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想い出を未来へ



前世の記憶。それは私にとってとても大切な宝物。


「…嬢ちゃん、何者だ?」
「それ、答える義理はある?」
「いや? でも……隠されたら余計に知りたくなるだろ!」


ティキはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けてくる。私は静かに、素早く印を結ぶ。


火遁 火龍弾(かりゅうだん)!!


口から炎を吐き出す。まさかこんな技を出してくるとは思わなかったのか、ティキはぎょっと驚いた顔を見せる。間一髪でティキは避けたが、私はガラ空きだった脇腹へするりと潜り込み、チャクラを溜めた足で思い切り蹴り飛ばした。


「ガハッ…ゴホッ。……ハー…マジで何もんだよ…」
「ちょっとちょっとぉ〜! ティッキー大丈夫ぅ?」
「んあ? 大丈夫だよ、心配すん――」


ティキは最後まで言い切ることなく、吹っ飛んだ。そんな二人をアレン達は呆然と見つめる事しか出来ずにいた。


「戦いの最中にお喋りだなんて随分余裕なんだね。……あぁ、安心して? ちゃんと殺してあげるから」


にっこりと笑った私は足で床を蹴り上げてティキに向かって拳を振り上げる。だけど、そこにはもうティキはいなかった。
チッと小さく舌打ちをして、後ろからの殺気を察知した私は上体をバッと反らした。するとさっきまでいたその場所にティキの拳が通過した。


「…負けるわけにはいかないんだよ」


負けるわけには、じゃない。死ぬわけには、だ。
こんな知らない土地で死んだらそれこそ阿呆だ。私は、私は――。


「必ず、里に帰るんだから」







「唯、唯!!」


アレンの声が聞こえる。ああもう、そんなに名前を呼ばなくても聞こえてるよ、大丈夫。待って、もうすぐ起きるから。ちょっと目が開かないだけで。


「…あれ、ん…」
「唯! しっかりしてください!」
「ごめん、ねぇ…。先に、逝っちゃうね…」
「っ、約束、したじゃないですか…! 死なないって…!」


ぽたぽたと頬に伝わる雫は、きっとアレンの涙だろう。泣かないで、貴方にはまだまだたくさん仲間がいるでしょう? 私一人の為に泣く必要なんてないんだよ。
だって、私の心はいつだって“ここ”にはなかったのだから。


「…やっと、会えるね…」
「え……?」
「もう、一人にしないよ……」


ふふ、と笑う。すると仕方ないな、なんて困ったように笑う貴方の声も聞こえた気がした。
あれ、わざわざ迎えに来てくれたの? それは悪いことしちゃったね。え? 振り回されるのは慣れてるって? 失礼な。そんなに振り回してないよ…たぶん。


「唯、何言って……」
「アレン君! 唯は!?」
「リナリー! 神田、ラビ…!」


あれ、三人とも来てくれたの? わあ、嬉しいなあ。でもね、私は心配してもらえるような人じゃないんだよ。だって私…無意識に手を抜いてティキと戦ってたから。


「やだ、唯! 死んじゃだめ!」
「そうさ! 逝くなよ、唯!!」
「ふ、ふふっ…。泣かな…で…?」


ぼんやりとする視界の中、くしゃりと顔を歪ませる仲間に手を伸ばす。思い出すのは、前世で同じ班として戦った、第七班のみんな。


「まさか、死んでまた違う世界で生きるなんて…思いもしなかったなあ…」
「…唯? 何言ってるんさ?」


ラビの戸惑うような、探るような声が微かに聞こえる。もうそんなに探らなくても、もう私は死ぬから意味ないよ、とは言えない。
私なんて探る価値もないのに。ね、イタチ。


「三代目…。わたしは貴方の……自慢の、木の葉の忍に…なれたでしょうか…?」


――あぁ、唯はもう立派な木の葉の忍じゃ。ワシの自慢のな。
どこからか、そんな声が聞こえた気がした


「しのび、って…」
「てめェ、何者だ」
「神田、今はそんなこと聞いてる場合じゃないでしょ!?」
「リナ、いいの…。――わたしは、木の葉隠れの里の忍…忍者だよ…」


突然訳のわからない単語が出てきて、アレン達は目を丸くして私を見つめる。ふふ、とそれがなんだか可笑しくなって笑ってしまう。


「…ナルト……サスケ…サク、ラ…あい、たい…あいたい、よぉ…!!」


懇願するような声色に、周りの者はきゅうっと眉間に皺を寄せる。そして知らぬ名前を紡いだ唯に対して、嫉妬に近い何かを抱く。


「…やめてください……っ、僕らの、僕の名前を呼んでください! 唯!!」
「……ル、ト…サス、ケぇ……サクラぁ…!」


もう聴覚も麻痺してきた。側でアレンが泣きそうな顔をして何かを言ってるが、何一つ耳に入ってこない。
ああ、もうバイバイだね、みんな。


「…アレン、…リナリー、ラビ、神田…」


心臓が痛い。どうしようもないくらい痛い。


「迷惑しか、かけてこなかったね…」


けど、あともうちょっとだけもって、わたしの身体。


「みんな、生きてね…!」


コムイさん達にも、ちゃんと礼を言っておけばよかった。こんな身寄りもない、何者かもわからない私を受け入れてくれた、この世界の私の居場所。
大好きな、私のホーム。


「ばいばい」


薄ぼんやりと映る視界で、確かに四人は涙を流した。
次会うときは、平和な世界で。







なんだろう、温かい何かに包まれているみたいに心地良い。私は意識がはっきりしてくると共に、重たい目蓋をそろりと開けた。


「…!? っ唯!! めっ…目を覚ましたのね!!」
「……サ、…ラ…?」
「っ、こんなことって…! 待ってて、私綱手様達を呼んでくるから!」


ぽろりと涙を落としたサクラは、歓喜の声を上げながら病室から去っていく。その後ろ姿をぼーっと眺めて、私は窓の外へと視線を移した。
そこは、待ち望んでいた木の葉の里の風景だった。


「……えって、…かえって、きたんだ…」


死ねなかった。イタチに会いにいけなかった。……でも。


『『『唯!!!』』』


窓から扉から入ってくるのは、大切な人たち。
その中でも黄色い髪にひげのような模様がある頬、青い瞳を呆然とさせる人物が羽織っているそれを見つけて、私は無意識に微笑んだ。


「…ナルト、…火影に、なったんだね…」


将来の夢が、叶ったんだね。
心底嬉しくて、当時のことを思い出す。誰も、ナルトが火影になることなんて信じてなかったあの瞬間に戻って、叫んでやりたい。見ろ、ナルトは立派な火影になって里を支えているぞって。


「サスケも…髪の毛伸びたね…。子どもの頃から大人っぽかったけど…スカしたところは変わらないね…」


片目が隠れて見えないけど、驚きに目を見開いたサスケの目はそれこそ子どもの頃とは違うけど。今この里にサスケがいて、こうして私の病室に来てくれるってことは、サスケの中で決着がついたんだね。


「…サクラも、…ふふ、大人っぽくなったね…でも、やっぱりかわいい…」


目元を赤くして、泣きたいのを必死に堪えてる。子どもの頃から忍者の掟に関しては忠順で、でもこの第七班に配属されてからはナルトに引っ張られるようにして掟破りを繰り返して。


「…カカシ先生も、すっかり老けちゃいましたね…」


カカシ先生には沢山沢山無理させちゃった。私のこと然り、ナルトのこと然り、サスケのこと然り。だからそのときのツケが一気にきちゃったのかな。でも、その気だるそうな目は変わらないね。


「…ただいま、みんな」


会いたくてたまらなかった。みんなを想って何度泣いただろう。それくらい、みんなのいない世界は残酷だった。


「っ、おかえりってばよ、唯!!」


顔をくしゃりとさせて、泣き笑いを浮かべたナルト。その声を皮切りに病室に来てくれたみんなが口々に迎えの言葉をかけてくれた。


「もう! 唯は目が覚めたとはいえまだまだ療養が必要なのよ! そんなに騒がしくしたら……」

「そうだぞ。唯は生死の世界を彷徨っていたんだ。現にこの長かった昏睡状態が物語っている。とっとと出て行け!」


サクラの言葉を引き継いだのは、綱手様。相変わらずの美貌に、ほう…と息を吐いた。
――そう。私は、任務中に大怪我どころかもう少しで死に至る、というところまでいき、木の葉で治療を受けていたのだ。つまり、あの世界へは私の昏睡中に意識だけが飛ばされたということだ。


「…ごめんね…でも――」


私にとって救いたい世界は、やっぱりここなんだ。三代目火影様が遺してくれた、木の葉なんだ。イタチが最期まで愛した、木の葉なんだ。


「…どうした、唯」
「サスケ…んーん。…ただ……大好きだなあって、思っただけ」


サクラに殴られているナルトの背には、「七代目火影」の文字。
たくさんたくさん、頑張ったんだね、ナルト。


「…やっぱり、もうちょっと待っててね…イタチ…」


そっと呟いた私の言葉に、イタチがどこか嬉しそうに笑った気がした。





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