『』→アストラルのセリフ
※アニメネタバレ





「……なあ、そろそろお前もなんとか言ったらどうなんだぁ?なまえ!」
「ッ!!」

真月くんから本当の姿へと形を変え、私たちへと種明かしをしたベクター。遊馬のデッキを破壊した後、ギロリと睨んできたのは私の方だった。

「思いだしただろォ?ちゃあんとした自分のことをなァ!」
「い、や…」
『なまえ?』
「おい、なまえ…お前、どうしたんだよ」
「や…やだ、」


真月くん…いや、ベクターにその目で見られる度に身体が硬直する。名前を呼ばれ、更に身体を束縛されたように締めつけられる感覚。まるで捕らわれてしまったように自分の意志で上手く動けない。
そして頭に巡る映像に、目の前のベクターに、今見ているものが本当に現実なのか疑ってしまう。何を信じればいいのか、誰の言葉に耳を傾ければいいのか、ぐちゃぐちゃになっていく頭にはもう何も侵入させたくない。これ以上掻き回さないで。
ふるふると頭を振る私。お願いだから、私を、私を…これ以上、私を追い詰めないで。

ふと断片的な映像が私の意識の中へと落ちてくる。頭痛と共にやってきたそれは、何か瞳の奥を熱くさせた。
私に手を差し伸べ、私と共に過ごしているベクター。
学校に通い、勉強も友達もいる中で過ごしている私。
どちらが本当で、どちらが夢で、どちらが本当の私なの。何を信じればいいの、私はいままで、なにと過ごしてきていたの?


「ほら、お前の居場所だ。来い」
「お前っベクター、なにいってんだ!なまえはっ」
「来い……ベルクル!」
「ッ!!」」


≪ベル≫


「ほぉら、お前はもう思いだしてるはずだ。自分の正体と、いるべき場所をなァ!!」


その言葉が合図だったように、一気に頭に流れ込んでくる映像。
私の隣にいるのはベクター。ぶっきらぼうに頭を撫でてくれたり、気にかけた視線を私に送ってくれていたり、面倒だと言いながらも私にいろいろと教えてくれているのは、紛れもなく目の前にいるベクター。勿論場所は私が今まで生活していた世界ではなく、私の身体だって今のものとは違っていた。私が泣きながら彼と別れる映像だってあることに、内から何かが込み上げてくる。
信じがたいものが頭の中で再生される。これはなに、これは、これは本当に私…?


「おら、来いよベル」
「ひっ」

私に向けて差し出される手。本能で、それを掴もうと手を伸ばしそうになる。けれど私はこの手をとるべきではない…いや何故とらなければいけないのか。本能は何故ベクターの手を取ろうとしたのか。何故共にいたのか、…なんて。

「思いだしたんだろォ…フフ、実は気付いてたりして、なあ?俺が遊馬とお友達ごっこしてるときから薄々よぉ」
「ち、ちが」
「汚いお前はそれを隠したまま一緒に過ごしてただろ!?なあ、どうなんだよベル…いや、なまえちゃん?」
「ちが、う…っ」
「汚いお前の唯一の場所がなくなるからって、遊馬の傍を死守しようと思ってるなよォ。お前の居場所はいつだって俺が…」
「っやめて、やめて!」


…嘘。疑問に思っているのではない、ただ、私の中に渦巻く何かを認めたくない一心で隠しているだけ。
そう、私は、ベクターの手を取るべき、存在。

時折混ざる真月くんの声。頭に響くベクターの声。全部が全部、私の頭をひっ掻きまわす。埋まった真実を掘り起こそうと記憶を全部ひっくり返して。
記憶の奥底へとしまったのに、辛い記憶を呼び起さないように幾重にも記憶を折り重ねていたのに、全部が無意味だったように記憶が蘇る。今の私になる前の、本当の私が目を覚ましてしまう。


「俺を失望させるなよ…なあ、ベルッ!」


すべて、すべてを思い出してしまった。



「やめて、ベクターちゃん!!」

たった一人私の存在を認めてくれたベクターを。利用できるだけだったとしても私を生かしてくれていたベクターを。…ベクターによって生かされ、依存してきた自分を。
私の大切な、大切な……


「ふ、ふふふ…ハハハハハハハ!!!そうだ、それでいい。お前はいつまでも俺のモノなんだからなア!」
『どういう、ことだ…』
「まだわからないか、アストラルぅ?ただの人間がお前が見えて触れるわけねえだろ!」
『…っなまえ!』
「お、い、なまえ…」

遊馬とアストラルが呼ぶ。それでも私は答えられない。違うんだと、拒否出来やしない。


「汚いお前だからアストラルに触れられる…そうだろ?なまえ」
「ベクターちゃん、やめて、おねがい」
「最初からお前たちを裏切ってたんだよなァ、なまえ?俺のモノだもんなあ!!ふ、フフフフハハハハハハハハハハ!!!」


そういったベクターには何も反論できず、私の前に立っている遊馬とアストラルの視線に、私は応えられないまま。
この真実が身体に染み込んでいく度、ただ熱い何かが私の中を駆け巡っていた。


――――――――
アスちゃんと遊馬にこうして精神的ダメージをプラスさせるベクたん。
この設定すごくおいしいと自分で思ってます。
13.03.31.


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