※前世王子


誰も私を信じていやしない、誰も私を敬ってなどいない、誰も、誰も誰も。だから私も誰も信じない。誰も、誰も。常に人を疑い、裏を読みながら生活している。
家臣にはある程度の恐怖を与え、絶対の力を見せつければ自ずと私についてくる。ただしおかしな行動を少しでも見せればもういらない。そんな偽善関係は端から全て崩していく。信用をしている振りも、信頼をしている振りももう慣れた。

そんな私に、隣国から姫が送られた。四姉妹の末妹だそうで年もそこまで変わらない。ただ王子の私に送られたのだから、もちろん妃か妾にという話だろう。その辺の話は興味がないので家臣に任せた。後日、妃として私に送られた姫はそれなりに小奇麗な少女だった。


「王子、今日はいかがなさいますか」

それなりに常識はある。政には口出ししない。私のことを一番に考えながら生活している。私の機嫌が悪い時には口を挟まず隣にいるだけ。それも億劫であれば合図をするだけで退室をする。すべてがすべて私のいいように行動をする。聞きわけがいいところは逆に疑う要因にもなるのだが、見ている限りでは穢れを知らず純粋無垢。何を企むようなことはしないと単純に考えてもいいだろう。
そんな彼女は私のすることに本当に口出しはしなかった。滅多に浴びない返り血を浴び、そのまま部屋に帰った時はさすがに怯えはしたものの、私の命により処刑が執行されても何も言わず、ただ私の言う通り思う通りに生活をしていた。

「…いい、そのままいろ」
「畏まりました」



それでも、私は、いつまでも疑わないわけにはいかなかった。



「べく、たー、おう、じ」


か細い声で私を呼ぶ。口から血を流し、閉じそうな目を懸命に開きながら、見下ろす私に向かって手を伸ばしながら。
本当に信じられなかった、ただ一心に私に尽そうとした存在でさえ、疑いの目なしに見ることができなかった。周りにいた家臣や兵さえも私は切り、姫にまでも刀を向ける。白い肌から赤い液体が流れる。音を立てて倒れたコイツはそのまま私を見つめていた。
信じることが、できなかった。


「王子、わたしは、わたしは貴方のおそばににいられて幸せでした」
「な、にを…」


ろくに喜ばせることも、愛してやることもできなかったというのに。


「貴方のお傍で生きられたこと、誇りに思います」
「どういうことだ、どうして、どうして!!」
「全てが貴方のモノ、私のこの小さな命でさえも貴方のものなのです。さあ、どうぞお切りくださいませ」

その涙を流す姿を心なしか綺麗だと思ってしまって。
こいつ、尽した相手に殺されるって言うのにこんなにも綺麗な顔できるのかよ。意味がわかんねえよ、なんでそんな、まっすぐ…俺のことなんか!!


「あいしております、だからこそ貴方のすべてを信じられた。この肉体が切り裂かれ、滅びようとも、あなたを信じることは変わりません」

涙が伝い、口から流れる赤に混じって髪を汚していく。いつでも俺に向けていた笑顔を変わらずに向け、震える手を俺にのばしている。
ふと力尽きた目の前の妻。変わらぬ笑顔を最期に、俺に伸ばされていた手は地に落ちた。

「う、うあああああああああああああああああああああああああ!!!!」


おれは、なにかをとりこぼした気がした。

――――――――
信じてくれる人もいたけれど、結局は疑心暗鬼になってしまった王子には何も効果がなくて自分しか信じられなかったのだと思います。大切なはずの命が傍からいなくなって、ちょっとずつ壊れていく王子もいいかな、なんて。
13.12.30.


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