はしていないし婚約者という立場なだけだからあまり多くお世話になるのは気が乗らなかった。
我が儘であるとは思ったが、自分のことは自分でやりたいという意志を伝えると侍女は渋々了承してくれた。
只、食事なんかは部屋から出られないために持ってきてもらうけれど。


「はあ…何もない」


何もない部屋、何もしない時間。こんな過ごし方をしていて良いものか、私は身体を動かしたくてうずうずしてしまう。
はあ、と本日何度目かもわからないため息を吐けば、侍女がお茶を準備してきてくれたらしい。


「璃芳様、お茶は如何でしょうか」
「ありがとうございます」
「花茶をご用意させていただきました」
「花茶…好い香りのするお茶ですね」


侍女がお茶を煎れる姿を見る。ああ楽しそうだな、なんて思ってしまう。
実際人に仕えることは大変だろうけれど、宮仕えをしてみたかった私には今の侍女のしていることが羨ましいことこの上ない。


「あの、紅明様か紅炎様にお会いすることは出来ないのでしょうか」
「紅明様か紅炎様ですか?お二方は本日、大きな軍議があってお会いすることは難しいかと」
「そう、ですか」


大きな軍議…ならば時間もかかるし忙しいだろう。来ていただけないのも納得がいく。
忙しいのであればこの部屋にまで足を向かわせるのも申し訳ない。少し許可がほしいことがあるのを承諾してほしいだけなのだが。


「伝言であればお伝えは出来ると思いますが?」
「本当ですか?」
「はい。外の兵から伝えてもらうようには出来ますよ」
「なら……」








兵に伝えてもらったが、やはり忙しいらしくすぐに返事はこなかった。むしろ忙しい中で申し訳ないくらいだが、返事はもらえずとも話だけ届くのならば都合がよい。
紅明様と紅炎様どちらに伝わったかはわからないが、きっと寛大なお心で対応していただけると信じている。

子どもたちはどうしているだろうか。いつもなら私が書の読み聞かせをしているが、遊んでいるのだろうか。
実家は官職に就いている者たちの家が連なる一角。将来的に親と同じく官職か侍女として宮仕えをするであろう子どもたちであるため、少なからず文官の父を持つ私が小さな頃から知識を与えている。ある程度大きくなれば学舎に通わせるのでそれまでの、ほんの小さな子どもたちに教えているにすぎないが。
それでも興味を持って聞いて、取り組んでいる姿は頼もしく、共に過ごす時間は好きだった。突然のこんな形で途絶されてしまったけれど。

最後に読んだ書は何だったかしら。興味をもっと持ってもらうために、聞きやすい物語だった筈だ。なんて数日前のことを思い出す。
一人で静かに過ごしているとなんでこうも手の届かぬことが思い浮かんでしまうのか。
せめて一人でないなら、こんなことを思わずにいられるのに。


「………紅明…様」


小さくつぶやく名前。空気の入れ換えにと開かれた窓から風がそよぐ。
その風が、呼ぶ名を彼の人に届けてくれればよいのに。

どこかから香る甘く優しい香りが璃芳の鼻をかすめた。

14.02.03.
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