「っけほ、こほ」 ちょっと可愛らしい咳が隣から聞こえた。口を押さえ、苦しそうな表情で彼女が 「なまえちゃん、大丈夫?」 「ん、うん。ごめんね、マスクするから」 「風邪かしら」 「疲れてると咳が出やすいの」 そういってなまえちゃんはタオルとマスクを取り出す。 確かに最近は体育も疲れるようなものらしく、杏子と二人で体育の授業の後は疲れた表情を見せていることが多い。それに宿題も意外と出されていて、なまえちゃんは律義にしっかりとやってくるからそれも大変なのだろう。 放課後は僕たちのDMに付き合わせて頭を使わせちゃってるし。なんだか悪いなあ。でも一緒にいたいし、というお互いの我がまま(だと思ってる)があるから、いいよ、なんて優しい言葉はかけたくない。 これこそ僕の我がままなんだけど。もう一人の僕に知られたら呆れられちゃうな。 なまえちゃんは咳だけだというニュアンスだったけれど、もしも風邪だったら熱も少し出てるかもしれない。 熱の方は、体調は、どこか他におかしい場所はない? 色々と聞きたいけれど、真っ先に口に出たのは熱のことだった。 「熱は大丈夫?」 「っ!」 自分の前髪をあげ、なまえちゃんの前髪もあげておでこ同士をくっつける。触れた感じ、熱はないかな。でも寒くないようにした方がいいかも。 なんて考えていた僕は目の前のなまえちゃんの顔が真っ赤に染まっていくのをまじまじと見ていた。そう、僕と視線を合わせずに、耳まで真っ赤になっていくなまえちゃんの顔が目の前に…目の前に? 「え…わ、わああああ!ごめん!」 無意識に自分のとっていた行動に、慌ててなまえちゃんからおでこを離した。うわあ、何やってるんだ僕!今更ながら自分の行動に顔を赤くする。っていうか、あんなに顔を近づけるのって初めてじゃないかな。キス…するときは別として。 「う、ううん、大丈夫」 「わあ、遊戯。やるぅ」 「おいおい大胆だなぁ遊戯!」 「やーん大胆ー」 からかう杏子に本田くん、城之内くん。ちょっと城之内くん気持ち悪いよ。獏良くんまでクスクス笑っている。「もう!」と制止をしてなまえちゃんを向いた。 「ね、熱はないみたいだから!」 「うん、まだ大丈夫みたい」 「ちゃんと暖かくして寝てね?」 「ありがとう」 もっともっと、気持ち悪くないかとか、寒くないかだとか聞きたかったけどうまく言葉にできなかった。 咳ひとつ。なまえちゃんがするという、それだけで取り乱してしまう僕はもう、取り返しのつかないくらい彼女のことが好きなんだと思う。 だから、ねえ。早く元気に笑って。 ―――――――― 遊戯さんにおでここっつんで熱計られたい…あんな可愛い顔をドアップで拝めるなんて。 動機が不純すぎた。 13.02.28. |