「カイトくん」


呼ばれた声に足を止め、後ろを振り返る。そこには本とタオルを手にしたなまえがいた。


「ハルトのところに行くのかな」
「ああ」
「そう。じゃあ私は後での方がいいね」
「?何故だ」
「私だって、兄弟水入らずのところに入ってはいかないよ」

手に持っているものからしてなまえもハルトの元へ行くところだろう。用事があるのだろうから共に行けばいいものを、なまえはわざわざ後で行くという。
兄弟水入らずも何も、普段はなまえがいるところで俺は普通にハルトに会いに行く。その時はどうもしないのに。改めて兄弟水入らずと言われ、何か線を引かれたように思えてしまう。

「別にいい」
「私が嫌なの。邪魔はしないから」

踵を返して行くなまえに、思わず腕を掴んで止めた。


「…ハルトの、」
「うん?」
「ハルトのところに行った後、お前の所に行ってもいいだろうか」

線を引かれ、何処か遠くに行ってしまいそうななまえを、どうにか引き留めたくて。これ以上何処か遠くに行ってしまいそうななまえを止めたくて。
思わず伸ばした腕はしっかりとなまえを引き留めている。けれど離れていきそうなのは物理的な距離ではない、関係という名の、心の距離だ。

「…私、ハルトのところにいったら家に帰るの」

どうということもなく返された言葉に心臓が締め付けられるように痛い。
ここに寝泊りをすることもあるけれど、確実にいるわけではない。なまえはなまえで住んでいる家がある。そこに変えるのは当然なはずなのに。
返事によって緩んだ、なまえの腕を掴む手。そのまま振り切ってくれればいいのにと、俺のことを振り切ってくれればいいのに。

「そう、だったか」
「うん。だから一緒に帰ろう?」


掴んでいる手がなまえの手で包み込まれる。緩めた手はいとも簡単になまえの腕を離し、そのままなまえの手に納まった。
なまえの言葉に、その手に、言葉なく俺はなまえの目を見た。

「夕飯くらいちゃんとしたもの食べないとね。作ってあげる」
「…頼んだぞ」


なまえの手に納まっていた自身の手をするりと抜き、ハルトの部屋へ赴くために背を向けた。自分に向けられた視線を背中で感じながら、なまえと過ごす時間を思い馳せて。

――――――――
なまえちゃんはMr.ハートランドの養女と周りに認識されていますが、帰る家は別にマンションとして存在しています。数日に一度、マンションへと帰ります。
か、カイトくん難しいね…!
13.04.13.


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