A promise with you | ナノ

“0”


「《『新魚人海賊団』は、怨念が作り上げたバケモノ達だ。先人達の恨みが忘れ去られる事を恐れ、人間達への怒りが冷める日を恐れ…!! 生き急ぎ!!》」

「ウオオオオオオオ!!」

「《己の聖戦が正しくある為、人間が良い者でない事を願っている!!! 血を欲するこいつらは、魚人族の平穏・・すら・・望んではいない!!!》」



怒りに狂う姿ばかり見てしまい、ホーディ達の奥底を誰も見てはいなかった。結果、ホーディ達は『何か人間にされて』人間を嫌っているのだと勘違いしてしまったのだ。



「《こいつらの恨みには『体験』と『意志』が欠如している!!!》」

「…………、」

「《実体のない……空っぽの敵なんだ!!!》」



フカボシの言葉がいまいち理解出来ない国民達は、その場から逃げようと騒ぐ。そんな様子を見ながらシアンはぼそりと空に向かって呟いた。



「…しらほし、」



――今が、目覚めるときだよ



ふ、と目を閉じたシアンだが、再び目を開けて座った。ネプチューンに背を預け、完全に極楽モードだ。



「シアン…お主心配ではないのか?」

「んー?まぁ心配だけど、ルフィが行ったし…。怨念で死ぬような奴じゃないし、しらほしは絶対にルフィに感化されると思うからね、なんとかなるよ!」



にはは、と軽く笑うシアンを見て、ネプチューンは深く息を吐いた。数年前と全く変わらないな、と感じながら。



「まさかお主が赤髪の船から降りるなど思ってもみなかったんじゃもん」

「それみんなに言われる。私としてはもう子どもの時から決めてたからねぇ」

「よく赤髪が許したな」

「ふふ、まぁね」

「…フカボシが、えらくお主に恩を感じておったぞ」

「恩を感じるなら私の方だよ。…また、ゆっくり話せるかな」



フカボシの叫びを聞きながら、シアンは数年前のことを思い出した。


まだ、自身が赤髪海賊団の一員としてこの魚人島に来たときの事だ。

シャンクスとはぐれ、魚人街に迷い込んでしまったシアンをフカボシが見つけて、島を案内してくれたのだ。つまり、シアンにとってみればフカボシは恩人なのだが、なぜそこでフカボシが恩を感じているのかはシアンには分からない。



「……もうすぐ、悪夢も終わる…」



そう最後に言った瞬間、“ノア”の落下が止まった。



「…海王類……。とうとう目覚めたのじゃもん。世界をも滅ぼしうる力が…!!!」



そんな言葉を意識の端で聞きながらシアンは立ち上がる。ネプチューンもどうやら竜宮城へ向かうようで、迎えに来たホエールに乗ろうとした。



「シアンも行くか?」

「後で行くよ、仲間とね」

「分かった、待っておるのじゃもん」



ネプチューンの返事を聞き、シアンは広場まで歩く。すると、上からしらほしがルフィを手に乗せながら帰ってきた。

その目からボロボロと涙を流しながら。



「お助け下さいませ!!! ルフィ様の血がお止まりになりませんっ!!! わたくし達の為に無茶をなさって!!!」



地面に降ろされたルフィは胸から酷く出血をしていて、治療が必要な状態だ。シアンは遠目からそれを見て、すぐさま駆け寄る。



「ルフィ!!」

「シアン!? アンタどこに居たのよ!?」

「わ、ナミ怖!って、それどころじゃなくて…ルフィ!!」



久しぶりに会えた仲間達の間をすり抜けながらルフィの元へ。目を開けないルフィに、シアンの中では不安が募っていく。



「ルフィ、ルフィ!」

「シアン様!!」

「しらほし…、」

「申し訳ございません!わたくし達の為に…!!」

「…謝らないで。…謝ったら、ルフィのしたことが無駄になる」



しらほしの顔を見上げて、シアンは笑って見せた。その笑顔を見たしらほしはぶんっ!と頷き、涙を拭う。



「ルフィ様、お助かりになられますか!?」

「血は止まるけど、流血の量がすごい。血が足りねェぞ!! 誰か、血液型F型いねェか!?」

「ウチにはルフィ以外Fはいねェからな」

「広場に誰かいるだろ!! 誰かーーー!!!



チョッパーが叫ぶが、国民達は皆顔を背ける。その事にシアンはギリ、と拳を握りしめて怒りをやり過ごした。



「わ…わたくし血液型違いますけど赤いです!! ダメですか!?」

「うん、よし!! 気持ちだけありがとな!!! そうだ、人間の海賊がいる!!」



しらほしの言葉に国民はざわっと騒つく。それもそうだ。この国の姫が血液提供をしようとしたのだから。

そんな時だった。



「わしの血を使え……!! 「F」じゃ!! いくらでもくれてやるわい!!」

「ジンベエ!!!」



やっと現れた提供者に、シアンはホッと息を吐く。するとジンベエの目が自分に向いている事に気付いたシアンは、「ありがとう」と、音もなく礼を言った。

シアンの横を通り過ぎるジンベエ。その瞬間、ジンベエはあることを口にした。



「よう似合うとるぞ、その帽子…!!」



大きなジンベエの手が、シアンの頭を撫でる。テンガロンハットが落ちない程度に撫でられるその手に、シアンは嬉しそうに笑った。


そうしてチョッパーの素早い作業で、輸血が行われる。




傷つけても……傷つけられても流れる、赤い血

とても道とは言えぬ程……か細く狭い、その管こそ――

恐れ合う偏見を……血で血を洗う戦いを

かくもた易くすり抜けて

絵空に描く幻想よりも確かに見える

“タイヨウ”へと続く道





――ドクン…ドクン…



「ジンベエ……」

「あ!ルフィ様お気づきにっ!!」

「「「ルフィ〜〜〜!!」」」

「何じゃい。意識あったか……」



待ち望んだルフィの声に、シアンはしらほしとともに涙を流した。泣き虫な二人は互いに抱き合い喜びを噛み締めている。



「ここが“0”です、母上」



フカボシのそんな言葉が聞こえ、シアンはさらに泣いた。

ねえ、シャンクス。ここは、魚人島は、



「なァ、ジンベエ……」

「?」

「おれの仲間になれよ!!」



素敵な国に生まれ変わったよ。



嬉しそうなルフィの言葉が、天高く空へと響いた。







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