何故かなまえがタオルを口元に充てていた。普段は特に何もしていないはずなのに。
それに顔が険しい。あとはあまり話さないと言ったところだろうか。


「っけほ、ん、…こほ」
「おい、大丈夫か」

肩を縮ませて苦しそうな咳を出す。突発的なものなのか、歩いていた足を止めていた。なまえに合わせ俺も足を止めて咳の様子をうかがう。

「だいじょう…っ」
「風邪じゃないか?熱は?」
「ん。咳だけなの、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう、どうみても」


こほこほと軽い咳を続けるなまえ。だからタオルを持っていたのか、と納得をする。
口元にあてがわれたタオル越しに聞こえる咳声。いつもよりも会話が少なかったのは咳が出やすいから声を出したくなかった、というところだろう。
咳が出ると言うことは少なくとも体調が悪いということ。風邪が一番可能性が高いだろう。まったく。

「移される身にもなってみろ」
「…ごめん」

い、いかん。気のきいたことを言えんのか俺は。しかし出てしまった言葉は取り消せない。

「ふ、ふん。体調管理を怠ったんじゃないのか」
「んー ちょっと最近、疲れがたまってたかな」
「疲れ?」
「ちょっとデッキ色々いじくってて」


デッキは必要以上に組みかえないやつだったはずだ。何か思うところがあったのだろうか、あまりいじくることをしていなかったから慣れておらず、時間を要しただろうに。

「この子うまくつかえないかなーとか、これ入れたらこの子はどうなるだろう、とか考えてたら真夜中になってることが多くて」
「はあ、まったくお前は」
「うう。自己管理が足りなかったです。…っけほ」


再び咳をしだしたなまえの背中をさする。というかそれくらいしか手を出せない。あまりしてやれることがないという事実、自分を悔しく思う。

ふと、さすっているなまえの制服が薄いことに気付く。女子の制服はスカートが短い上に腕が丸出しだしな。色々カバーできるものがあるのだが、なまえが其れを使うことは滅多にない。こんな恰好ならば風邪をひいてもおかしくはないだろう。
症状が出てからでは遅いんだぞ、馬鹿。


「! 準くん…」
「そんな格好で、風邪をひくに決まってるだろう」

着ていた制服をなまえの肩にかける。露出している肩を隠せば寒さは防げるはず。これで咳も出なければ一番いいのだが。

「でもそうしたら準くんが寒いよ。風邪ひいちゃう」
「そうだな」

そもそもそんな格好で外を出歩き、しかも夜更かしをして体調を崩しているのだから言えばいいものを。こんな外になど出てこなかったのに。
こいつはもっと俺を頼れないのか。


「では俺の部屋に来い。特別に温めて、看病でも何でもしてやる」

これが俺の、なまえに今できること全てだ。

――――――――
果たして万丈目さんにしっかり看病ができるのかは謎ですが(笑)
13.03.01.


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