その大きな肩は私を守るために

ぱちぱちと炎の爆ぜる音。揺らめく先には彼の姿。ここガウル平原も闇に飲まれる時間帯。遠くでウルフの低い声がする。私とシュルク、フィオルンが巨大なモンスターを倒し戻るとアイテム収集を終えたばかりのダンバンとラインもそこへ戻ってきたところだった。カルナとリキのふたりが夕食を用意して彼らを、私たちを迎えてくれた。それからすぐに、出来たばかりの夕食を食べた。リキがひとり集めてきたという、とても甘い木の実も。緩やかに時は流れる。後片付けを私とフィオルンで済ませると、シュルクとライン、リキの三人は何やら会話を始め、カルナは自らのエーテルライフルの手入れをする。ダンバンはそこに座ったまま、仲間の姿をぐるりと見てから炎へと視線を動かす。フィオルンがカルナの側に行ったので、私はそんなダンバンの側へ行くことにした。ダンバンはホムスの英雄と謳われている。大剣の渓谷での戦いでモナドを振るい、ホムスに勝利をもたらした、という。とても強い男だ。何度も彼に救われてきた。それでいて、彼は優しい。シュルクもラインも、彼のことを慕っている。実妹であるフィオルンとはずっと支えあってきたようで、その仲は良好そのもの。カルナもリキも、そして勿論私も、彼を頼りにしている。

「どうした?メリア」

そのダンバンが口を開いた。どうやら歩み寄ってきたものの、何かを発さない私を不思議に思ったのだろう。その声はひどく優しい。

「いや、何でもない」
「そうか?なら良いんだがな」

何か悩み事でもあるのかと思った、とダンバンは静かに言う。その言葉を取り巻くかのように、やはり炎が爆ぜる音が響く。炎に照らされた彼の横顔。どくん、と心臓が高く鳴るのを感じた。「座ったらどうだ?」と言う彼に「ああ」とだけ答えて腰を下ろせば、先程よりずっと近くに彼の顔。ダンバンは数秒私のことを見て、それから遠くを見る。彼の瞳に映っているのは、目の前に広がる闇などでは無くて、もっと違う何か。掴むべき未来や、それに繋がる険しい道。きっと、そういったものがある。私は彼がそれを得る、力になれたらいいと思った。モナドを今、握っているシュルクを時には兄のように、またある時は父のように見守る彼の力に。そういった思いを口にすべきなのか。私は戸惑った。その言葉を紡ぐべき時は「今」なのか。そしてその言葉が最善のものなのだろうか。ふわふわと浮かび上がる疑問を、私は振り払おうとする。しかし、振り払えない。荊棘のように刺があって、それが彼方此方にひっかかってしまう。そしてその刺は痛みを生む。ひっかかったところから血が滲んで、そして。

「メリア?」

ダンバンが心配そうに私の名を呼んだことで、私は我に返る。どこにも傷なんて無い。よく出来た幻に囚われていただけで。

「すまない。少し考え事をしていた」

正直に答える私を見る彼の目。強き者の眼差しだ。私には到底届かない。私はそれ以上何かを口にしはしなかった。本当はちゃんと言うべきだ。不安な思いを抱いたまま戦うことは危険であるし、何より仲間に隠し事はしない方がいい。けれども、そういったものを簡単に口にして余計心配させてしまうのも嫌だった。黙する私。ダンバンはそっと私の肩を抱いた。

「…!?」

目を丸くしてしまった。けれど、その温もりで安心する私も居た。彼はいつだって優しい。かけがえの無い仲間。辛い日も、悲しい日も、ダンバンたちが側にいてくれたから私は両の足で立って進むことが出来た。それを改めて再確認しつつ、彼のあたたかさを貪る。ダンバンは何も言わない。私も何も言わない。そこにあるのは私たちは仲間であるという真実。ぱちぱちという音。遠くで響くウルフの声。風によって囁く黒き森。彼の優しさに包まれながら、戸惑い、狼狽える自分が静かに遠ざかるのを感じた。