「万丈目くん、クッキー作ったんだけど食べる?」
「ああ、戴こう」
「紅茶淹れていいかな」
「俺がやる。みょうじはそこに座っててくれ」

そう言って立ち上がった彼は紅茶の支度をテキパキしてくれる。私が紅茶がすきだと言ってから、何故か率先して紅茶を淹れる。
彼の紅茶を淹れる後ろ姿を見るのは好きだし、私のために淹れてくれると考えては幸せな気分に浸る。

「ほら」
「ありがとう」

持ってきたクッキーを広げておき、二人分の紅茶を手にした万丈目くんが戻ってくる。
ソファに座ると万丈目くんの体重分だけ沈み、2人私も自然と彼に寄り添う形になった。

「もらうぞ」
「どうぞ」

軽くクッキーをつかみ口まで運ぶ。サクッと良い音を立てて咀嚼されるクッキーに、表情を変えずにいる万丈目くんに、私は見入っている。

「…、ジンジャー、か?」
「うん。初めて作ったから分量よくわかんなかったんだけど」
「このくらいでいいんじゃないか」
「わかった、万丈目くん好みにしておくね」

実際のレシピだともう少し多い量だったのだが彼の好みはこのくらいらしい。あとでレシピに二十線を引いて書き直しておこう。
その後もクッキーを食べ続ける様子の彼をみて、私も彼が淹れてくれた紅茶を口にする。折角淹れてくれたのに温かいうちに飲まないと。

「ふう」

温かい紅茶が喉に落ち、食道を通っていくのが分かる。ほっとした溜め息を吐き私もクッキーへと手を伸ばす。

「…なまえ」
「っ、ごふ!」
「な、だ、大丈夫か?!」

クッキーを口に入れた瞬間、彼から発せられた言葉に思わず咽せる。
背中をさする彼の手は大きく温かくて、それに異常に反応しながらも数度、咳払いをして呼吸をすれば咽せは治まった。

「ごめ、いきなり名前呼ばれて」
「いっ いつまでも名字のままではいけないからな!」
「でも突然すぎるよ」

何も今言わなくても、と小さく笑えば彼は畏まった形で咳払いをする。

「名前を呼びたくなったから呼んだ…それでは駄目なのか」

彼の真剣な表情に、声に、格好いいなと場違いなことを思ってしまう。
いつもとちょっぴり違う感じにドキドキする。

「…ううん、いいよ」

さっき名前を呼ばれて驚いたのは確かにあるけど、でも、同時に嬉しかったのもある。大好きな彼に名前を呼んでもらえることに、幸せを感じた。だからもっと呼んでほしい。
それが普通になっても、彼に呼ばれたらいつでも幸せな気分になると思うから。


「これからちょっとずつ呼んでいこうね、準」


ぼんっと耳まで赤くした彼に、可愛くて抱きついた。
それに怒鳴られるのは数秒後の話。
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初出:12.11.24.


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