KCに訪れることが多い(というよりも無理矢理置かされていると言った方が正しい)私は外に出てこの言葉をよく耳にする。 「海馬社長、格好いいわよね」 まあ確かに黙っていれば格好いいよ。背は高いし頭いいし、私情を混ぜながらだけど会社は存続させたい一心で働いてるし。 だけど外見がよくても、性格があれほどに我がまま俺様自己中心的で±0じゃないだろうか? というようなことすら通ってしまうくらいの人望やなんかは持ち合わせているから、それ含めて彼という人間なのだろう。包み隠すなんてことは得意としないだろう彼はありのままでマスメディアにも対応するのだろうし。 10代という年齢でありながら社長で多くの社員をもっているし、経済力としては十分だとは思う。 そこは認めるのだけれど。 「遅い」 「…すみません」 ここにいる人物が海馬瀬人だとわかるのか、周りには野次馬が結構いる。 そりゃ黒塗りの車に腰掛けて腕を組んだコートをなびかせた長身の男っていったらこのあたりではKC社長しか思い浮かばないだろう。私はそうです。しかもその、やっぱり格好いいんだよ。 「一体何分かけるつもりだ」 「あーはいはいすみませんでした。以後気をつけますー」 「貴様、俺にそんな口を聞いてタダで済むと思っているのか」 「え、わたし別にKC社員じゃありませんし」 待たせていた海馬社長さまと共に車へと乗り込む。「出せ」という海馬くんの合図と共に発進した。私はというと買い物をしてきた袋を置いて一息ついている。 車の中へと入り腰を落としても、私と海馬くんの間での口論は絶えない。 「服ごときに時間をかけ過ぎだ」 「いいでしょ別に。色々みたいんだってば」 「そんなに俺のコーディネートは気に食わんか」 「ええ気に食わないです。普通のお洋服がいいです」 「っなんだと!あれが普通じゃないだと!?」 「お揃いのそのコートはないと思うんですけど!」 思うに、海馬くんは私とこうやって口論することでストレス発散してる気がするんだよね。学校に行く日は名もなきファラオ…もうひとりの遊戯さんや城之内さんなんかと軽い口喧嘩をしているけれど、会社に籠っているときにはそうも出来ないし。 だから手っ取り早く、不本意ながら居候という形で存在している私を利用している、という。 「流石に会社にいるときは着てもいいけどさ」 「では帰ったら着替えるんだな」 「今日着るなんて一言も言ってない」 海馬くんの気に障る一言を私もわざわざ言わなくてもいいのに、可愛くないなあと自分をしみじみ感じる。 口喧嘩に付き合ってあげてる、というわけでもない。私もこういうことが楽しいのだ。流石に本気で怒られたり本気の口げんかになれば疲れるのは当たり前で、おまけにその後の海馬くんのご機嫌取りにもうんざりするくらいだからそこまで発展はしないけど。 「もう、私でストレス発散しないで」 「なっ 俺は」 「わかってるんだからね。別にいいけど、そう軽い口を叩ける仲になってるのは嬉しいわけだし」 それでも、それだけの関係だなんて感じてほしくない。 「もうちょっと恋人に対して何かないわけ」 むすっと出来る限りの表情をつけて訴える。私がそんな事を言うなんて思ってもみなかったのか、海馬くんは珍しく口を開けてこちらを見ていた。 私の言葉を理解したのか、開けていた口を閉じ、同時に瞳を伏せてから再びその瞳に私をとらえる。こちらに伸びてきた腕からは逃げない。そのまま海馬くんの手は私の頬へとたどり着き、大きな手で片頬を包まれる。手の温かさに目をつむれば何かが近付く気配がした。 もう片方の頬へと、ちゅ、と唇が落とされる。すぐに離れたそれに静かに瞳を開けた。頬から手がおろしていた髪に移動し、流れるように撫でながら離れていく。 「………不服か」 「…うん」 「き、さま」 「もっとしてくれるならいいかな」 こう、優しく扱われることはあまり多くないから、今みたいな行為はとてもうれしい。滅多に感じられない“恋人”としての扱いに頬が自然と緩んだ。そのついでにわがままを。 と、同じくして目の前の口端が上がる。うわ、これ何か企んでるな。 「なら、その減らず口でおねだりすることだな」 社長と私の相互関係 ―――――――― “社長”を意識して書いたんですけど全然でてないというね! あと最初がなんら関係ないフラグだしてますけど全然回収できてない。 12.02.28. |