クッションを抱いたままうずくまっている小さな物体をみてため息をついた。そんなにもつらいのにどうして家に来た。家で休んでいればいいものを、わざわざ約束だからと来て、辛いのはお前だろうに。といいたいのは山々だが、今の彼女に言っても聞いてはいないだろう。
月一でくる習慣的なそれは彼女の腹部を強く刺激している。痛み以外のなにも受け付けないように彼女は先程から黙ったまま。話す気力もないのだ。
…つまり聞く気力もない、という計算で導き出した答え。だから俺はせめてもの身体を冷やさぬようにとクッションに更に肌触りのよいタオルを敷いて彼女を移動させた。


「大丈夫か」
「だい、じょぶ」
「見てる限り大丈夫じゃねーよ、それ」

大丈夫かと問えば大丈夫と返す。明らかに微塵もそんなことはない状態に、心配をかけさせまいとしている姿が逆に痛々しい。

「来るときは平気だったのか」
「薬飲んで、きたから」
「あー…」

薬効が切れてこの状態というわけか。確かに家に来た当初は何でもない装いだったがお腹を抱えだしたのは部屋に通してすぐだ。その頃から切れだしたのだろう。

「痛くなるってわかってるなら、家で大人しくしていた方がいいだろ。なんで来たんだよ」
「…来ちゃだめなの?」
「お前は約束だから来たんだろうが」
「違うもん」
「違わねーだろ」


いつもいつも、約束は律儀に守って。馬鹿みてーに尽くしやがって。今日が楽しみでなかったわけではない。むしろ家でゆっくり二人で過ごすのは好きでデッキ調整なんかも見てやろうとしていたのだ。
しかしこんな彼女の痛々しい姿をみてどうしたらいいか分からない。ただ彼女の楽なように、したいがままにしてやるのが一番だろう。


「…………だって、凌牙くんに会いたかったから」
「は?」
「凌牙くんと二人で、会いたかったんだもん」

痛みからか恥ずかしさからか、そう言ったなまえは膝を抱えて顔を埋める。ば、っっかじゃねえか。言葉をようやく理解し、顔が熱くなる。
そんなこというな、馬鹿じゃねえか、そんなこと、ばか、あほ。

「…阿呆」
「あ、ほって、ひど…っ!」

頭をぐっと引き寄せて抱き締める。馬鹿だろ、こいつ。会いたいのは俺だって同じだし、約束通り家にこれないのであれば俺がお前の家に行ったって全然構わねえだろ。
考えればいくらでも手段はあるのに、こいつは約束通りにいつもしようとする。馬鹿だ、本当、ばかな彼女をもってしまった。わしゃわしゃと髪を撫で、持ってきたストールをばっと頭からかけてやる。

「わ、なに」
「それかけて暖かくしてろ、いいな」
「ちょっと、凌牙くんどこ行くの」
「うるせー」


ばか、あほ、…そんなことを思いながらも、ちゃんとなまえのことを想っている。
じゃなきゃ家になんて招かないし彼女にもしない。だからこそ体調が優れないのなら無理せずに休んでほしい。自分の身体を労ってほしい。約束を破ったからといって無闇やたらに怒る人間ではない。それなりの理由があって仕方ないのであれば怒るわけねーだろ。あと会いたいなら大人しくしてりゃ会いに行くくらいするんだ。本当、思考回路せめーんだよ。


色々なことを考えながらキッチンへと辿り着く。食器棚から来客用の……もう既に半分、なまえ専用となっている……マグカップに粉とホットミルクを注ぐ。ティースプーンでかき混ぜ、ため息を吐いた。


「ばーか」

でも、こうして無理にでも会いに来てくれたという事実に、本当は頬が緩んでしまう。本音は嬉しい。会いたかったからという言葉でどれほど浮かれただろうか。
零した“ばか”という言葉には、なまえにも自分にも向けて発したものだった。




「あ、凌牙くん…」
「ん、冷やしたら大変だろ。飲め」
「ミルクココア!」
「そうだよ」
「やったあ、ありがとう凌牙くん」

部屋に戻り、ちゃんとストールを巻いて待っていたなまえにマグカップを渡す。熱さにふーふーと息をかけて口に含む。なまえの隣に腰を下ろして横目で盗み見る。ばかで、かわいい彼女を。

「はふ…あったかい」
「大人しく温まってろ」
「うん」

飲み終わったらしいマグカップをテーブルへおく。満足したらしいなまえの頬は身体が温まったからか赤く染まっていた。
ああ、抑えられない。耐えきれなくなった俺はなまえへと腕を伸ばし、ストールごと引き寄せて抱きしめる。先ほどよりもずっと、もっと、強く。今度はお腹に手を当て、直に暖めてやるように。


「凌牙くん、ありがとう」
「次から無理すんな」
「ん」

微笑んですり寄ってくるなまえに、俺も顔を寄せて堪能する。お腹に置いた俺の手を包むように小さな手が重なる。
ああ、部屋がこんなにも甘い。

――――――――
生理痛でおなか痛めてるとこにココアいれてきてくれる凌牙がみたい。
13.10.21.


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -