スクアーロが剣帝になると言い出した。そのために世界中の剣豪100人かっ捌いてくるんだと。もう30越えてるっていうのにいつまでも夢を追いかけてるあいつは素敵なのかただのバカなのかよくわからない。たぶん両方だな。
その突然さ、突飛さ、やらかす内容の規模のでかさはもう毎度のことだったので、私はさして驚きもせず「お土産よろしく」、のそれだけで済ませてしまった。言っておくがべつに冷たいわけではない。わたしはもともとこういう性格なのである。それでも付き合いたての頃は「いつも一緒にいたい」とか「わたし以外の人を好きになったらどうしよう」とか人並みな乙女心もあったが、それも年数が重なればだんだん薄れてくる。


「もしもし」
『よお。なんか変わったことあったかぁ?』
「こっちはとくにないよ。アーロ元気?」
『そこはまず俺を気にしろぉ』
「どうせ元気じゃん」
『身も蓋もねえなぁ』
「心配してほしいの?」
『いや…それはそれでちょっときめえな』
「喧嘩売っとんのか」


スクアーロの心配はしていない。二回目になるがべつに冷たいわけではない。その生命力を信頼しているがゆえだ。テュールと戦ったときも鮫に食われたときも奴は生きのびた。そこは人間として一応死んどけよってときでも必ず生きる男だ。左腕なくしたり全身包帯ぐるぐる巻きになっていたりと毎回派手な怪我をしているが、結局平気な顔して帰ってくるのだから心配するだけ損だろう。こんな悟りを開いた辺り、私もずいぶん人間的にくたびれてきている。


『送ったの届いたかぁ?』
「…あーうん。きたきた。ありがとね」


適当に答えつつ、私は部屋の隅に放置されていた段ボールを見遣る。送り主はスクアーロ、発送地はオーストラリア。届いたのは一昨日なのだが実はまだ未開封のままだったりする。
変なところで律儀かつ可愛いスクアーロは、私の言葉を鵜呑みにして剣士を倒すたびに現地のお土産を送ってきてくれる。しかしどれもチョイスが微妙だった。例えばアメリカのときはロープだった。開けた瞬間こいつもしかしてそういう趣味があんのかなって思ったけど、ロープの先は輪っかになっていて、いわゆるなんだ、えーと、ウェスタン?ロデオ?とにかくロープを投げて獲物を採るあれだ。物の意味はわかったけど一体私にこれで何をしろというのか。他にもロシアのマトリョーシカ、中国の銅鑼、タイは像の置物などなど実に現地色の濃い、ユニークだが使い道のない品々が送られてくる。ネタじゃなくて真面目に選んだ結果がこれだからたまらない。おかげでわたしの部屋は万博状態である。
素直に言えばきっと傷つくだろうとはっきりした回答を避けているあたり、我ながら空気を読んでると思う。一応感想を聞かれては困るので、仕方なくオーストラリアからの小包を開けながら私は話を逸らした。


「あと何人?」
『83人』
「まだまだじゃん」


つまりあと83個こんなのが送られてくるわけだ。ちなみに今回はコアラの着ぐるみだった。うん、どうしようね。現物よりもこれを買っているスクアーロを想像したほうが私的には楽しい。


「100人ね。剣帝になるのって面倒くさいね。誰がそんなルール決めたの」
『俺』
「お前かよ」
『他に思いつかなかったんだからしょうがねえだろぉ』
「なんでそんなになりたいの。剣帝になったらなんかいいことあんの?」
『やるなら一番目指した方がいいじゃねえか』
「つまり自己満足ね」
『お前だってそっちのがいいだろぉ。鼻が高くて』
「私?べつにどうでもいいよそんなん」
『そんなんって何だぁ!お前今俺の心を踏みにじったなぁ!』
「だって一番でも百番でも最下位でもスクアーロが好きなのは変わらないもん」
『…………』
「よせやい照れるだろ」
『俺の台詞だ』


スクアーロの機嫌がちょっとだけ良くなった。顔を見なくてもわかるのは、今日まで積み重ねられてきた年月の賜物である。というか基本的にスクアーロはわかりやすい。電話越しにでもルンルンしたオーラが伝わってくる可愛いあいつが、わたしはとても好きである。


『…もし目標が達成できたら』
「うん?」
『お前に言いてえことがある』
「えーなに、なにを言うって?」
『待ってろって。今言ったら意味ねえだろ』
「もし達成できなかったら聞けなくなるじゃん」
『させてみせる』


なんだかきっぱりと男前に言い切り、だからちゃんと聞けよって、また土産送るからなって、まるで追及を恐れるようにスクアーロは電話を切ってしまった。
なんだなんだ。今さらわたしに言いたいことがあるってなんだろう。もはや秘密も秘密ではなくなっている関係のわたしたちに、そんな改まって言わなきゃいけないことなど無いはずなんだけど。
しかし麗しい銀髪の件といい、本当に願掛けの類いが好きな男である。スクアーロはでかい図体と態度に似合わずあれでなかなかのドリーマーだった。ロマンチックなことが好きなのだ。わたしはリアリストなのでそういう主義をあまり好かないが、そういう主義であるスクアーロのことは好きだった。この相反する性格が案外長続きする秘訣なのかもしれない。初心は薄れても、愛情は決して薄れない。それをお互いわかっているから、スクアーロは気軽に長旅に出るしわたしも飾らない態度でいられる。

宣言通り、スクアーロは着実に剣士を倒していった。私に謎の珍物も送ってきた。そして見事100人斬りを達成してきた彼は、100個目のお土産だけを自分の足で持ち帰り、自らの手で渡しながらこう言ってきたのである。


「剣帝の妻になる気はねえか?」


それは、とても綺麗な指輪だった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -