お世話になり始めたトロンの家の比較的使われていない部屋を片付けていると、埃のかぶりかけた箱を見つけた。中を開けてみればそこにはバスセットが入っており、2つ空きがあるだけで他はそのまま。あ、これ泡風呂に出来るんだ。
こんな所にあるのだし、もう使う気はないのだろうか。もしいいのであれば残りのものを使ってみたい。ここに来る前はお風呂でこんな楽しみ方はしなかったから。


「ああ、いいよ。好きなように使いなよ」


箱を持ってリビングにいたトロンに訪ねれば意外にもすんなりお許しがでた。
もしこの箱の持ち主が新しい兄弟の…今はいない母親のものだとしたらと思ったが、そうではなかったらしい。トロンが昔頂いたものだと言っていたので、もし母親のモノだったらどうしようと内心ヒヤヒヤしていたのだ。

「ありがとうございます」

箱を抱きしめてトロンにお礼を言う。今夜はゆっくり泡風呂で入りたいから一番最後だ。どんな感じになるんだろう。今まで入ったことがないから、どういったようになるのかが楽しみで仕方がない。
静かに夜のお風呂を楽しみにしていると、ミハエルがこちらをじっと見ているのに気付く。隣に座っているトーマス兄さんが私を見ているミハエルに気付いたのか「おい」といっている。

トーマス兄さんは今でこそ食事も食べてくれるし同じ空間にいても何も言わなくなったが、最初の頃は本当に同じ部屋に入る度に睨まれていた。気まずくて怖くて泣いてしまい、クリス兄さんに慰められた時には益々睨まれた、ということもある。私の存在は許してくれているようだが、慣れ合うにはまだ時間がかかりそうだと感じる。
それもありトーマス兄さんはミハエルが私と仲良くしているのが嫌らしい。ミハエルが私と少し話しているのを見つけると、無理矢理腕を引いて連れて行ってしまうことも多々あった。だから今回もそうなのだろうとミハエルのこちらを見る目に笑みを浮かべて応えた。

抱えている箱を抱いてリビングを去ろうとすれば、後ろからすとんと小さな足音が聞える。その後に続いた背中への衝撃に私も足をとめた。振り向いて背中に抱きついている犯人を確認すれば、ピンクの可愛らしい髪のミハエル。



「ぼく、姉さまといっしょにアワのお風呂に入りたい…!」

ぎゅ、と抱きついたまま、小さな背で私を見上げる。ミハエルの行動に、言葉に、トーマス兄さんは言葉が詰まっていた。クリス兄さんもトロンもミハエルの行動に驚いた表情をしていたが、クリス兄さんはすぐに笑みを浮かべた。

「おい、何考えてんだ!」
「W、うるさいぞ」
「っ兄さん」
「いいんじゃない、なまえがよければVと入ってあげてよ」

ミハエルを止めようとしたトーマス兄さんをクリス兄さんが止める。トロンとクリス兄さんは了承してくれるようだが、トーマス兄さんはやはり気に食わないらしい。

「…だめ?」

上目遣いで見上げたミハエル。こんなに可愛い顔をしてダメ?なんて、断れるわけがない。
ずっと私と関わりたそうだったミハエルのお願いだ。私ももっとミハエルと関わりたかったし、彼から来てくれるなら大歓迎。本当のことを言えばトーマス兄さんとも関わりたい。トーマス兄さんはそれに応えてくれはしないだろうけど。


「ダメじゃないよ。じゃあ一緒に入ろうか、ミハエル」
「っはい!」
「泡いっぱいにしてゆっくり入るからお風呂は一番最後だけど、大丈夫?」
「うん!それまで待ってるよ」
「いい子ね」

ぎゅっと腰を掴んだミハエルの頭を撫でる。何だか一気に距離が近くなった気がする。私に甘えてくれる年下のおとうと、という実感がやっと湧いてきた。
この家に来て初めて会って、そこからやっと近づけたような、一歩距離が縮まった様な感覚。
そんな私の視界の端で、トーマス兄さんはむすっとしている。


「…Vを取られて寂しいんじゃないのか?」
「そ、そんなことねーよ!」
「ではなまえと仲良くしているVに嫉妬かな」
「ちげぇって、なんでそんな事になるんだよ!」

クリス兄さんとトロントの会話はよく聞こえなかったけど、どうやらトーマス兄さんは今の事態が気に食わないらしい。
ミハエルが一緒にお風呂に入ることだし、いい機会だからトーマス兄さんも泡風呂に誘ってみよう。ドキドキしながらも思い切って声をかけて見た。もちろん、返事を返してくれるかなんて期待はしていなかったけれど。

「トーマス兄さんも一緒に…」
「馬鹿かお前!!!」
「兄さま一緒にはいろうよ」
「だー! 入んねえよっ」

怒ったトーマス兄さんはぷりぷりしたまま「風呂!」といってリビングを出ていってしまう。
背中を追った視線は私もミハエルも、クリス兄さんも同じ。ただ、トロンはW兄さんをみて静かに笑っていた。


―――――――
―――――
―――



「姉様!みてみて、こんなのがあったから買ってきたんです!」


珍しく仕事のないW兄さんとお茶をしていた。そこに出掛けていたVが帰ってきて買ってきたものを袋からさっそく取り出している。中からは可愛らしいラッピングがされたものが出てきた。薔薇が散りばめられていてとても綺麗。
Vの手から私の手へと渡され、よく見て見るとそれはバブルバス。入浴剤が数種類入ったセットだ。


「わ、泡風呂にできるやつ?」
「そうです。ね、今日一緒にお風呂入りませんか?」
「えっ!?」
「ブフウッ!」

一緒にリビングで紅茶を飲んでいたW兄さんが、丁度口にしていた紅茶を噴き出す。汚いな、と思ったけれど傍にあったタオルを使って自分で拭いていたので言わないでおいた。
しかしVの発言には私も驚くしかない。この歳になって一緒にお風呂は無理だろう。


「…V、お前、流石にそれはねーよ」
「え、だって昔一緒に入ったじゃないですか」
「昔の話だろーが」
「もうちょっと今の年齢を考えてみようか、V」


Vは今でも可愛いけれど、流石の私も15歳になった弟と一緒にお風呂は無理かなあ。


――――――――
最初はトロン一家に来て少したった頃、最後はアニメ本編ら辺です。
密かにVはなまえちゃんがずっと好きで計画的に「お風呂に一緒に入りましょう!」とか言っていても…よし。
ちなみになまえちゃんがミハエル等と名前で呼んでいるのは、まだ家族として慣れていないのでとりあえず名前呼びしているだけです。
13.04.20.


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