*異世界いく朝



「おーっす!みんなはやいなー!」
「お前が遅ぇんだよ」

遊馬が到着した先には既にカイトと凌牙がおり、凌牙の隣には璃緒もいた。オービタルがカイトの足元にいるのは最早遊馬の中では当たり前のことになっている。
メンバーもそろったところで、そろそろ出発したいところ。


「よっっしゃー!じゃあ…」
「いきましょうかね、遊馬くん?」
「げっ なまえ!なんで!?」


肩に手を置き、後ろから姿を現したのは恋人であるなまえ。いきなりの登場に飛び上がった遊馬は一歩後ずさる。
そういえば昨日、帰るときにポロっと口を滑らしたことを思いだすが、時間や場所まで行っていなかったから大丈夫だと思っていた。だから安心していたんだ、なまえを巻き込まずに済むって。

「璃緒先輩がご丁寧に連絡してくれたの」
「い、妹シャークが…?」

そりゃ妹シャークとなまえは仲がいい、というかなまえが慕っている。だから連絡を取り合うことは何ら疑問も持たない。
が、今日のことをいうとは思いもしなかった。だって妹シャークにとってもなまえを危険にさらす可能性があるって言うことは気付いていたはずだ。


「はあ…確かに私、デュエルしないよ。力になれることも少ないかもしれない。だけど小鳥までいかないってなったら誰が遊馬を支えるの?」
「えっと、えー…」

誤魔化し誤魔化し、遊馬は頬を掻きながら視線を泳がせる。そんな遊馬に対してなまえは盛大にため息を吐いた。

「小鳥は遊馬の幼なじみで大切なのはわかるし、連れて行きたくないって気持ちもわかる。一方、私は小鳥より遊馬と過ごした時間は少ない。けど今、あなたの恋人って立場なのは私なんだから。黙っていなくなって心配するのは当たり前でしょ」
「なまえ…」
「それに今、一時の恋人という関係だったとしたなら、幼なじみの小鳥より私を捨てた方がいいと思うのは当たり前だしね」
「っそんなこと、いうんじゃねえ!」


いつもとは違う暗い影を落とした瞳のなまえを衝動的に抱きしめる。急なことだったため、なまえもすぐに反応できずに遊馬の腕の中で目を丸くしている。
肩口に置かれた顔の重さ、ぎゅ、と締めつけられる腕の強さと、肌に伝わる体温に遊馬を感じた。

「俺にとって、お前も大切なんだよ…どうなるかわかんねえトコに連れてって、いいと思わないからっ」
「そんなに大切に思うなら、連れて行ってよ」
「えっ…」

顔を上げた遊馬の視界に入ってきたのは、今にも泣きそうに顔を歪めたなまえだった。


「それは逆だよ。わたしは、遊馬とならどこに行ったっていいもん。遊馬を遠いところから心配するくらいなら、知らないところでも、バリアン世界でもどこでも、遊馬となら!遊馬と、一緒にいたいの…!」


縋るように遊馬のジャケットを握りしめる。その手は珍しく震えていた。濡れた瞳のなまえを見て、遊馬も同じく顔を歪める。


「ごめん、なまえ!」
「やだ、許さない…」

なまえの言葉に震えながらも抱きしめる遊馬。恐る恐る背中に手を回すなまえは弱々しく抱きしめ返す。

「どうしたら許してくれんだ?なんでもする」
「お菓子、いっぱい買って」
「ああ、お安い御用だ!」
「行きたいところ、いっぱいあるの」
「ああ、お前の行きたいところ、いっぱい一緒に行こう」
「食べてほしい料理があるんだよ」
「うん、なまえの飯、上手いから楽しみだ」
「食べてくれる?」
「ああ、あたりまえだろ!」
「じゃあ私も一緒に連れてってくれる?」
「ああ、勿論!………え?」


肩口から顔を上げれば、簡単に唇が触れられる距離に顔があった。しかし今はそんなことより、なまえの口から出た言葉に、そして自分が返した言葉に開いた口がなかなか閉じられない。

「よし、今連れてってくれるって言ったね?」
「ちょ、ま、おいなまえ!」
「じゃあ私も同行ということで」


先程とは全く違う、明るいいつものなまえが目の前にいる。ひらひらと手を振るなまえは楽しそうに笑顔で俺の首に腕を巻き付けた。


「…はあ」
「……馬鹿」
「これでなまえも一緒ね」

周囲の同行メンバーにも呆れた目で見られる遊馬に、抱きついたなまえはそんなことには気づかぬふり。遊馬の首に抱きついていた。

「……遊馬、諦めろ」
「あ、アストラルまでー!?」

――――――――
いきなりですけど、アニメに影響されて衝動的に。
13.03.22.


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