A promise with you | ナノ

探し人は何処へ


サンジ達にドフラミンゴの事を話そうとしたシアンだが、サンジは既にその事を知っていたらしく、電伝虫でローに連絡をしていたのだそう。


「まさかドフラミンゴが世界政府を動かせるなんて…何者だ?あいつ。」
「わからない。でも油断できない状況ってのは確かだよ。」


散り散りに散った仲間達が今どうしているのか分からない以上、此方が下手に動くわけにもいかない。
どうしたものかと悩んでいると、ゾロがダダダダ、と走っているのが見えた。


「ん?あいつ!」
「おお!! ゾロ殿!! ゾロ殿、こっちでござる〜!!」


ウィッカの年齢を聞くゾロの耳に、聞き慣れた声がするりと入り込んできた。見てみると、錦えもんとサンジ、それからシアンが揃って此方に向かってきている。
まさかここで迷子常習者であるゾロと再会出来るなんて思ってもみなかったサンジ達は、騒がしい中央広場から離れて、路地に入り込む。


「なにィ〜〜!ナミさんを助けに行く〜〜!? やっぱりヤバかったのか!! 道理で電伝虫に出ねェわけだ!! よし、おれも行く!!
「待て、サンジ殿。ルフィ殿に状況を知らせる為にここにいるのであろう。」


愛しのナミの事になると暴走するサンジに、本来の役目を錦えもんが慌てて口にするが、サンジはまったく聞いておらず、それどころか突然隠れるようにして現れたヴァイオレットの元へ、竜巻のように突撃する。


「あなた達の船がウチのジョーラに奪われて、グリーンビットへ向かってるわ!!」
「え!?」
「グリーンビット…ロビン達の所!? ドフラミンゴとぶつける気かな……、」


ヴァイオレットが報せたそれは、明らかに計画通りには進んでいない現状だった。


「私が行けたらいいんだけど…船まで戻る手段がない。ストライカーさえあれば良かったんだけど……。」
「シアンちゃんはここに残って、ゾロこいつのサポートを頼む。一人にはしておけねェからな、この迷子。」
「あ、わかった!」
「おい!!」


馬鹿にされている事が分かったのか、ゾロは目を吊り上げて怒る。本当の事だから仕方がない。


「つーわけで、おれの方が先にナミさんを心配してたし!! ナミさんだって、お前よりおれに来て欲しいに決まってる!!! だからおれが行く!!」
「わかった、行けよ!!」


サンジの理屈っぽくてまったく筋の通っていない台詞に、ゾロはもう何も言うまいとただ頷く。シアンとしてはどっちでもいいと思っていた。


「キンえもん、これはお前の同志のいる“オモチャの家”への地図だ。」
「おお、かたじけないっ!!」
「ルフィに会えたら、これでサニー号につなげ!! 一度全員の状況を確認しよう。おれはサニー号に戻ってる。」
「ナミ達をお願いね、サンジ。」
「もちろんだ!任せとけ!!」


キランと目を輝かせたサンジは、その後ヴァイオレットと共にサニー号へと行ってしまった。正直かなり不安だが、あのサンジの事だ。無茶な行動はしないだろう。


「じゃ、とりあえずルフィの所に行こうか。」


シアンの案内で、コロシアムに到着する。だが問題はここからだった。


「――で、どうすりゃルフィに会える。」
「わからんからここで立ち尽くしておるのでござる!! どこも完全に閉めきられており…、」
「流石と言うべきか……。」


大きな門の前で立ち尽くす三人は、どうにか中に入る術はないかと模索するが、ゾロの「じゃ、この壁ブッた斬るか!!」という突拍子もない発言に思わずツッコんでしまう。
この面子ではロクな案が出やしない、とシアンが頭を抱えたその時、コロシアムは大きな歓声に包まれた。


「盛り上がってんなァ。」
「まぁ、世界中から集められた猛者達だもんねぇ。盛り上がらない方が変だよ。」
「それより、どうするでござるか?これではルフィ殿に会えないでござる。」
「んー……どうするか――あれ?」


ふと上を見上げると、格子の向こう側から此方を見ている男――バルトロメオとばっちり目が合ったシアン。さっぱり知らない男の筈なのに、バルトロメオはシアンと目が合った瞬間ドバッと涙を流す。


「えっ、えぇ!?」
「どうした?シアン。」
「ぞ、ゾロ、あれ…。」


怖がりながらバルトロメオを指差したシアン。ゾロと錦えもんはその方へと目を向けると、そこには涙と鼻水と涎で顔がぐちゃぐちゃになったバルトロメオが。

何故泣いているのか、そう思いながら見ていると、バルトロメオがゾロとシアン、それからルフィの名を口にしたのだ。有名だからか、それとも――。あらゆる可能性を考えるシアンだが、ゾロは猪突猛進を体現する男。


「お前、何でルフィの正体もおれとシアンの名も知ってんだ!!」


気になった事をズバッと尋ねたゾロ。バルトロメオはそれに答えようと口を開くのだが、


「お…お…おれずる…おっとパンでったら!! (おれずっとファンですから!!)」
「??…コイツ、会話にならねェぞ。」
「アハハ……、」


これにはシアンも苦笑い。何を言っているか全く分からないからこそ、こちらとしても対処のしように困る。


「さ…さい…サインくれまづか!?」
「あ!?」
「ルフィ先輩探してくっから、ほいたらサイン一枚くんろ?」
「………?探してくれるんだな!? 頼む!! 急いでくれ!!」
「!! …!! ほ…!! ほー…!! ほいたら待っとってくんろ!! おれ、命懸けで探してくっから゛よォ!!」
「命懸けんでも…、」


ひどい訛りだが、何とか読み取れたゾロはバルトロメオにルフィを探すよう頼む。サインがどうたらこうたら聞こえたが、シアンはそれを聞こえなかった振りをして、漸くルフィに会えるとホッと息を吐いた。


「すぐに来るでござろうか。」
「さァ……でも、ルフィはここから出てこないと思うけど。」
「何でだ?」
「今回のコロシアムの賞品、エースのメラメラの実なの。それがドフラミンゴが用意したルフィと私を釣るための餌だった。」


シアンとルフィにしてみれば、それは至高の餌。やはりドフラミンゴという男は人の感情を弄んでいるが、実のところ誰よりも理解して見える。

大歓声が沸き起こる中、それに負けないくらいの大声が聞こえてきた。


「あ〜〜〜〜〜っ!!」
「お、」
「ん?」
「あ、」


三者様々な反応を見せる。ゾロ達は上を見上げると、格子の向こう側に探していた人物が顔を覗かせていた。


「シアン〜〜!! ゾロ〜〜〜!! キンえもーん!!!」

「ルフィ!! 声がでけェよバカ!!!」
「トサカの奴が案内してくれてよ!!」
「――で、あいつは?」
「それが途中で泡吹いちまって…。」


トサカとは、先ほどひどい訛りを披露してくれたバルトロメオのことだ。人の名前を覚えるのが苦手なルフィは特徴的な髪型から『トサカ』と名付けたようだ。
何はともあれ、傷一つない無事な姿にシアンはホッと息を吐いた。


「で、用って何だ!? ゾロ〜〜!!」
「お前なァ、こういう大会があるんなら何でおれを誘わねェんだよ!!」
「そうだな、悪かった。」
「人が町中かけ回ってんのにてめェは…。」
「おぬし!! それ用件ではなかろう!!」
「話まで迷子に……、」


てんで検討違いなことを話すゾロに、シアンと錦えもんは話を止める。そんな私的な用件は今はどうでもいいのだ。
錦えもんは慣れない手つきで電伝虫をかける。サンジからルフィと会えたらかけるように言われていたからだ。


「あァ…一応ルフィ、このコロシアム海軍に取り囲まれてるぞ。」
「ふーん。」
「軽い!! それが本題でござる!!」
「たぶん中将クラスかな、顔は見てないから誰かまではわかんないけど。」


取り囲まれてると言っても、まだ何かを仕掛けてきそうな雰囲気ではない。シアンはそう思って、特に何も行動せずにいた。
すると電伝虫が繋がり、ルフィは開口一番にサンジの名前を呼ぶ。


「サンジかー!? おれだぞ〜〜!!」
《ルフィ!!》
《こちらウソーーップ!!》


電伝虫から聞こえたナミやウソップの声に、シアンは安心したように笑んだ。いくらサンジがナミ達のところへ行ったからといって、不安が拭えたわけではなかったからだ。
「各自の状況を教えろ。」というサンジの指示に、まず答えたのはフランキー。


《アウ!! こちらフランキーだが…!! ウソップとロビンが一緒だ。おれ達は今…!! この国の反ドフラミンゴ体制『リク王軍』と一緒にいる。》
「軍隊!?」
《小人のな。》
「小人!?」


途端にルフィは反応を示し、興味津々だ。
しかし『リク王軍』という名に、シアンも小さく反応した。聞いたことがあったからだ。どこでいつ聞いたのかはわからないが、味方であることは変わりない。フランキーの話を聞いて、シアンは会ってみたいと純粋に思った。


《トラ男の作戦は承知してるつもりだ。『工場』を壊し、ドフラミンゴはあえて生かして利用する。――だが、今日ドフラミンゴを討とうとしてる奴らはどうなる。おれ達にとっちゃドフラミンゴ勝利の方が好都合か?》
「………。」


フランキーの問いにルフィは黙って聞く。空気を読めなさそうなルフィだが、こういう時は真剣に聞くことができるのだ。


《…ルフィ、お前が何と言おうとおれはやるぞ!!! 一見楽しげなこの国には、深い深い闇があった!!!
ウス汚く、巨大な敵に挑む。この勇敢なるちっぽけな軍隊を、おれは見殺しにはできねェ!!!》


涙声で叫ぶフランキーの言葉は、重みがあった。言葉の力とは偉大だ。ルフィもサンジも、フランキーの覚悟をしかと受け取ったのだから。


「フランキー!!」
《!》


ルフィの脳裏によぎるのは、おもちゃの兵隊を想って泣く一人の女――レベッカ。兵隊はレベッカを、レベッカは兵隊を想って行動するその姿が、ルフィには他人事には思えなかった。


「好きに暴れろ!!! おれ達もすぐ行く!!!」

《アウッ!!! すまねェ!!!》


船長の了承を得たフランキーは、涙を流して喜んだ。

すると、町が次々と壊れていく光景が目に飛び込んできた。ゾロ達も戸惑い、思わず見入ってしまう。そんな暇を与えないとでもいうかのように、目の前が大きな音とともに土煙をあげる。
焦る最中、土煙が晴れる――そこには思いもよらぬ人物がいた。


「トラ男!!」
「ドフラミンゴ!!!」



地面に仰向けで倒れるローは、遠目から見てもわかるくらいボロボロだ。トレードマークの帽子もないし、頭からはとめどなく血が溢れている。


「おい!! トラ男、お前何でミンゴと…!!!」


格子の中から叫ぶルフィに目もくれず、ドフラミンゴは憎々しげにローに拳銃を向けた。


「ガキが……図に乗りすぎだ!!」


――ドン!! ドン!! ドン!!



「!!!」


数発の弾丸は外すことなくローに撃ち込まれる。彼の身体は衝撃と痛みで軽く浮き、銃声が止むと力尽きたかのように静かに倒れた。


「(コラさん…!!)」


ある人物の名を心の中で呟いたローは、「ガフッ…!」と血を吐いてそのまま意識を失った。


「トラ男ォ〜〜〜!!!」


ルフィの悲痛と怒りが入り混じった叫びが、その場に響き渡った。





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