休憩しない?となまえが声をかけてきたのはいつものことだった。暫く休憩して作業に戻るのがいつものこと。しかし今日は少し違っていた。

「ゾラさんとこでオーブン借りたの」

香ばしい匂いを漂わせて現れたのは様々な形のクッキー達。作業中から微かに感じていた甘い香りの正体はこれか、と各人納得している。あわせて出てきたコーヒー、紅茶にひと息つく。クッキーを手にとって口へ運び、その甘さに口元を綻ばせた。


「なあ、なまえって暇なのか?見てる限り仕事してる感ねーんだけど」

クロウの言葉に遊星は確かに、と呟いた。ジャックは素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいるように見えるが、しっかり聞き耳は立てているらしい。

「食事を作りに来てくれているのは有り難いが、大丈夫なのか」
「大丈夫大丈夫!」
「だって働いてなかったら金ないだろ?大丈夫じゃねーって!食料代とかちょっと出してもらってるし」
「そういうことはお姉さんに任せときゃいいの」

ほらほら、とクッキーをつまんでクロウの口へと突っ込む。すかさず遊星の口にもクッキーを突っ込んだなまえに二人は口を閉ざすしかない。

「親からの仕送りというわけではないだろうな」
「親?違う違う。両親の所在しらないし兄姉とも疎遠だよ」

黙っていたジャックがようやく口を開き、なまえを睨むように見た。年下に睨まれても動じないなまえは笑って返事をするが、親の話題にはあまり乗り気じゃないのか口早に終わらせる。

「じゃあ大きな稼ぎでもあったのか」
「…聞きたい?」
「まあ、」
「気になってはいるしな」

遊星とクロウが顔を縦に振る。ジャックは話したければ好きにしろ、と反応は見せなかったが黙って待っている。
そうだなあ、と口元に指を運び考える仕草をするなまえ。どこから話そうか、どこまで話そうか。


「17の時に家を出るでしょ。そのあとはキャバクラのホールでお姉さん達の世話係。暫くして店長と世話してたお姉さんの推薦でキャバ嬢に異動して稼いでた」
「「「ブッ」」」
「ああ大丈夫、お店だけで簡単に身体は許してないよ」
「や、そりゃそうなんだけどよ」
「ええい、未成年からそんな場所で働いていいと思ってるのか!」

コーヒーカップを割れない程度にテーブルに叩き置き、握り拳を作って声を張り上げる。

「ガッツリ化粧すればそれなりに大人っぽく見られたの」
「そういう意味ではないっ」
「まあ私も稼ぎたかったしね。それも20になって辞めたから」

大体はそこの稼ぎを貯金してなんとかやっていると聞いてほっとする面々。確かになまえの顔は整っているし、それなりの稼ぎはあったのだろうと想像しておく。人当たりもいいし接客も得意そうだ。
そんななまえにジャックは苛立ちを隠せないようで、眉間に眉を寄せたままコーヒーを口に含んだ。

「あとついちゃうぞ」
「ふん、構わん」
「勿体ないなあ」

ジャックの眉間をツンツンとつつくなまえはどこか楽しそうで。鬱陶しいとその手を払いのけるジャックにも楽しそうに対応していた。

「貯金があるのは分かったが…今は何かやっていないのか?」

流石に貯金だけでやりくりするのは厳しいだろう。自分だけでなくこうして食材云々を提供してもくれているわけだ。ジャックに構っていた手を止め遊星を振り向く。

「今?今はガールズバー」
「「「ブフッ」」」



「貴様…もうガールという歳ではないだろう」
「知ってる」
「(突っ込むとこそこかよ)」
「(突っ込むところが違うだろう)」

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なまえちゃんもう24歳くらいなので…女子より女性です。(girlよりwoman)
2013.01.07.


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