ベクターに腕を掴まれ外に連れ出されていた。突然現れたベクターに戸惑いながらも着いてきてしまった私。

(…外見は真月くん、なのになぁ)

サルガッソでの出来事を目の当たりにし、真月くんと少ない期間だったが恋人同士だった私は、今の状況があまり好ましいとは思えなかった。
あのときの真月くんはいない、あんなに明るく無邪気な笑顔を浮かべた真月くんは、もういない。今この腕をつかんで共に歩いているのは、バリアンのベクターだ。


「おい、遅ェぞ」
「っどこ、いくの」
「はあ?何処でもいいだろ」

どこでもいいって、突然家に押し掛けて支度しろと脅かして無理矢理連れてきた奴の言う言葉?
確かに真月くんもマイペースというか、よかれと思っての行動だったけれど。まさかベクターが元々こう、マイペースな俺様だったから真月くんがあんな性格だったのだろうか。

「ね、ねえ」
「あァ?」
「…なんで、私のところに来たの」


私は彼に裏切られたのだ。遊馬とは状況が違えど、彼に裏切られた。彼はバリアンで私は人間。彼の潜入の手口の一つとして利用された…と言った方が正しいだろうか。
それでも彼のいいように扱われたのには変わらない。そしてサルガッソで私は“捨てられた”はずなのに。


「なんだァ、恋人が会いに来たってのにその言い草は」
「は、」
「可愛い可愛い恋人のとこに来てやったんだっつってんだよ、なまえチャン」

正直ふわふわが付いたダサ…カッコイイ服で現れ、今までと全然違う空気を纏った彼はもう、以前とは違うように見えていた。
全て変わってしまったのだと思ったのに。

「…まさかテメェ、別れたと思ってたのか」
「…だって、あんなことになればそう思うでしょ」

真月くんがベクターだと真実を告げられて、関係を続ける方がおかしい。私も忘れようと努力はした。彼はいなかったのだと。

「俺にとってお前は想定外だった」
「うん?」
「お前は真月零としてしか見ていなかったが…お前のことは俺自身がそれなりに気に入ってる」
「ベクター…」


それがまた彼に振り回され、利用されることだとしても、私はその言葉が嬉しかった。偽りでも私が好きだと、思ってくれるなら。
忘れる努力はしても忘れられなかったのが事実。私は…私は彼を、真月くんがベクターだとしても、すきなのだ。

「実際、テメェも嬉しそうな顔、してたしなァ?」
「え、な、何それ!」
「俺が家に行ったとき、驚いてはいたが笑ってもいた。気付いてなかったのか?」
「し、知らない…」


そう、たぶんきっと、私は彼が真月くんでもベクターでも好きなのだ。だから無意識に彼の存在を視界に入れて笑ってしまった。


「フ、ヒハハ、テメェももの好きだなぁ」
「仕方ないでしょ…すきにしたのはそっちなんだから!」
「そりゃ悪ぅございました」


掴まれていたベクターの手がいつの間にか腕から手に移っている。ぎゅうっと握り返し、離れないようにと指を絡めて隣を歩いた。



行き先の見えない何処かまで。


――――――――
T&Nのはるなさまへ!
甘めのベクター夢ってあまりないですよね!ってことで物珍しさに書きました…楽しかったです、はい。
はるなさんの真ベク、ベクター夢が好きすぎて困る!
piacevole! 祐葵
2013.05.06.
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