※藤原が全然でてこない。


吹雪と優介がいなくなってから、私は周りと少し距離を置くようになった。理由は簡単。皆みんな…誰もが優介の存在を覚えていないから。唯一いなくならないでいてくれた亮は私をひどく心配する。また彼も、優介の存在を覚えていない。それがとても悔しくて、亮とも少し距離を置いていた。

亮、吹雪、そして優介。この三人とはいつも共にいた。勿論女の友達もいるけれど、この三人は別格。どんなふざけたことも真面目なことも、この三人と一緒にして過ごしてきた。
中でも優介は私を本当に大切にしてくれていた。自惚れでもなく、確実に優介は私を愛してくれていて。そして私も優介のことを、愛していて。二人で過ごした時間も多かったし、私は一番優介のプライベートの時間に踏み込んでいた自覚はある。共有していたものが多かったから余計、優介のいなくなったという事実に心がぽかりと開いていた。
誰にも埋められない、亮でも、友達でも、この穴は埋められない。優介じゃなければ埋められないの。


『なまえ』


どうして、どうして誰も覚えていないの。優介を、どうして誰もが忘れてしまったの?
何故私だけ、優介を記憶にとどめておいているの。優介、あなたがいないと私は前に進めないよ。一人で進むのは嫌。一緒がいいの、一緒に前に進みたいの。なのにどうして私の隣にいてくれないの。優介を置いていけない、いきたくないのに。嫌でも前に進まなくてはいけないことが辛い。
時を重ねて、あなたのことが記憶からどんどん落ちていくのが怖い。私はあなたを忘れたくないのに。思い出としてではない、記憶としてあなたを憶えていたいのに。
声も、顔も、あなたの優しい気持ちも、すべて私しか覚えていない。私にしか、あなたをとどめておくことはできない。…ううん、優介だけが私をとどめておける。私の気持ちを、このままここに、優介を想う気持ちだけしか置いていけないから。


『俺は…』


私をすきだって、言ってくれた優介の声が頭に響く。私も好きだよって、優しいあなたに抱きつきたいのに…今ここにいないあなたにどうして抱きつけるだろうか。
私の頭を撫でる手に、優しく私に向ける瞳に、しっかりと私を抱きとめる腕に、…その記憶に私の気持ちを、捧げるの。


「優介、さみしいよ」

ねえ、今どこにいるの。寂しいでしょう?優介はとくに一人が嫌いだから、一人だったなら寂しいでしょう。そこに吹雪はいる?吹雪は優介に迷惑かけないようにね。
私は寂しい。あなたがいなくて、優介が隣にいてくれなくて寂しいよ。できたら、早く戻ってきて。早く私に会いに来て。私を、私だけ優介を覚えてるなんて、こんなの夢だって思わせて。この夢から覚めたいの。夢から覚めたらきっと、笑って三人で私を迎えてくれるんでしょう?

みんなみんな、優介を忘れてしまったんだよ。
わたしだけ、私だけが貴方を覚えてるの。私しか貴方を知らないの。ねえ、寂しいよ。
私はあなたを覚えていたいのに、こうしてひとりだけであなたを想うのは。



アムネシア


あなたとの記憶は、私の中に在り続ける。
例え私の中だけでも、ずっと。

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アムネシア:記憶喪失症
藤原、吹雪がいなくなったあと、なまえちゃんだけが藤原の存在を覚えています。周りが記憶喪失症、ということで。
13.01.12.


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