K続編 | ナノ
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草薙 出雲
《吠舞羅》の参謀。
年若い《赤の王》櫛名アンナの
保護者的立場。

茅野 優衣
《吠舞羅》の精神安定剤。
《泡沫の王》としての力も持っている。

八田 美咲
《吠舞羅》の切り込み隊長。
機動力と攻撃力は上位クラス。


先代の《赤の王》周防尊とその側近十束多々良の死を受け、
今後は櫛名アンナ、草薙出雲、茅野優衣、八田美咲の4名が《吠舞羅》の中核になると思われる。


ブツン


12月7日















時刻は23時14分。もう1時間もしないうちに、あの日がやって来る。



「……もうすぐっすね」

「ああ」

「アンナ、本当に行くんすか?」

「アンナはその時間はあそこにいたい言うてる」

「…そっか」



バーのカウンターイスに座る八田は、草薙の言葉に微かに笑みを浮かべる。



「んじゃ、オメーらはその間に準備しとけよ!」

「「ういっす!」」



男共の返事がバーに響く。すると、ギシ…と軋む音が聞こえてきた。

音のする方を見てみると、そこにはアンナと優衣が降りてきていた。



「お待たせしました、出雲さん、ミサくん」

「ほな、行こか」



外用のフード付きポンチョを着たアンナを先頭に、4人はある場所へ向かう。その場所とは――、






23時45分。4人は、ある場所――十束多々良が殺された所へ出向いていたのだ。



「1年前の今日。ここでタタラが撃たれた。2人が…ううん、3人が、タタラを看取った」



それは、まだあのトリッパー少女の姫百合姫子がこの世界に居て、優衣が吠舞羅から逃げていた頃にまで遡る。

十束からの何らかの信号を受け取った優衣はこの場所へと来たのだが、まだ《泡沫の王》としての力が不完全だったため、十束を助ける事が出来なかったのだ。

そして、そこへ姫百合姫子を信じきっている草薙と八田がやって来て、止むを得ず物陰で身を潜めて――…。


十束は、眠るように死んだのだった。


最期まで、優衣を信じて。



「あの瞬間、ほんの少しだけタタラと感応したよ」

「撃たれた…十束とか?」

「うん」



それは誰もが初耳で、草薙は動揺したようにアンナへ問う。



「痛みとか悲しみとかそういうのじゃなくて…。……ただ、空が綺麗だって。タタラが思ってるのが伝わった」

「あいつは、そんなときまで…」

「十束さんらしいっすね」



十束と言う男は、そんな男だった。

八田はそれを思い出したのか、ぐす、と鼻をすする。



「撃たれてヤバいってときに俺に電話かけてきて…。あいつ言うてたわ、俺は幸福だったって」



幸福。

その言葉に、優衣はそっと瞳を閉じた。

それならば、私も幸福だったと。

どうやらアンナも同じなようで、広い広い世界を見ながら口を開いた。



「……私も、幸せだったよ」



その一言は、本当に幸せそうに聞こえた。



「…尊さんに連れられて、初めて喋りかけてくれたのが…多々良さんだった…」



警戒心の欠片もない十束だからこそ、優衣も馴染む事が出来たのだろう。でなければ、いくら周防が居たところであんなにすぐに馴染む事など出来なかった筈だ。



「せやなあ…。あん時は俺も疑ってばかりやったからなあ。何せ尊と十束が疑わへんから余計に、な」

「ほんと、出雲さんには苦労かけちゃいましたねぇ」

「んで、俺ばっか疑っとって…それもだんだんしんどなって…。そっからやな、疑うのをぷっつり止めたん」

「突然フレンドリーになって、警戒がなくなった出雲さん程怖いものはなかったですよ」



くすくす笑う優衣と草薙は、当時の頃に想いを馳せる。

まだ、八田や鎌本、アンナもいなかった頃。

周防、草薙、十束の3人だけだった狭い世界に、優衣はあまりにも鮮やかに現れたのだ。



「《吠舞羅》に来たばかりだった私に、タタラはここが私の居場所だって言ってくれた。あたたかいものをたくさんくれた」



不意に、アンナが口を開く。

そのアンナから語られる内容に、今度はアンナが来たばかりの頃を思い出した。

初めてアンナが「ただいま」と言ってくれたあの日、十束はお手製のオムライスをアンナに振舞っていたのを今でも鮮明に覚えている。



「…今日も、空が綺麗だね」



星が浮かぶ夜空を見上げ、まるで十束のような台詞を口にしたアンナに、草薙、八田、優衣は互いに顔を見合って笑う。



「そろそろ帰ろか」

「うん」



草薙がそう切り出すと、アンナは清々しい顔で頷いた。八田が時計を見ると、時刻は0時18分。ちょうどいい頃合いだ。



「いい感じだね、ミサくん」

「おう!」



こっそり笑い合う私達に気付かず、アンナはゆっくりと歩き始めた。










バーHOMRAへと戻ってきた4人。扉を開けた瞬間、クラッカーがパンパン!と弾けた。



『『『アンナ、誕生日おめでとう!!』』』




アンナの頭に、色とりどりの紙吹雪が乗る。それを払うこともせず、アンナは呆然と目の前に広がる光景を眺めた。

沢山のご馳走、様々な種類のボトルにジュース並ぶ綺麗に磨かれたグラス。それらの中心にある、一際大きなイチゴのホールケーキ。



「こんな日だからお祝いされるの嫌かなとも思ったんだけどさ」

「アンナの誕生日を祝わなきゃ、多々良さんに怒られちゃうからね」

「去年、誰より張り切っとったの十束やからな」



去年の今日。誰よりもアンナの誕生日を祝おうと張り切っていた十束が出来なかったことを、やっと、やっと今、1年越しになってしまったが、出来た。



「ケーキ作りもね、アンナが寝てる間とか…アンナが尊さんと出かけてた間とかに、多々良さん練習してたんだよ。

今日のは出雲さんお手製!」



優衣から知らされるものに、アンナはその赤い瞳を優衣に向けた。向けられた優衣はへへ、と笑う。

そこへ、草薙が赤い薔薇の花束を持ってきた。



「誕生日、おめでとさん」



赤い、赤い、薔薇。

アンナの瞳に映る、赤。



「ありがとう。……綺麗な、赤」



頬を赤く染め、本当に嬉しそうに笑ったアンナに、吠舞羅の連中は皆一斉にハイタッチを交わした。



「やったな、優衣!」

「ほんとに!ばんちゃん達もありがとね!準備ばっちりだよ!」

「ったりまえだろ!」



ワイワイ騒ぐみんなは、幸せそうで。

この幸せな空間に居れた事が嬉しいと、アンナは素直に感じたのだった。


その後、みんなからプレゼントをもらったり、ケーキを食べたり、八田がノンアルカクテルを作ったり、ドーナツを山盛り盛られたりと、アンナの誕生日パーティーは朝まで続いた。









太陽が昇り、バーHOMRAには優しい陽光が差した。

ソファーに座るアンナは屍と化している男共を眺めながら、親指と人差し指で窓を作る。



「12月8日、6時35分」



日付と時刻を口にしたアンナに次いで、八田が欠伸をしながら起き上がった。



「ファ〜…、アンナおはよ」

「おはよう、ミサキ」

「アンナ、今日どうする?パーティー第2弾してもいいけど、アンナ行きたいとこあるか?」



背中や頭を掻きながら、赤城、千歳の順にその背中を踏んでいく八田。アンナは八田にふわりと笑いかけて、ある場所を言った。



「……学園島」

「え?」



思わぬ場所に、八田は聞き返す。



「ミコトが最期にいた場所に、行きたい。けど、あそこは簡単に入れないね」



ほんの少し瞳に哀しさを見せるアンナに、八田はぎゅっと拳を握る。すると、何を思ったのか慌ただしく準備をすると、あとで連絡すると言って出て行ってしまった。





その頃の優衣はと言うと――、



「中尉が、死んだ……!?」



御柱タワーの中、黄金のクランズマンのウサギから知らされた事実に、頭の処理が追いつかないでいた。

朝早く、優衣のタンマツに黄金のクランから連絡が入り、こうして赴いたのだ。



「うそ、だ…。中尉が、なんで…」

「御前を看取ったのは、《白銀の王》アドルフ・K・ヴァイスマンです」

「アディが…、…そう……」



それなら、間違いないね

疲れた顔をして、優衣は笑った。アンナの誕生日に、こんな話を聞く羽目になるとは思わなかった、と。



「それなら、今石盤を管理しているのは…」

「《青の王》宗像礼司です」

「……そう…。なら、少し石盤の様子を見に行こうかな」



本当に、何十年ぶりとなる石盤との対面だ。優衣はアディやクローディア、そして國常路と共にあの時代を過ごし、石盤の力を見てきた張本人の一人だ。


ウサギの案内を断り、優衣は石盤の元へと行く。すると、そこには思いがけない人物が居た。



「おや…。こうして二人きりで対面するのは初めてですね。赤のクランズマン…いえ、こう呼んだ方が適切でしょうか?

第零王権者《泡沫の王》、茅野優衣」



そう、それはまさに先ほど話に上がった人物、《青の王》宗像礼司が居たのだ。

眼鏡をくい、と上げるその仕草を見ながら、優衣は溜め息を一つ零した。



「まさかこんなところで会うとは思わなかったです。第四王権者《青の王》、宗像礼司さん」



ここで、二人の《王》が対面した。













「ねぇ、イズモ」

「ん?なんや?」



それは、八田からまだ連絡がなく、パーティーの後片付けをしている時だった。アンナは朝食を食べている途中に、ふと周りを見渡して草薙に話しかけた。



「ユイは?」

「優衣?どっかそこら辺におらんか…?」



アンナに聞かれ、草薙は店内を見渡す。どうせまだ寝こけているのだろうと思っていたが、どうやらそれは違うらしい。

店内のソファーにはもう誰も寝ておらず、皆片付けで動き回っている。その中に、優衣の姿はない。



「おらんな…。ちょっと待っとれ、今優衣に電話してみるわ」














「石盤を眺めながら何をしていたんですか?」

「別に何も。貴女こそ、ここに何をしに来たんですか?」



笑いを浮かべたまま、含みのある問いかけをする宗像に、優衣はそっと石盤へと視線を移した。



「…中尉に会いに来たのだけれど、いなかったから」

「ほう。確かに御前は行方不明となっていますね…。ところで、あの御前を“中尉”と呼ぶなどと…仲がよろしかったのですか?」

「…そうですね。“友”と呼べる存在なのは間違いないです」



まるで尋問のようだ。優衣はそう思い、宗像に背を向ける。早々に立ち去ることを決めたのだ。

と、そこへ思いがけぬ人物が入ってきた。



「室長、緑のクランの動きが……って、お前…」

「猿くん?」



元吠舞羅、そして今はセプター4のNo.3に位置する人物、伏見猿比古だ。八田とセットで居たのをよく覚えている優衣は、かつてのあだ名で彼を呼ぶ。



「優衣…?なんでこんなとこにいるんだよ…」

「会いたい人が居たんだけど居なくてね、帰るとこ。じゃ、お仕事頑張ってね」



あの頃のように、少し背伸びをして伏見の頭を撫でてやる。懐かしいその動作に、伏見はついその手を払うことを忘れて受け入れていた。

そして出て行く直前、



「あ、ミサくんは元気だよ。…今は、ちゃんとアンナを、吠舞羅を支えてるよ」



かつての伏見の相棒の様子を教えてやる。伏見はそれに「チッ…」と舌打ちするが、それは不機嫌からくるものではないと知っている優衣は、明るく笑って今度こそ出て行ったのだった。



「随分仲がよろしいのですね、伏見君」

「…チッ…、そんなんじゃないですよ」



宗像の笑う顔に舌打ちし、でも、と続ける。ギラリと眼鏡が光り、伏見の瞳は見えない。



「あいつに…優衣に手を出したら、いくら室長でも許さないっすから」



独占欲丸出しのそれに、宗像はすっと瞳を閉じた。



「それはそれは…覚えておきましょう」















御柱タワーを出ると、タンマツが鳴った。草薙からだ。



「もしもし、出雲さん?」

《はぁー…。今どこおんねん。優衣がおらんくてみんな心配しとるで》

「え?うそ、ごめんなさい…!その、私が起きた時誰も起きてなくて…、声をかけれなかったんです…」

《何っ回も電話したのに出ぇへんしな》

「ごめんなさい……」



トゲトゲしい言い方に、優衣は肩を窄めて謝る。そんな優衣に草薙も「もうええわ」と笑った。



《ところでな、八田ちゃんから連絡あって、アンナと一緒に学園島来てくださいーって言われてんけど、優衣も行くか?》

「ミサくんから?んん…そう、ですね。行きます。なら…学園島で待ち合わせましょうか」

《せやな。んじゃ、また後で》



電話が切れ、優衣は暫くその場から動かなかった。

学園島。そこは、1年前の争いの場でもあり――周防尊が死んだ場所でもある。



「……怖い、なあ…」



でも、行かなきゃ。

ちゃんと、自分の目で見なきゃ。


優衣はぐっと奥歯を噛み締め、学園島へ向かった。














草薙、八田、アンナが学園島の制服に着替えて周防が死んだ場所へとやって来た。

そこへ、少し遅れて優衣が足をふみいれた。



「お待たせしました」

「優衣!遅ぇぞ!」

「ごめんごめん!にしても…よく学園島に入れたねぇ?」

「黒狗を使ったんだよ。これが一番穏便な方法だと思ってな」

「だから、使うとはなんだ!」



そんな言い合いをする狗朗と八田を尻目に、優衣は3人の格好を暫し眺めた。



「…優衣、言いたいことあるんやったら言えや」

「……似合ってますよ、出雲さん」

「じゃかあしぃわ!声震えとんねん!」

「ぷっくくく…!だ、だって…!出雲さんが、あの出雲さんが…学生服って…!」



とうとう声をあげて笑い出した優衣に、草薙は怒りから腕がぷるぷると震えたが、しょうがない、と笑った。

こうして、優衣が声をあげて笑うなど、あまりないことだから。特に、周防と十束が死んだ今、微笑むことはあれど本気で笑うことなどここ最近はなかった。

それがこんな自分の制服姿で見れるのだから、安いものだ。



「ユイ、」

「ん?」



アンナに引っ張られ、優衣はアンナと一緒に抉れた地面へと降り立つ。



「ここ。ここで、ミコトが死んだ」



その一言で、やっと優衣は認めることができた。



「俺のとこに来い、……優衣」




優しく、甘く、自分を求めてくれた人はもう、いない。



「吠舞羅はもう、お前の居場所だ。そこにたとえ俺が居なくても」




死ぬ間際、最期まで自分の居場所を教えてくれた尊さん。



「(…そうですね。私の居場所は、ちゃんと尊さんが作ってくれた…)」



貴方のお陰で今、私はここにいられる。



「ミコト。私、1つ大人になったよ」



真っ直ぐ前を見据えたアンナは、周防へとそっと語りかけた。



「ミサキ、ありがとう。一度あそこに行きたかったの」

「俺からも礼言うわ。1年前はあの場におられへんかったからな。まーあんな格好させられたんはともかくとして…。今日、改めて行けてよかった」

「うん。…私も、やっと認めることができた。ありがとう、ミサくん」

「いや…へへ、」



3人のお礼に、八田は照れ臭そうに頬を掻く。そしてくるっと学園島を振り返り、1年前のことを思い浮かべる。



「あん時は、海隔てて尊さんがいるあの島、見てるしかできなかったの、悔しくて悔しくてどうしようもなかったけど…。

なんつーかオレも…、……さっき、ああ、ここに尊さんがいたんだなって改めて思ったっつーか…。この気持ち上手く言えねえけど」

「うん」



こうして、1年ぶりに学園島を訪れた4人の顔は、晴れ晴れとしていた。










《そろそろ、本格的にゲームを始めましょうか》


12月13日


アドルフ・K・ヴァイスマン=伊佐那社
未だその行方を補足できず。
彼を引きずり出すためには――。

夜刀神狗朗
《白銀の王》からの接触はない模様。
要監視。

ネコ 本名■■
白銀のクランズマンという点以外にも興味深い人物。
要監視。

櫛名アンナ
《王》とクラン、共に状態安定。

宗像礼司
状態不安定か。
揺さぶりを強める価値あり。

茅野優衣
《泡沫の王》の力は未だ観測出来ず。
その力を引きずり出すためには――。


ブツン






ザー…、と砂嵐の音が鳴る。そんな中、品のある足音が響いた。



「御柱タワー襲撃から2ヶ月。下準備を進めながら様子を見てきたけど…、そろそろかしら?」



刀を背負う紫は笑みを絶やさず、ある人物に問いかける。その人物は車椅子のような物に座っており、顔は確認できない。



「世界の“変革”の瞬間は、」



棒のような物を持つ男の子、五篠スクナ。



「もうすぐそこまで来ています」



緩いパーマがかった髪を靡かせる男、磐舟天鶏。



「期待です」



3人は、自身の《王》である比水流の半歩横に並び、静かに前を見据えたのであった。







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