クリス兄さんが施設に迎えに来た。父さんが帰ってきたのだと、そういって。施設に預けられていた俺とミハエルはその事に喜び、楽しみな気持で聞いていた。それでも兄さんの表情は暗く、何かあったのかと悟った。
その後に告げられた真実に―――父さんが以前とは変わってしまっていることに、俺もミハエルも半信半疑でいた。しかし、家に帰って出会った父さんは兄さんの言う通り以前とは全く変わってしまっていた。外見も、心さえも。それでも父さんが帰ってきたのだと、兄さんとまた家族と一緒に暮らせるのだということに嬉しさを隠しきれなかった。

それも、父さんの一言で壊されてしまうのだけれど。


「君たちの新しいきょうだいが出来たんだ」
「あたらしい、きょうだい…?」
「うん。X、入っておいで」


クリス兄さん…いや、X兄さんが部屋へと入ってくる。その後ろには兄さんより随分小さい、もしかしたら俺と同じくらいの何かが付いてきていた。
ミハエルが俺のズボンを握りしめる。この先を聞きたくないと、俺もミハエルの肩を掴んだ。

「なまえだ。唯一の家族だった母親が死んじゃってね、養子に迎えることにしたんだ。丁度君たち二人の間の年齢。Vのお姉さん、Wの妹になるよ」
「っなんだよ、それ!!」

俺のいもうと?ミハエルのあね?何を言っているんだ。俺たち家族は、母さんが死んでから四人だったじゃないか。父さんが帰ってきてまた四人で暮らせるのかと思ったのに、昔みたいに四人で。それなのに、それなのになんでそんなヤツ…!

「彼女の母親もね、Dr.フェイカーに殺された可能性が高いんだ。僕と同じ、復讐者。だから…」
「だからって、何でそんなやつ!」
「W」
「っ俺はトーマスだ!」

Wじゃない、Wじゃない、俺はトーマス、トーマス・アークライトだ。
父さんが戻ってきて、兄さんが迎えに来て、そうして迎えられた新しいもうと。いきなりのことに頭が付いていかなくて、俺はどうしても父さんの言葉が信じられない…いや、信じたくないだけ。
俺たち家族四人でまた暮らすんじゃないのか。復讐だけにとらわれていくのか。家族まで増やして、父さんは!

「W」
「ッ!」

父さんの…トロンの低い声に、ミハエルは泣きだしそうになる。俺のズボンを先ほどよりも強く握り、その身体は震えていた。
恐怖が身体全身に伝染し、俺もトロンに今は恐怖しか感じない。怖い。がちがちと震える歯を食いしばり、溢れそうになる涙を気合で止めた。ミハエルの前で泣けない、ミハエルは俺が。


「なまえ」
「っは、い、クリス兄」

そっと兄さんに背中を押され、後ろから出てきたのは髪の長い小さな少女。兄さんのズボンを握り占めていた手を解き、俺とミハエルに全身を現わした。よりにもよって俺たちの兄さんを“兄”呼ばわりして。

背中まである長いオレンジの髪。両サイドのリボンを揺らしていた。まだ幼さを残した顔は眉を潜めてこちらの様子をうかがっているようにも見える。人見知りか、人間不信か、どちらにせよ兄さんの後ろにずっと隠れていたのだからそこまで肝が座っているわけではないらしい。
泳いでいる瞳は泣きそうなほど潤んでいた。それでも兄さんに背中を押されて出てきた少女は俺とミハエルを見て頭を下げる。


「なまえ、です。よろしくおねがい、します」
「ほら、なまえも言ってるんだから、挨拶して?」
「、みは…っ」
「ミハエル、挨拶なんかしなくていい」
「え、で、でも」

反論は聞かせないという様にミハエルの口を塞いだ。そのまま俺の後ろに隠し、ミハエルには危害が加わらないように俺が前に立つ。目の前に現れた少女を睨みつけた。


「まだ慣れないようなら、名前でもいいけど」
「父さん!」
「W…ちょっと黙って」

冷たい父の声に、押さえていた悲しみが俺の中で膨れ上がった。
俺より、俺よりもそいつの方がいいのか。そんなにそいつの方が可愛いのか。俺はただ父さんの帰りを喜びたいだけなのに。どうして正反対の感情に飲み込まれていくんだ。



「ごめんね、まだ頭がうまく廻ってないみたいなんだ」


そういったトロンの言葉に頭を横に振る少女。
涙が溢れそうになるのを我慢し、少女を睨む。ミハエルの肩をぎゅっと抱き、それに応じたようにミハエルも俺のズボンをまた握った。


「大丈夫、君はここにいてもいい。一人になるのは辛いからね。ここが君の居場所だ」
「はい」

俺たちに応えてもらえなかったことが堪えたのか、挨拶したときのように明るい声では応えなかった。
父さんも兄さんも俺たちではなく、そいつばかりを気にかける。父さんに可愛がられ、兄さんにも懐いているそいつを見るのに耐えきれなくなった俺は後ろにいたミハエルの腕を掴む。


「…おい、ミハエル。行くぞ」
「あっ にいさま!」

よろけながらも俺の後をついて来る…ついて来ざるを得ないミハエル。それを分かっていながらも、腕を掴む力を弱めることなく歩き続ける。
俺たちをみていた少女の瞳。それに気付かぬふりをして、俺はミハエルの手を引き、部屋から立ち去った。


(これが俺たちの最初の出会い)


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Xには可愛がられていた&一緒に出てきたので懐いています。ただWさんが邪険にしてVはうまく状況が飲み込めていないだけ。
そんなトロン一家にお世話になる最初の話でした。プロローグ的な。
13.04.12.


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