D-ホイールに夢中な遊星を外に引っ張り出した。天気もよく清々しいというのにガレージにこもりっぱなしなのは身体に毒すぎる!前々からそうだったけれど、もう少し外に出るということをした方がいいと思う。 作業のことはブルーノに一旦任せて嫌な顔をする遊星を引っ張りながら歩いている。ブルーノは快く引き受けてくれたし、クロウも外に出してやれって言ってたし、ジャックは知らない。アキも龍可も龍亞も心配してたんだから。 「ほら、気分転換気分転換!」 「そうだが、」 「じゃあそんな不満そうな顔しないの」 年上だからだろうか、心配することがいっぱいある。遊星だけじゃなくてジャックやクロウ、アキにもお節介なんじゃないかというくらい心配することはある。そんなに年が離れているわけではないいけれど、経験上心配してもしすぎることはないメンバーなので心配に心配を重ねている、という感じ。 「ずっとガレージに籠りっぱなりは身体に毒だよ?わかってる?」 「ああ、すまない」 「本当にすまないって思ってるー?」 「…思ってるに決まってるだろ」 まあ遊星が面倒だなって思っていることは百も承知なわけです。 こんなの私の満足がいけばいい話しなわけで。身体の心配はしているけど。 とりあえずどこでもいいんだ。遊星を連れ出して出かけられるのが嬉しいから。どこへでもいい、遠くに行かなくても歩いていける距離でも、遊星を一緒ならどこでも楽しいし特別に思えるの。 ガレージを抜け出して色々と歩いていると公園が視界に入る。広い公園だ、小さな噴水に花壇、ベンチもある。ふと、遊星を困らせてやろうと思いついた。 「ねえ、そこの公園でキスしてよ」 「は?」 「で、見せつけちゃいたいなー」 世で言うキングに位置する遊星と、キスをして。私のなんですーって一度言ってみたい。なんて。そんな独占欲は大っぴらにはしないけれど。 そんな私の提案にきっと遊星は照れるだろう。滅多に私も言わないし、遊星だって公衆の面前でいちゃいちゃするのは好きじゃない…と思ってる。だから照れてる可愛い顔を私に見せてほしい。顔を赤くして、口元を手で押さえて「馬鹿じゃないのか」って言って。困って見せて。 「わかった」 …は?と思ったのもつかの間、遊星が私の腕を掴んで誘導をしている。目的地はどうやら先ほどの公園らしく。思っていたのと違う反応に何もできない私は引かれるまま。 噴水の前まで来た私たち。遊星は私の腕を離すと向かい合う様にして立つ。 えーっと、もしかして? 真剣な表情の遊星は私の肩と、頬に手を添えてくる。そのまま近づいた顔に避けることもできない。いや、ここで避けたら避けただけれど!重なる唇に伝わるぬくもり。目を開いたままの私の前には、目を閉じている綺麗な遊星の顔がドアップにうつっている。 ちょっとちょっとちょっと。待って、私は遊星の赤くなって困った可愛い顔を拝めたかった筈なのに、どうしてこんなことになっているのだろう。考えたけど目の前の状況に意識をとられてうまく考えられない。 軽く重ねた唇はそっと離れていく。その間、やっぱり私は目を見開いたまま。 「キスをするときは目を閉じろ」 「え…いや、うん」 「それと俺を困らせようとしたみたいだが、そう簡単にはいかない」 いたずら少年のように微笑んだ遊星の顔はなんだか工具を弄っているときのように生き生きとしていた。そんな顔、ずるい。そんな格好いい顔、不意打ちだ。 思わず火照る顔を手で覆う。あうう、格好いい! 「困らせる役はいつでも俺だろう」 …こういうときだけ、年下ぶって甘えちゃって。 不器用ながらにしっかり甘えてくれる年下の恋人に、敵わないなあ、としみじみ思った。年上なりに心配して、ちゃんと受け入れてあげましょうかね。 赤い顔のまま、遊星の腕に飛び付いてみた。 ―――――――― また谷山浩子さんの曲からネタを頂きました。 13.01.06. |