午前の授業が終わった昼休み。各々好きな場所で昼食を食べ、午後の授業までの時間を潰している。喋っている者もあれば寝ている者、予習をしている者と様々だ。
その中で一際賑やかなのはここ、私たちのグループ。

「ちょっと、それ私のお菓子!」
「いいだろ別に」
「買ってあげたの僕〜」

私の手の中からお菓子を奪い取っていった優介に声を上げると、教室の端っこでノートを整理していたらしい天城くんがこちらを鋭い目で見てきた。
すぐに視線はノートへと戻されたけれど、今のは確実に…

「…睨まれた?」
「なまえがうるさくするからだろ」
「大体優介の所為」


再び天城くんへと視線を向ける。もう私たちに興味はないようで、机に向かってノートと対面している。日ごろから真面目な印象が強く、成績は優秀、授業態度もよし、顔もよしの隠れて人気のある男の子だ。

「真面目だよね、天城くん」
「驚くほどなまえと逆だね」
「騒がしいけど、私、成績は普通だからね」

私は楽しく学生生活を送りたい。だから真面目に勉学に取り組んでもいないし、楽できるものなら存分に楽をして授業を受けている。よって成績至って普通で、テストの点数も平均的だ。
一方、一緒にいるこの三人は驚くくらいに頭がよくて、一緒にいるにもかかわらず私とは比べ物にならないくらいの成績優秀者。


「同じ優等生として、亮はどう思ってる?」

吹雪でも優介でもなく、亮へと問いかけてみる。一番馬鹿真面目に答えてくれるだろうと思ったからだ。
ふむ、と手を顎に添えて考え始めた亮。それもすぐ終わり、顔をあげて口を開く。

「…少し、心配になるくらいの優等生、だな」
「実は天城くんのこと気にしてたでしょ?」
「それを言うなら藤原と吹雪もだ」
「…フン、なまえも同じだろ」
「なまえも気にしてたんだね。僕、嫉妬しちゃうなあ」
「吹雪は黙ろうか」

そう。天城くんはこの三人以上に真面目で、成績優秀者。学生の模範というべき優等生。だが一緒にいる友人の様な人間は見たことがない。
だから亮や吹雪、優介が心配するのも当たり前と言えば当たり前というのだろうか。


「ねえ、ちょっと天城くんと仲良くなりたいな」


前々から気にはなっていた。真面目しか見たことがない彼、天城くんのことが。
だから見てみたいのだ。天城くんの、



「…で、何で俺らに」
「いやあどうにもこの三人は参考にならなくて!」
「だからって俺たちですか」

仲良くなりたい、と言ったはいいものの、どうにも四人でいい案が浮かばなかった。
吹雪は「色仕掛けでいいってみたら」などとふざけた案を出してきた。それじゃあ別の意味で仲良くなっちゃうっての。「勉強で釣ってみる」と言いだしたのはいいけれど、そもそも私が却下した。
こんな感じでなかなか決まらなかったので、後輩のところへ助けを求めに来た、というわけだ。

ちなみに一番真面目に聞いてくれているのは、意外にも万丈目くんだったりする。明日香ちゃんは十代くんのお守兼用です。


「んー、なまえ先輩、料理得意でしたよね」
「調理実習のときだけ成績5」

そう言ったのは明日香ちゃん。でもそれがどうしたの?と疑問を浮かべていると、亮は何か気がついたように顔を上げた。

「ああ」
「気付いた、亮?」
「それなら……」


――――――――
―――――
―――


「天城くん、放課後ちょーっと理科室来れる?」
「は?」
「渡したいものがあるんだ。じゃ、待ってるからよろしくー!」


…ということがあり、俺、天城カイトは迷っていた。
誘いに来たみょうじはクラスでも明るく元気でうるさいくらいの存在。いつも一緒にいる藤原、丸藤、天上院は、何故共にいるのかと疑問に思うくらいだ。よく後輩と共に騒ぎを起こす常習犯だが、友人が多く悪い奴ではないことは見ているだけで分かる。
そんなみょうじが何故俺に、何の用があって呼び出すというのだろうか。

しかも午後の授業は藤原と共にサボりという始末。丸藤と天上院はいたものの、そんなことをするみょうじの呼び出しを素直に聞くべきかどうかで迷っていた。
だが「待ってる」と言われたからには行った方がいいのだろう。行かずにネチネチ文句を言われるのも後々疲れる。
言われたとおりに理科室へと足を運んだ。放課後だからか、理科室のある棟は生徒が少なく人気もあまりない。こんな所に本当にいるのだろうかと、理科室の前まで来て足を止めた。


「ちょっと、来ないじゃん。やっぱり吹雪と亮に連れてきてもらうんだった!」
「それ怪しまれるって言ったのなまえだろ」
「じゃあ優介に行ってもらうんだった!」
「俺が言ったらますます怪しまれるだろ、馬鹿!」

中からかすかに聞こえてくる会話にため息を吐いた。…警戒せずとも、いるか。人気のない所に呼び出すから何かあるのかと思ったが。まあみょうじだけではなく丸藤、天上院、そして藤原までいるのだから心配は無用だったか。
そうして俺は理科室の扉を遠慮なく開けた。


「天城くん!きた!!」

椅子に座っていたらしいみょうじは俺の登場に立ち上がる。手招きをされたのでそのまま四人の方へと足を進めた。


「で、何の用だ。手短に願おう」
「何って、これ」
「……これは」
「ケーキ!新作なの、食べて」

これ、と指さしたのは実験台の上にあるケーキ。恐らくみょうじが作ったのであろうそれはシンプルに飾られたオレンジのケーキ。確かみょうじは調理実習ではいい成績を修めていたはず。それならば出来に心配はないだろうが、何故俺に?


「理由を聞かせてもらおう」
「天城くんと仲良くなりたいから」
「…と言って聞かないからな」

フォローしてきたのは藤原。食べ物で釣るというのはよくわからないが、俺なんかと仲良くなりたいからこんなことをしていたのか。午後の授業まで欠席して。
無駄なことを…

「無駄だとか思ったでしょ?」
「っ!」

率直に自分の思ったことを言い当てられ、思わず息をのんだ。それは図星だと言っているようなもので、少し居心地の悪い空気が俺を包む。だが目の前のみょうじはそれでも俺から目を離さない。


「私たち高校三年だよ。真面目に勉強するのも大切だけど、最後の年くらい無駄なことして楽しんでもいいと思うけど?」

ね?と微笑むみょうじに、丸藤、天上院、藤原の三人も口を緩める。

「私だって理由もなしに騒いでるわけじゃない。節度を持って楽しい学生生活を過ごしてるつもりなんだけどな」


確かに後輩と騒ぐこいつらはトラブルを起こしたり、呆れたことをしていることが多い。けれどそれを心の底から嫌悪したことはない。決して悪い奴ではないとわかっている。だが、呆れ、馬鹿なことをしていると思うだけ。
俺には関係がないと目を逸らしていた。…俺にはないものを持っているこいつらを見たくなかっただけ。
俺の手の中にないものを無意味に、無駄に欲しがるつもりはない。ただ、それでも…。

テーブルへ置かれているケーキ。傍にあったフォークを手にとり、柔らかなスポンジを刺す。掬ったケーキをそのまま口へ運び、中で広がる酸味と甘みに悪い気はしなかった。


「…フン、そうだな。みょうじの言う通り、そうしてもいいかもしれない」
「っ今、笑った…!」
「は?」



残りの学生生活、今までの真面目さの代わりに何かを手にしてもいいかもしれない。そう、こいつらと共に“楽しむ”ことをしてもいいだろうと。
…俺にはないことをするこいつらと騒いでも、罰は当たらないだろう?



  orange chance




――――――――
6666のキリ番を頂きました、アクアさまへ。
カイトと友人になるお話ということだったのですが、友人への一歩というところになりました。このままカイトくんも友人になるよう関係性を変えてくれるはず!
それと、ケーキを渡したのは翌日と考えていただければ時系列が合うはずです…。
アクアさまのみお持ち帰り可です。リクエストありがとうございました!
13.04.03.
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