白雄
下の方にアップしてある従兄妹で婚約者設定。
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「白雄さま!」
視線の先、見えた大好きな人物の名前を呼んで駆け寄る。背を向けていた彼は声の主に気づきこちらを向いた。
「紅凛、走るものではないぞ」
「もっ もうしわけ、ありません…」
怒られてしまった。彼の隣に立っても恥じぬよう、礼儀正しい女性となることを目標としているのに。
確かに城内を走るのははしたないが、仕方がないではないか。大好きな人がいたのだから、近くに駆け寄りたいと思ってしまったのだ。
「ははっ 紅凛は兄上に早く会いたくて走ったんでしょう」
「白蓮さま」
「兄上だって走ってきてくれて嬉しいと思ってるくせに」
「おま、余計なことを言うな」
嬉しいと思ってくれた?
白蓮の言葉が真実ならば、どれほど嬉しいことだろう。真実を知ろうと背の高い白雄を仰げば、すぐに頭に手が乗せられて下を向けさせられる。見てくれるなと、ぐっと抑えられて。
「は、はくゆうさま」
「…なんだ」
「わたくしは、白雄さまに早く会いたくて、」
「わかっている」
重みのなくなった頭に、恐る恐る顔を上げる。そこにはばつが悪そうに口を「へ」の字に曲げ、視線をそらす白雄の姿。
視線を紅凛へ向け、そっと手を伸ばした。その手は今度は頭ではなく、静かに紅凛の頬へ触れる。親指で頬をなぞれば流れるように耳、首筋へと滑っていった。
「今日もきれいだ」
目を細め、口を緩ませ、優しく触れる。
ああ、この方に触れてもらえることが こんなにもしあわせ。
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邪魔者は退散、と白蓮はちゃっかり姿を消す。