冷たき交わり



今でも父上や兄上、そして散っていった同胞たちのことを想うことがある。
いや、思わない日はない、と言ったほうが正しいだろう。
マクナ原生林で私を身を挺して守ってくれたアイゼルたち。
監獄島で顔のついた巨大な機神兵に殺められた父上。
ハイエンターの悲しい運命を背負いテレシアと化した兄上と、純血のハイエンターたち。
残された混血のハイエンターや、共にこの世界に生きる生命の為にも――そして倒れていった者たちの為にも、私は動かなくてはならない。足を止めるわけにはいかない。
あの戦いの日々は終わったけれど、私は歩まねばならない。
その道がどれだけ急な上り坂だとしても、悪路だったとしても、だ。

「メリア?」

金髪の少女がどうしたの、と声をかけてきた。
フィオルンである。私の大切な友人のひとりだ。

「いや、少し考え事をしていた。すまない」

私が頭を垂れると、彼女は「ううん」と首を横に振った。
きっと彼女は察している。私が何を考えていたのかを。
彼女は私のことをちらりと見て、それから遠くに目を向けた。
宝石のようなグリーンの瞳は、あの頃と変わらぬ光を宿しており、曇りはない。

「あのね、メリア。私、久しぶりにメリアたちと会えて嬉しかったよ」

改まってそう言うフィオルンに私は少しだけ戸惑ったが、すぐにそれを消すように頷いた。

「あの頃はいつも一緒だったから。そばにいるの、当たり前だったから」
「そうだな――」
「本当に、ありがとう。いつも助けてくれたよね」
「そ、それは――そなたもだろう?」

私はすぐにそう言った。
ナイフや剣といったものでの攻撃が不得意な私を、フィオルンはいつでも守ってくれていたからだ。
彼女たちがいなければ私は戦うことなんて出来なかっただろう。
私は錫杖をぎゅっと握った。
カルナやリキとこの街へ来る途中、ずっと握りしめていた錫杖である。
上層からこの街、コロニー9は遠く離れている。
何度もモンスターが道を塞ぎ、仕方なく戦いになってしまった。
この世界には分かり合えるものと、分かり合えないものがある。
それらは冷たく交じり合って、時に勇気を、時に不安を胸に抱かせる。

「うん、そうだね」

微笑みを浮かべてフィオルンはそう答える。
エーテルの攻撃や補助はメリアが一番得意だったものね、と。
支え合ってここまで来た。手を取り合って、やっと見えた希望。
私は戦いが終わり、皆がコロニー9へ集った時も、ここで遠くを見ていた。
私たちを待ち受けている未来を見ていた。

「これからも――」

フィオルンが遠くを見据える。ああ、と私は答える。
私とフィオルンを見下ろす高い空を飛んでいったのは、白い鳥。
まだ私にはやるべきことがあるし、フィオルンも新たな日々を送っている。
あの頃には戻れない。あの頃とはすべてが変わりつつある。
けれどそれを嘆く必要はない。悲しむこともない。
何故ならば、変わりゆく世界にも揺らぐことも変わることもない想いがあるからだ。
私とフィオルンはとっくにその答えに辿り着いていた。

風が吹く。あたたかな光が降る。鳥が歌っている。息をしている。
この――果てない世界で。


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