※夢主片想い サテライトで出会ってから、ずっと貴方を見ていた。まだ少年と位置づけられる年齢だったけれど誰よりも大人びて見えていた。 Dホイールも全部作ってしまう、仲間と絆を大切にする貴方をいつでも。 シティへとやってきてキングになって、そしてダークシグナーと戦って。傷つくこともあったけれど、幾人もの人があなたに救われて前に進むことができた。信じる強さと優しさと、遊星の持つ奇跡を私は知ってる。 深夜。一日中メンテナンスで疲れたらしい遊星は部屋でぐっすり寝ている。いつものようにご飯をつくって片づけて、家事の役割をこなした私。それが終わるが今日は泊まり込みだ。 遊星の部屋をノックし、返事がないことを確かめる。随分と疲れたのだろう、私の訪室に応えない。そっと扉を開けて中をのぞけば案の定、ベッドに横たわり寝ている遊星の姿。 小さく「失礼します」と口ずさみ、足音をたてないようにベッドへと近づく。やはり起きない遊星。顔の真横に膝を抱えるようにしゃがみこむ。滅多に見られない遊星の寝顔を、暗闇に慣れてきた目が捕らえた。 「………」 静かな寝息を立てる遊星。目の前に来ても気付かないなんて、やはり余程疲れていると見えた。そんな遊星に気付かれないよう、ため息を吐く。 この想いはきっと口にしてはいけない。いけないとわかっている。 けれど遊星、貴方を想う度に強くなっていくんだよ。どうしようもなく自分の中であふれていく。伝えられないもどかしさと、いつも通りに振る舞い支えていく日々の寂しさ。 「あなたが、好き」 そっと跳ねている特徴的な髪へと触れる。顔にかかっている髪を避け、綺麗な肌をみせて。 こうして見ているだけでいいの。静かに、密かに想いを抱えていられれば気が済むから。でも時々、こうして言葉にさせて。 「…すき」 闇のカーテン越しに、小さく呟く。まるで星のつぶやきのように小さく、か弱く、か細く。 私と遊星の間には、確実に分け隔てる何かがある。この暗闇のなかにも。 隠しきれない恋を、いつまでも抱き続けるわけにもいかない。 それは自分を守るためでも、どこかで自分を傷つけ、もしかしたら遊星も傷つけてしまうかもしれないから。 「ん…」 髪に触れていた手を瞬時に離す。くぐもった声は目の前の遊星からで、眉を潜ませた表情をしていた。 ゆっくりと開かれた瞳からは逃げない。暗闇の中で覚醒したばかりの意識には簡単に分からないと踏んでいたから。しかもこの様子では寝ぼけている確率が高い。 「…なまえ、?」 寝起き特有のかすれた声で、自身の名が呟かれる。 その声にドキッと胸がはずみ、鼓動が早くなった。いけない、動揺しては。落ち着いて乗り切らなければ。 そんな私の心情を理解していない遊星はぼーっとベッドの前にしゃがみこむ私をみている。反応のない私にどうしたらよいかわからないらしく、寝起きでうまくまわらない頭を傾げていた。 枕もとの電気をつけようと手を伸ばす遊星の腕を掴んだ。おねがい、明かりはつけないで。私は、本当はここにいないのだから。 分かってくれたらしい遊星はそのまま腕をしまってくれる。 「すきだよ、遊星。だからおやすみ」 「あ、あ…おやす、み」 跳ねた髪を撫で、覚醒しきれていない遊星を再び眠りに就かせる。しばらくして聞こえてきた寝息に安堵のため息を吐いた。 触れるか触れないかの位置で、頬にあるマーカーを指でなぞった。 「好き、遊星。…ごめんね」 ね、気付かないふりをしていて。あなたの耳に届く言葉は、空耳だから。 ―――――――― これまた谷山浩子さんの曲から。 13.02.05. 修正13.03.02. |