第二皇子とわたし | ナノ

14





婚礼の儀も賑わった宴も閉じられ、今は陽が落ち辺りを闇が覆う時刻。昼間に装飾された髪や身体を一切忘れさせるように湯浴みによって全身をくまなく洗われ、侍女のされるがままになっていた璃芳。漸く事態を冷静に把握できたのは再び髪を結われ始めてからだった。
白の服を身に纏い、煌びやかで装飾の施された寝室へと通される。この後のことは嫌でもわかる。婚儀を済ませそういった仲になるのであれば当然である、夫婦の契り。つまり夜伽。
正妻と迎えられたのであるから、夫の愛を一心に受け、子孫を残すその役割と責任を果たす。皇族となった証である白の服を身に纏っている、その事実が全てを物語っていた。

寝台に腰を掛け目的の人物を待つことにする。……緊張をしない訳ではない。どうなるかわからない恐怖はある。しかし想像ができないのだ、紅明と夫婦の契りを結ぶ、その事が。
無礼を働かないようにしよう、しかしどうすれば一番いいのだろうか。経験のない其れにどう心の準備をしたらいいかわからず、どうすればよいのかわからぬまま。一人で中々出ない答えを考えていれば扉が叩かれる。
突然のことで上ずった声で「はいっ!」と返事をする。返ってきたのは紅明の声で、失礼しますという一言と共に扉が開かれた。


「貴女は白も似合うんですね」

入って早々、璃芳が頭を下げながら放たれた一言。其れがどれだけ大きいものなのか、紅明は知らない。彼の言葉一つ一つが璃芳の感情を変化させる。翻弄されるのは彼女だけなのだから。
はっと気が付けば直ぐ側まで紅明が近付いており、戸惑う間もなく腕の中に引きずり込まれた。

「そんなに堅くならないで下さい」


鼻に届く香の香りが妙に落ち着く。自分の香りに混じった彼の香り。偶然か必然か、今の璃芳の心臓を爆発させないでいられるのはこの香りのお陰かもしれない。
紅明の体温と香りに包まれ、今日一日に感じていた緊張が少しずつ解れていくような感覚。密着させていた身体を数センチ離した紅明が額や頬、瞼、鼻と唇を落としていく。
最後に辿り着いた唇は少し長く、食むように合わせて。

そのまま二人、後ろの寝台へと身体を沈める。



「……っふ、んん…あ、」

深い口づけに、覆い被さってくる紅明の服を握る。密着する身体と近くに感じる体温、触れる唇、絡み合う舌、口端から溢れる唾液。感じる一つ一つが骨の髄まで刺激するように璃芳の芯を痺れさせる。
逃げても逃げても追いかけられる舌。息がうまくできずにいれば、漸く口を自由にされて空気を吸い込んだ。はあはあ、と絶え絶えに肩で息をする。紅明が柔らかな頬に指を滑らせ、璃芳はその指にくすぐったさを感じて目を瞑る。親指で頬の感触を楽しみながら、紅明は首筋に口を寄せた。

服をずらして鎖骨を露出させる。首筋、鎖骨へと下を滑らせ、どんどんと下に移動して行く。まだ、まだ足りない。もっともっと、もっと。
紅明が璃芳の服の帯に手をかけ解いていく。脱がされていると理解した璃芳は、ぐっと息を飲んで全身を硬直させた。そんな彼女に気が付いた紅明は帯を解く手を止めて顔を覗き混む。


「怖いですか」
「あ、…いえ、そんなこと、は、」

明らかに震えている声。瞳に溜まった水と羞恥心からくる赤く染まった顔。そんなことはない、と言いつつも態度で嘘であることがバレバレである。
異性に抱かれるということは恐らくないのだろう。今までに幾度も夜伽を行ってきた紅明には経験はあるが、璃芳にはない。ましてや皇族であり初めての夜。多少の恐怖を抱かないわけがない筈。

「優しくする努力はします。だから怖がらないで…」


ちゅ、と唇に口づけを落とす。肩の力を抜いて、身を委ねて、恐怖よりも快楽が支配しやすいように。快楽しか彼女が感じないように。
するりと咥内に滑り込む舌で誤魔化しながら、途中だった帯を解き服の前を開く。直接触れた肌は何処と無く熱い。
肩から胸元へ手を滑らせれば柔らかい感触が伝う。同時に璃芳が全身で、触れられることに反応を示していることに気が付いていた。其れを知って尚、紅明は手を止めない。止めてやるものか。漸く堂々と触れられる権利を得たのに其れを使わぬほど馬鹿ではないし、我慢も出来ないのに。

胸の形を確かめるように、そっと掌全体で包み込む。成人男性の手に余るほどの胸は弾力があり、未だ弄られていない乳頭は綺麗な桃色を彩っていた。
むにむにと弾力を楽しむように手を動かせば次第に硬く主張をし始める頂。掌で包み込むように胸を支えながら、親指は主張をする其れへ。指先で軽く押すように動かせば璃芳の口からは熱い息と共に掠れた声が微かに聞こえた。


「…ん、ふ…ぅ、ぁ…」


手で口を覆い、声が漏れないように唇を噛み締める。うっすらと開いた唇からは熱い息が漏れ出して。はー、はー、と震える吐息が紅明の耳をすり抜ける。
胸の頂に舌を這わせれば「ひうっ」と全身を飛び上がらせて高い声をあげる。自身の声が恥ずかしいのか、璃芳は顔を赤く染め上げ完全に口を覆ってしまう。……勿体ない。その口で、その声で、もっと鳴けばいいのに。そんな思いを込めて、執拗に胸を弄ってやろうかと舌を這わせながら片方は指で遊んでやる。
漏れる息と共に、微かだが声が乗ってくる。制御できないまで声を出せばいい。段々と押さえきれなくなる璃芳に紅明は口角を上げた。そうして胸から腹へ、服の隙間から足を撫で上げて恥部に指を這わせた。


「っ……!あ、…っう」

反射的に璃芳は開かれていた足を閉じる。しかし其れは逆に、滑り込ませていた紅明の手を挟み込む形に。
その事に気がついたのか、璃芳は顔を赤く染め上げあわあわと言葉にしては拙(つたな)い声を出した。

「慣らさないと辛いのは貴女ですよ」
「で、っ……」

でも、と続くだろうことは予想ができた。
未だ他者に触れられたことのない領域。恐らく自分でも触れることの少ない場所に、これから触れるのだ。怖いのは当たり前だろう。しかし慣らさなければ辛いだけ。それを味わうのは紅明ではなく璃芳だ。
胸を弄っていた手を太股へ這わせ撫で上げる。それにふるふると太股を震わせた璃芳は次第に足の力を緩め、最後には紅明に呆気なく脚を開かされてしまった。

「こ、紅明、さま」
「…そんな顔、しないでください」


そんな、眉を下げて見上げて、すがるような視線の奥に見える信頼と似た愛しさ。不安や恐怖を抱く彼女を助けたいと思う反面、その表情をもっと酷く崩したいと思ってしまう。優しく、怖がらせないようにしたいのに、泣いた表情さえ快感に繋がるのではないかという錯覚。
璃芳を宥めると見せかけて、自分を抑えるように唇を合わせる。食んだ唇から出た舌を逃がさず絡めとれば全身の力が抜けるのが分かった。その隙をつき、恥部に置いていた指を割れ目に沿わせる。

口を合わせたまま器用に恥部を犯す。湿った其所は紅明が思っていたよりも濡れていた。自身の指に絡み付く粘液に割れ目を撫でるだけでなく、指を一本だけ埋めてみる。
ビクン、と跳ねる身体は固くなった。押し付ける唇の向こう。瞑った目の端から涙が零れ落ちる。…痛いのだろう。分かっていて中へと侵入させる指を止めない自分に黒い感情が宿るも、ここまできて簡単に止められるものでもない。そのまま中で指を動かしてやれば先程よりも粘液が増して指が動きやすくなる。
合わせていた唇を離してやれば大きく、熱い息を吐いて力なく頭を寝台へ預けた。

「はっ、…ふ、ぅ……」

苦しそうな声を唇から漏らし、懸命に耐えている。其れは痛みに対してか、声に対してか。紅明にはわからないが、口を手で覆わずとも思うが儘感じるままに声を出せばいいではないか。ここで聞くのは私しかいないのだから。
粘液で湿り、滑りのよくなった恥部。中へと侵入している指を一本増やせば再び身体が硬くなる。くちゅ、と、意地悪く音を立ててやれば璃芳は目を見開いて紅明をみた。口角を上げて微笑んだ紅明に、ばっと頬を赤く染めて目をそらす。
ぐちゅぐちゅと連続した粘液の音を立てればあれよという間に真っ赤に染まる顔。はだけた肌も色づき、食べてくれと言わんばかりに剥き出された肩に思わずかぶりついた。
といっても噛み千切る訳でもなく、肌に舌を這わせて堪能するだけ。時折吸い付いてやれば全身で反応する。可愛い人だ。笑んで息が肌を伝えばそれにすら反応を示す璃芳に胸の奥が熱くなりながら、片手は恥部へ、もう片手は再び胸の感触を楽しんで。


「……っあ、ん、んあ、…くぅ…」
「ん、ちゅ、……、」


最初よりも随分と解れた恥部。増やした指もそれなりに動くまでになっていたそこに紅明はちらりと視線を動かして確認する。まだ入るには狭いだろう。しかしこちらも随分と焦らされて今日まで扱ぎ付けたのだ。漸く手にした果実を、何を我慢する必要があるだろうか。
思っていた以上に初心な反応を見せる璃芳を自分好みに育てたい欲もありはするが、今は限界が目の前に来ている。…早く目の前の果実を味わってみたい。それだけが頭の中を占めていく。
婚儀を行い、彼女は自分の妻となった。これから先、いくらでも好きに手を出せる。いくらでも自分好みに修正できる。だから今は先のことを考えるよりも、目の前の欲を優先して。


「そろそろ貴女の中に入っても…?」

上から見下ろされる視線に鼓動を早くしながら。こくり、口を真っ直ぐ噤(つぐ)んで頷く。
本当、可愛らしい反応だ、と口にはせず小さく微笑む紅明。触れていた肌から手を離し、璃芳の脚の間へと身体を滑り込ませ挿入しやすいようにと脚を広げた。そっと内腿へと手を這わせればビクリと反応を見せる。既に熱くそそり勃った自身を璃芳の恥部へと宛て、逃げないようにと脚と腰を捕まえておく。

そのまま濡れた場所へゆっくりと腰を沈めていけば想像以上の締まり具合に顔が歪む。は、と息を吐き、もう少し力を抜いてくださいと言ったはいいものの、力の抜き方などわからぬ璃芳に紅明は一度、腰の動きを止めた。


「息を吸って、吐いて、…そう、上手です」

息を吐き体の力が抜ける瞬間、その一瞬の緩みをついて腰を進める。突然のことに驚いたのといきなりの侵入に驚いたのだろう、璃芳は痛みにも似た声を上げ、背に敷かれている寝台の布を握りしめて耐えている。紅明も紅明で、挿入した後にくる膣内の抵抗感と締め付けに声が漏れる。


「っは、あ……璃芳……っん、」
「こ、こうめ、い、さまっ」


少しずつ中へと侵入していく。抵抗感はまだあるものの、よく声をあげずに耐えたものだと下で耐える璃芳にそっと口づけを落とした。
目尻から零れる水に見向きをしていないわけではない。指でそれを拭い、頭を撫でていく。ずっと我慢して目をつむっていたらしい璃芳が紅明の優しい指遣いに気が付いたのか目をあける。思っていたよりも随分と近い距離にあった顔に驚いた表情を見せ、同時に顔を赤く染めていった。


「璃芳」
「はっ はい」

ふ、と微笑みかけ、油断をした拍子。腰を動かし始めた紅明に璃芳はぐっと口を噤む。というより下から突き上げられることによりうまく声をあげられない、と言った方がいいかもしれない。あ、ぐ、と言葉にできない声を洩らしながら出し入れされる行為にぐっと耐える。
まだ痛みを伴うのだろう。眉を顰(ひそ)めるその表情をわかってはいるが、紅明は行為をやめることはない。むしろその表情を見ることに少し喜びを感じている部分があった。この状況で、妻となった女性の痛みに耐える姿など、自分しか見れないという特別な証。これだっていつかは見れぬものになるだろう。ならば今は存分に味わっておかないと。

時折露出した腹部や胸を触ってやりながら、そうして口づけを落としながら律動を続ける。口づけの合間、璃芳の口から熱い息が吐かれると、何処かそれに欲が高まり、限界を告げる。


「…、あ、ん、…んっ」
「はあ、璃芳、…っく、ぅ…」


ぐっと腰を掴み打ち付ける腰の動きを徐々に速くしていく。抵抗感というよりもぴったりと形が合うといった方が正しいだろうか。ぎゅうと程よく紅明を追い詰めていく璃芳の中。次第に荒くなる息に璃芳も紅明の変化を感じたらしい。潤ませた瞳で、自分の上で攻め立てる紅明を見つめた。
視線に気が付いた紅明も璃芳を見つめ、限界に達する前に一度、口づけを落とす。身体をそのまま前へと倒し、ぐっと足と腰を抱えて璃芳の奥へと精を吐きだした。

肌の上を滑る紅明の息に、髄が痺れる感覚を残しながら璃芳はそっと息を吐く。
ずるり、中から紅明が去れば虚無感に似た感覚を覚えるが、それと同時に身体が重たいことに気が付く。うまく動かない身体をそのままに、紅明にされるがまま抱きしめられた。



「漸く、貴女を……」


小さく呟かれたそれは丁度璃芳の耳には届かない。え?と聞き返せども、紅明は応えなかった。
上から感じる紅明の重さと、行為の後の気怠さ。伸し掛かる重さはこの人もちゃんと男なのだと思わせてくれる。直接感じる体温に、先ほどまでどこか怖いと思っていたことなど忘れて。
抱きしめられる腕の力が強くなる。何か、応えなくてはいけないだろうか。生憎腕すら動かすのもつらい状況で、璃芳はぽやぽやとする頭で懸命に考える。それでも腕は動かせない。

そっと目を閉じる。体温を感じる。近くに、隣に、触れる距離に、契りを交わした夫がいる。何を考えるでもない。行為の熱によって上手に考えることもできない頭で絞り出した答えは、自分の全てを委ねるように紅明の肩へ頭を預けるということ。
そうして唯この腕に抱かれたまま、これが夢ではありませんようにと願うだけ。

14.06.15.
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