私は想いをそっと箱の中にしまい込んだ。
ずっと引き摺ってきたこの想いを。


――生まれて初めての恋だった。
初恋は叶わぬものだとよく聞くけれど本当にそうだったな、と思いながら。
頑張った。頑張ったからこそ、この結末が訪れたのだろう。
悲しくないと言えば嘘になるかもしれない。
けれど、それ以上に二人を応援したいという気持ちのほうが強かった。
だから悲しいとは真逆の感情も芽吹いている。
その箱は思っていたより小さくて、想いはぎゅうぎゅう詰めになっていたけれど。

モンスターとの戦いを終えて街へ戻る道。
シュルクが一番先を行き、私とフィオルンが数メートル後ろを歩いている。
ざあっと風が吹く。冷たい風だ。
私やシュルク、フィオルンの髪を弄んで去っていく。

「疲れてないか?フィオルン」
「大丈夫よ。ありがとう。帰ったらみんなの為にご飯作らなきゃね」

昨日メリアたちがたくさん食材を買ってきてくれたから今日は買い物に行かなくて済むわ、と笑うフィオルン。
私も笑った。そして何か手伝えることがあったら言ってくれ、と口にする。
するとフィオルンの顔がさらに明るくなる。
ふたたび発せられる感謝の言葉。
シュルクが振り向いた。思った以上に私たちが後ろに居るので、気になったのだろう、彼は私たちに駆け寄った。

「どうかしたの?」
「ううん。なんでもない、ね?メリア」
「ああ」

私が頷くと、シュルクは安心したようだった。
正面口から街へ入ればダンバン邸はもうすぐだ。
フィオルンがドアノブに手をかける。
回すと、扉が開く。鍵はかけられていないようだ。
つまりダンバンたちはもう帰ってきている、ということになる。
帰ってきた私たちを迎えたのはダンバンとカルナ、リキの三人。
皆元気そうで、私たちに「おかえり」という言葉を投げかける。
ラインはまだ来ていないようだ。何かと忙しいのだろう。

「今日は何を作ろうかしら。お兄ちゃん、食べたいものはある?」

フィオルンがダンバンに聞けば、彼は笑う。
何が出てきても美味しく食べるよ、と。
それじゃ答えになってないわ、などと言いながらもフィオルンは嬉しそうだ。
シュルクも、カルナも、リキも、そして私も笑った。
フィオルンはキッチンへと入る。誰に聞いても答えは一緒だろうと察したらしい。
私はフィオルンを追ってキッチンへ向かう。手伝う約束を守るために。
その間、シュルクはダンバンに今日のことを話し、リキとカルナは今日得たアイテムの整理をする。
大きな鍋からよい香りが放たれる。
フライパンの上では新鮮な魚が寝ている。
私は野菜を切り、白く大きな皿にそれらを乗せる。サラダだ。
フィオルンは鍋を御玉でかき混ぜ、それから一口味見をし頷く。
どうやら温かなスープのようだ。
アイテム整理を終えたリキが、よい香りを嗅ぎつけ飛び跳ねる。
カルナも「手伝うわ」、と言って私の隣へ移動する。
そうこうしている間にラインが帰ってきた。
「美味そうな匂いがしてるな」などと言いながら。
フィオルンは「まだ出来てないから来ちゃダメよ」と言いながらも何やら嬉しそうだ。

幸せな時間。
戦いと戦いの間にある、わずかな時間。
わずかだからこそ、愛しく、大切にしたいと思う。
そこには愛も存在している。
その赤い糸が結ぶのは「彼」と「彼女」。

私は想いをそっと箱の中にしまい込んだ。
ずっと引き摺ってきたこの想いを。

――やっと終わりを迎えたこの恋を。


この恋もやっと終わったんだね



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