ダンバンが入浴を終え、戻ってきたので今度はカルナが風呂場に向かった。
ダンバンは自室へ戻り、私とフィオルンだけが残される。

――彼女は静かに語り始める。
シュルクたちと共に生きた日々を。
変わらないであって欲しかった日々を。
愛するこの街で積み重ねてきた日々を。

フィオルンの過去が優しい思い出に変わる。
それと同時に私の想いは過去へと変化する。
この戦いが終わったら、きっと彼女と彼の想いは繋がる。
絶対に解けることなく、結ばれる。
私はそんな二人を見守っていけたらいい、そんな風にも思った。
――痛みが消えたわけではない。
私の過去はそう優しく微笑んだりはしていない。
けれども私は願うことが出来た。彼らの倖せを。
少しだけ潤む瞳。フィオルンは気付かない。
もしかしたら気付かないふりをしてくれているのかもしれないけれど。
私はそんな彼女が友として好きだった。


朝というものは意外と早くやってくるものだ。
ベッドから体を起こして、カーテンの隙間から零れる光の眼差しを感じ取る。
隣のベッドではカルナが寝息を立てている。
時計を見れば思っていたよりも随分と早い時間。
起こした身体をまた寝かせたら、次は何時に起きられるだろう。
私はあたたかな布団の誘惑を振り払って身支度をし階下へと向かった。

「あら、おはよう。メリア」

フィオルンは既に起きていた。
椅子に座り、何かを飲んでいる。
香りからすると、紅茶のようだ。
湯気を立てるそれをテーブルに置いてから、彼女は右手をひらひらと動かして私に笑いかけた。

「おはよう――随分早いのだな。フィオルン」
「そういうメリアも、ね。紅茶でいい?」

フィオルンがそう尋ねるので、私は頷いた。
自分で淹れようと思ったが、彼女はもう立ち上がっていたので私は入れ替わるかのように椅子に座った。

「朝食は食べたのか?」
「まだよ。みんなと食べたかったから」
「では私もそうする。カルナもダンバンももう少したてば起きてくるだろう」
「そうね」

フィオルンはカップに紅茶を注いだ。
赤い液体にレモンを一切れ浮かばせて。
カップは昨日と同じものだ。紫の綺麗な花が描かれている。
はい、と置かれたカップ。それに口をつけ熱いものを飲んだ。
窓の向こうから、鳥の囀りが響いてきて私は昨日シュルクが呟いたあの台詞を思い出した。

――鳥って、本当に自由なのかな。

結局私は答えを口には出来なかった。
同じようなことを考えていたというのに。
何故だろう。そう思っているとフィオルンが「メリア」と私の名を呼んだ。

「あ――すまない、考え事をしていた」
「そうなの?なんか黙り込んでるから、美味しく淹れられなかったかな?って心配してたの」
「そんなことはない。すごく美味しいぞ?」
「そう?よかった……」

フィオルンが笑う。野の花のような、可憐な笑み。
機械の体であっても彼女はぬくもりを失っていなかった。
女性らしい優しさも、強さも、兼ね備えた少女。
やはり友として、私は彼女が心の底から好きだった。


想いが過去に変わって



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