疲れた体を引きずってコンクリートの階段を登る。スマホで時間を確認したらとっくにシンデレラタイムも越えてた。ためこんだ未開封メールやSNS通知に指タッチする気も起きなくて、とりあえず明日一限からだしシャワー浴びてさっさと寝たい、やりたいことたくさんあるけどそれ全部犠牲にしたら4時間は睡眠確保できる。オレ惰眠むさぼるのが大好きだったはずなのにな、あーまともにがっつり寝たのっていつが最後だったっけ。



「――――っ!!」

「……――」



鉄製の重たいドアに鍵を差し込んだとき、まだ開けてもないっつうのに部屋の中からそれなりのボリュームで声が聞こえてきた。若干高めなのと低いの、明らか男女のそれ。ちょっとなんか言い争ってるっぽい?これだからルームメイトなんて作るもんじゃねーよ、しかもそいつがしょっちゅう女連れ込んで、オレがいようといまいとお構いなしに女食いつぶすような節操なしなら尚更。
勘弁してくれと思いながらドアを開いて、ヤるならせめてリビングじゃなくて部屋でしろ、そう文句の一つでも言ってやろうと思ってたのに繰り広げられてた光景を見た瞬間脳みそ凍った。女を押し倒してたのは予想通りオレのルームメイトで…っつうか、同じ大学の同じ学部に通ってる、兄弟仲サイアクなのにそれを知っていながら両親に同居させられた双子の兄。そんで押し倒されてる女はなぜかオレの彼女だったっていう。状況のみこめなくて口あんぐり。ちなみに絶賛熱烈交際中、つか、オレがあいつにべた惚れして口説いて口説いて最近ようやく付き合えるまでに至った女だ。そいつがなぜか切羽詰まった半泣きで、服も中途半端に脱がされてて、明らか今まさに犯されようとしてましたーな状態で驚きに固まるオレと目が合った。合った瞬間頭が沸いた。血が爆発したって感じ。



「ジルてめーぶっ殺す!!」



あれオレこんなキャラだったっけ。とりあえず疲れとか一気に吹っ飛んだから鍵を床に叩きつけ、速攻ジルに掴みかかって殴ったら鈍い殴打音に肩をあらわにしたなまえが小さく悲鳴を上げた。オレがジルに殴り返されたらもっと悲鳴を上げたけど。



「はあ!?オレじゃねえよ、この女が誘ってきたんだっつの!」

「てめーがいつも相手にしてるビッチどもと一緒にすんじゃねえよクソ兄貴!」

「はっ、なにガチになってんの?お前もしかして本気でこんなのが好きなの?バッカじゃね…」



火に油を注がれてまたガツンとやったら同じくらいの力でガツンと返された。まあ双子だからな。鏡の自分に向かって攻撃してるようなもんだよ、痛めつけたらその分だけ自分に跳ね返ってくんの。口論しながらお互い服を掴み合ったり拳を振り上げてはそれを止めたりたまにヒットしたり、こんなに派手な兄弟喧嘩なんて久しぶりにやった。別に懐かしくもねーけど。身体がでかくなるにつれて心が冷めてって、物理的に痛めつけあうよりもお互いの存在をスルーした方が時間的にも体力的にもエコだって気付いてからは自然とぶつかり合うこともなくなってたっつうのに。ガキンチョの頃とちがって止めに入る両親もいない、いるのは泣きながらやめてと訴えるなまえだけ。でもこれこいつの知らないくらい積年の恨みもこもった喧嘩だから、オレ達ももはや原因であるなまえの存在も見えてなくて、もういいこの隙にとでも思ったのかなまえはオレ達を置き去りにして部屋から出てった…と思ったら、1分も経たないうちに援軍を連れて来た。



「てめーらさっきからバタバタとうるせえんだよ!!近所迷惑だろうがぁ!!」



現れた援軍はお隣に住む、あー誰だっけ、隣人つってもすれ違ったときに挨拶もしない仲なんだけど、とにかく普段はスーツ着てて髪が長くて、人殺したことありそうな目つきしてんなぁと常々思っていた顔の怖いおっさん。いやお兄さん?どうでもいい、後から聞いた話し、なまえが誰でもいいから助けてもらおうと廊下に出たら、ちょうどうちに怒鳴りこむつもりで部屋から出てきたそのお隣さんと鉢合わせしたらしい。両者の目的が一致して見事修羅場は終了いたしましたとさ。めでたしめでたし。



「こっちは明日早朝から会議なんだよ。そんなに顔面整形するまで殴り合いたいっつうなら、その辺の公園か河原でやれ。そんでどっちかが死ぬまで帰ってくんな」



そのアドバイスもどうかと思うが、オレ達を引きはがしてそれぞれに一発ずつ拳骨をくらわし、双子の勢いが冷めたのを見届けると首筋に手を当てながらお隣さん(のちに表札を見て名前はスクアーロと判明)はなまえにぺこぺこ頭を下げられながら自分の巣へと帰っていった。もちろん顔面整形するつもりも、ましてや死人オア殺人者になるつもりもなかったオレ達は、お互いに憎しみの言葉を吐きあってそれぞれ部屋へと引き上げた。もちろんなまえはオレの部屋ね。



「…ベル、大丈夫?」

「あのさ、これ大丈夫に見える?」

「見えない。…ごめんなさい」

「ここには来るなってオレ何度も言ったよな。近寄んなって」

「だってお願いしても一度も部屋に上げてくれないし、最近メールの返事も遅いし、夜も会ってくれなくなったし…」

「…………」

「もしかして、ほっ他に、すきな人が、いるんじゃないかって。だから確かめに来たら、お兄さんが出て、中に入っていいよって言われて…」



そっからはご想像通り…ってとこでなまえの涙腺が決壊。ひっくひっく泣き出したけどいやいま泣きたいのってむしろオレじゃね?可哀そうじゃね?身体はくたくただしあちこち痛えし、あと一歩で大嫌いな兄貴に彼女寝とられそうだったし、身体張って助けた彼女からは浮気の疑惑持たれてたと知ってなんかもう溜息一つじゃ足りねえよ。



「来んなって言ったのはあいつがいたからだよ。まあ身をもって知ったと思うけど、あいつ女癖悪くて手当り次第だから」

「双子のお兄さんがいるならそう言ってくれればよかったのに」

「言いたかねーよ。同じ顔だぜ?…腹立つけどオレよりスペックはあっちのが上だし。お前とられたらやじゃん」



まあうちの大学では、学部外のやつでもオレたちのこと知ってるくらい有名な双子らしいけど。こいつ他大だしな。



「あと返信遅いのも、夜会えなくなったのもこっそりバイトしてたから」

「でも…バイトなら前からしてたよね?」

「あれとは別にもう一個、かけもちで。お前と一緒に住みたくて金貯めてた」

「え…」

「どうせ毎日顔合わせて生活するならジルのクソじゃなくてお前がいいじゃん。まあびっくりさせようと思って言わなかったオレが悪いけどさ…ここまで好きっつってんのに浮気呼ばわりとかあんまりじゃね?」

「ご…ごめんなさいいいい」



すべての謎が解けた+感動でなまえにぎゅうぎゅうしがみつかれて、正直殴り合い後の骨身には軋んだけど悪い気しないからあーよしよしって背中やさしく叩くあたりオレほんとこいつのこと好きだよな。我ながら損だとは思うけど好きになったのオレが先だししょうがない。とりあえずまたいつジルの素っ頓狂が手を出さないとも限らないからさっさと金貯めて同棲しよ。じゃねえと今度は「寂しかったから…」とかいう理由でこいつに浮気されちゃたまんねえしさ。

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