ちょっと痛い感じ



パチン、

パチン、


「あれ、まだ帰ってなかったの」

一人夕焼けの射す教室にいると、扉を開けて入ってきたのは獏良くん。

「獏良くんこそ。どうせ告白の呼び出しだろうけど」
「あはは、まあ、ね」

仲の良い遊戯くんたちは先に帰ったらしく、獏良くん一人だ。そして帰らないのか、獏良くんはわたしの隣の席に座ってきた。

「帰らないの?」
「何やってるのかなーって」
「…明日の授業資料を留めてるだけだよ」
「ああ」

そういえば今日、日直だったね。と。
獏良くんの美しい顔立ちが、髪が、存在が、夕焼けのオレンジに灯されてより綺麗に私の視界に映る。
獏良くんが近くにいて、でも彼をつなぎ止めておくことはできなくて。彼は私のものではないし、私も彼のものではない。一方的な感情が私の中を渦巻いていく。
綺麗で美少年とうたわれる獏良くんを、わたしのものにしたい、なんて。


「手伝おうか?」
「平気。あとすぐで終わるから」

見れば未完成の資料の山はもう低くなっており、完成した資料が山になっていた。
手にしたホッチキスで残り少ない資料を次々と留めていく。それを面白くもないのにみている獏良くん。
実際のところ、こんな作業をみられていると変に恥ずかしい。地味だし。
ああ、そんなにも綺麗な輝く瞳でみないでほしい。吸い込まれて、無理矢理にでも手に入れたくなってしまう。


「ホッチキス」
「えっ…」
「ホッチキスで、大切な人とくってけていてほしいと思う」
「え、…と?」
「特別なものじゃなくて、日常にあふれてたり、いつもあったり、よく存在するようなもので大切な人をつなぎ止めておけたらいいのにって、思わない?」

唐突に、ホッチキスに抱いていた思いを吐露してみる。案の定獏良くんはいきなりの話題に驚いていたけど。
そう、例えばこのホッチキスで今、私と獏良くんをパチンとすれば…


「奇遇だね」
「…え、」
「僕も今、ホッチキスで一つにできないものかなあって考えてたんだ」


例えばの話、君と僕を、ホッチキスでパチンとか、ね。


手にしているホッチキスを持つ手が、彼の手に包まれる。
このまま血を流して、ホッチキスで一つになってみるのも悪くない。



――――――――
ホッチキスでエロい話だれかかいてくれないか、と思ったんですが、自分で書いたら痛い話にしかならなかった。
初出:12.09.30.


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