「では私とシュルクで買い物に行ってこよう」
「うん――じゃ、よろしくね」
「うん、行ってくるよ」

私とシュルクは仲間たちに手を振って、ダンバン邸を出た。
コロニー9。巨神の脹脛にあたるこの街はシュルクやライン、フィオルンとダンバンの故郷である。
今、ここ以外で残っているホムスのコロニーは、カルナの故郷コロニー6だけだ。
私たちはまずノポンの八百屋に向かった。
その店は新鮮でおいしい野菜をたくさん売っている。
私たち――私とシュルク、フィオルン、ライン、ダンバン、カルナ、リキの七人はこの街の住人からの依頼をこなすためしばらくコロニーに滞在することになっていた。
この街の出身でない私とカルナは、正面口からすぐの所にあるダンバンとフィオルンの家に泊まる。
リキはラインのところに泊まることになっていた。
それでも皆で食事をしよう、とダンバンが言ったので、ダンバン邸に集まった。
そして私とシュルクが買い物に出たのだった。
皆、いろいろとやることがある。効率よく仕事を分担しているのだ。
八百屋で野菜を購入した後、別の店に行き肉や魚を買った。
買い物は私一人でも出来る。だが七人分買うとなると大荷物になる。
だからシュルクが一緒に来てくれたのだ。ダンバンとラインは何かやることがあると言っていたから。
私はちらりと隣を歩くシュルクを見た。
綺麗な金髪。整った顔に、青い瞳。
吹き抜けていく風にその髪が踊った。きっと、私の髪も。

「これくらいでいいかな?」

シュルクが荷物を見ながら言った。
私は「そうだな」と頷く。
街は賑わっていた。ほとんどがホムスで、時々ノポンの姿も見られる。
私のようなハイエンターの姿はない。
そのことで私はこの街が巨神界の下層であることを再認識する。
頭部に翼をもち、ホムスよりも遥かに長い時を生きる私たちハイエンターはこの世界の上層部で生きてきた種族で、ホムスからは「伝説」とさえ言われてきた。
ホムスとの混血である私の翼は極端に小さいが、それでもハイエンターであることに変わりはない。

「重くないか?少し私が持つぞ」「ううん、大丈夫」

何せ、七人分だ。彼の抱える荷物は大きく、そして重たそうだった。
それでも彼は優しく笑った。
そう、シュルクは本当に優しいのだ、戦っているときも、そうでないときも。
私はいつしかそんな彼に淡い想いを抱いていた。
その想いは誰にもばれない様にしよう、そう思っていたがカルナにはあっさりとばれてしまった。
だがカルナは冷やかしもせず、応援するとまで言ってくれた。
けれども彼は――。そこまで考えると、ちくりと胸が痛んだ。
そしてその痛みが奥へ奥へと落ちていく。
歩いているうちに痛みは消え、彼への想いもまた沈む。
自分で自分のその想いを深い水の底へと押し込んで。
その影すら彼に見られない様にと。

歩いている私たちの真上を、鳥が横ぎった。
とても長い翼の鳥が。
自由そうに見えるその鳥も、生きるために翼を得たわけで。
本当の自由を手にしているようには見えない。
そんなことを口にしたら変な風に思われるだろうな、そう思いちいさな溜息を吐いた時だった。

「――鳥って、本当に自由なのかな」

シュルクがそんなことを呟いた。
私に問い掛けているわけではないようだった。
強いて言えばもう姿の見えないその鳥にたずねているようにも見える。
私は言葉を探す。私もそう思っていた、と言うべきか。それとも別の答えを探すべきなのか。
そうこうしている間に私たちはダンバン邸に辿り着いていた。
シュルクは答えを待たずに、扉を開いて私に微笑んだ。
そして気付く。沈めたはずの恋ごころと、それに伴う痛みが、僅かながらまだ存在していることに。


恋ごころと胸のいたみ消えたのはどちら?



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