ダンバン邸で私たちは食事をとった。
後片付けを始めたフィオルンを手伝っている間、シュルクとダンバンは何やら話を始め、カルナとラインとリキは武具の手入れやアイテムの整理をしていた。
少しずつ、だが確実に時間が流れていく。
青かった空は茜色へ、それから黒に染まる。
そう――夜が訪れた。
私がカーテンを閉めるために窓辺に寄れば、街の灯りがこちらを向いていることに気付く。
夜になっても街から人の姿は消えない。
たぶん、私たちが眠りに落ちた、そのあとも。

ライン、そしてリキがダンバン邸を出ていく。
シュルクはもう少しだけ居るといっていた。
私たちはふたりを見送り、それから椅子に座ってフィオルンが淹れてくれた熱い紅茶で体を温めた。
シュルクはフィオルンを見ている。
機械化されたホムスの少女――フィオルン。
ここにいるダンバンの実妹で、この街が機神兵に蹂躙されたあの日に命を落としたと思われていた少女。
シュルクが戦いを続ける理由は彼女にあったのだと、出会って間もない頃に知った。
実際フィオルンは生きていて、悲しい記憶の場である監獄島で私は初めて「彼女」に会った。
だがその彼女は本来の彼女ではなかった。シュルクの叫びは今でも覚えている。
紆余曲折を経て、フィオルンはシュルクやダンバンのもとに戻った。
その身体は七割以上が機械で作り変えられていたけれども。
私はシュルクを見るのをやめ、その視線を上のほうに動かす。
彼らの会話に耳を傾けながら。
それから視線をもとの高さに戻して、カップに口付け紅いそれを飲む。
砂糖もミルクも入っていない、ほろ苦いそれを。
フィオルンのものにはたぶん、砂糖が入っている。
彼女のものは甘いんだろうな――そう思いながら紅茶を飲み干した。
カルナはそんな私を見、シュルクを見、最後に兄妹を見ていた。


それから半時ほど経ってから、シュルクがダンバン邸をあとにした。
空になったカップなどをフィオルンとカルナと共にキッチンへと運んで洗った。
その間ダンバンが風呂に入り、私たちは先ほどまで座っていた椅子に再び腰かける。
私はフィオルンに言った。この街で、シュルクたちとどんなふうに生活してきたか教えてくれないか、と。
フィオルンはそれを聞いて目を丸くしたけれど、すぐに笑って頷いてくれた。
私は知りたかったのだ。この街で、このコロニー9という街で、彼らが生きてきた記憶を。
それを聞けばフィオルンとシュルクの間にあるものを、少し理解できるかもしれないから――。


君のこと目で追わなくなった



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -