第二皇子とわたし | ナノ

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煌帝国第一皇子・練紅炎は珍しくも部下の鍛錬を見学していた。関心は余り持っていないものの、第一皇子自らが足を運んで鍛錬を見てくださると云うことに部下達の士気は十分高まっている。
今日は偶々、そしてこれも…紅炎が鍛錬をしている人間の中からある人物が目に留まったのも偶々だったのである。

見覚えのあるその外見に紅炎が歩み出す。そのことに周りに仕えている人間は驚きながらも、迷いなく真っ直ぐに歩いていく主を追いかけた。
鍛錬をしていたその人物が手を休め、向かってくる紅炎に焦りながら頭を下げる。


「顔を上げろ」

その言葉にゆっくりと顔を上げた青年は目の前の炎帝に心拍数をとてつもない速度であげている。何をやらかしたのかと周りが静かにざわつく。ゴクリと青年が唾を飲み込んだ時だった。


「お前はもしかして――――……」






――ほぼ同時刻。
帝都の城下、ここは宮中へ仕える人間の住まいの一角。市民よりは少し上品な服を着た娘が子供たちに書を読み聞かせていた。
本日の話を聞かせ終えた娘は子供たちと分かれ、すぐ傍に佇む自身の家に足を踏み入れる。

「璃芳」
「! お父様」

文官として練家に尽くしている父。今日は帰らないはずであったが、忘れ物でもしたのだろうか。

「どうしたんです?忘れ物でも…」
「お前は生を共に歩みたい男などおらんのか」
「…はい?」

いきなりどうしたというのだ。共に歩みたい男?父からの唐突な問いかけについていけず、そんな璃芳に気がついたのか父がため息を吐く。

「いや、見ていて思ったのだが…このあたりの子供たちの面倒をみてくれるのはとてもいいことだ。しかしお前はもう16。そろそろ結婚を考えてみてもいい歳だろう」


父の言い分はきっとこうだ。もう16にもなるのに子供の相手ばかりをして、そんなことをしている暇があるなら好いた男と結婚をする方が先だろう、と。むしろ16にもなったのだからさっさと結婚をしろと。
生憎、好いた男も生を共に歩みたいと思う異性もいない。だからこそこうして日々子供たちに書を読み聞かせたりしているというのに。

「美しい盛りの娘なのだから…」
「好いている異性もなにもおりません。父様がそんなに結婚結婚いうのなら、私、宮仕えをいたします!」
「みや…?!」

言った、言ってしまった。前々からしてみたいと思っていたことだった…ただの憧れだったけれど、密かに願っていた宮仕えの夢。
今、結婚を急がせるくらいなら、宮仕えをして練家へと身を捧げた方が私は堂々と生きられる。そんな気がして。

「お、お前に宮中に召し上がらせるつもりはないぞ」
「しかし!好きでもない方と」

結婚をしても、と続くはずだった言葉。だがそれは大きく扉が開く音で遮られる。
璃芳と父が音のした方へと足を運べば、またもやここにいるはずもない人物が息を切らせて立っていた。

「兄さん?!」


今日は一体何という日だろうか。父に続いて武人として宮仕えをしている兄までもが日の昇っているうちに家にいるなんて。
手には手綱が握られており、そう遠くない距離ながらも馬を走らせてきたらしい。余程急用であったのだろう。それ程までに重要なものを忘れていったのだろうか。


「どうし…」
「璃芳!」
「は、はい?」
「お前、お前…っ紅炎様が!」
「紅炎様?」
「お前に縁談を持ちかけてこられたぞ!」
「………は、い?」


防具をつけたまま、本当に急いでいたのだろう。カチャカチャと金属音を立てている。
滅多に声を荒げない兄だがこの時ばかりは焦ったように普段よりも声が張っている。
自身の肩を掴む兄の手は熱く、そして小さく震えていた。



紅炎さんの名前ばっかり。
14.01.28.
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