FF12 | ナノ


final fantasy xii

イヴァリース東部を有する軍事大国、アルケイディア。この国の首都、帝都アルケイディスに珍しくヴィエラの姿があった。森の民ヴィエラ族や、ブタのような姿をしたシーク族など、亜人種への差別意識が根強いこの地に。彼女は豊かな銀の髪を風と遊ばせている。長い耳はぴくぴくと動いており、赤茶の瞳は鋭い光を放っている。ヴィエラは本来、深い森の中で生活している。彼女のように人間(ヒュム)の世界に混じりあうことは非常に珍しいことだった。森の精霊の声を聞き取り、天候の変化すら読み取ることができるヴィエラ族。しかしそれは森から離れると次第に失われていく能力で、彼女――フランもまた例外ではなかった。ケルオン大陸内陸部、「ヤクト・ディフォール」にあるゴルモア大森林から離れたフラン。厳格な里長である実の姉ヨーテ、若く好奇心の旺盛な妹ミュリン、薬草の扱いに長ける薬師の長ハールラ、森を守護する防人の長ラエル、そして里の友人を手放してまで掴みたかったのは広く高い空――自由だった。森を出たフランはバルフレアという人間の男と出会い、彼と行動を共にしてきた。森の民ヴィエラとしてではなく、空賊として。王宮で女神の魔石を手に入れようと潜入したあの日からフランとバルフレアの運命は動き始めた。ラバナスタの戦災孤児ヴァン、彼の幼なじみパンネロ、王国の将軍であったバッシュ、そして旧ダルマスカ王女のアーシェと出会ったこと、それによってフランとバルフレアの歩む道は変わった。神授の破魔石「暁の断片」を得てから巨躯で仮面をし顔を隠す種族ガリフの話を聞いて、それから神都ブルオミシェイスを目指し歩み始めたあの頃、フランは五十年ぶりに姉や妹、かつての友人たちと再会した。数あるヴィエラ族の隠れ里でも特に排他的なあの里で、フランは過去と向き合い、そしてまた過去の蓋を閉じた。大きな力を、民を守る力を、敵を討ち滅ぼす力を渇望するアーシェ・バナルガン・ダルマスカと彼女を取り巻く人たちと共に、戦いに身を投じようとフランは改めて思ったのだ。ミストの濃い、あの森で。

アーシェたちが帝都アルケイディスをまた訪れたのは、武具を整えるためだった。あまり顔が知られていないとはいえ、アーシェは自殺したと発表された王女である。彼女は魔道士が身に纏う白いローブで顔や体型を隠す。仲間たちはそんなアーシェをアマリアと呼ぶ。バッシュは変装をしなかったが名前を出さないようにと仲間内で決められていた。空に浮かぶ都市ビュエルバで同じような状況になった時、ヴァンは彼の名をぽんと口に出してしまったのだけれど、今はそうではない。彼も成長したというわけだ。そんなヴァンと彼のガールフレンドのパンネロが肩を並べて武器屋や防具屋、魔法屋などへとかけていく。年頃の彼らは一見めんどくさそうな買い物も楽しんで出来るらしい。バッシュやバルフレアが頼むまでもなく、ふたりはそれを率先して引き受ける。ヴァンとパンネロは旧ダルマスカ王都ラバナスタでミゲロの道具屋を手伝っていた。そのためか買い物も上手にできる。気儘なバルフレアやフランが引き受けるよりいいのだ、といつかヴァン本人が言っていたがバルフレアもフランも聞き流したのをフランは思い出す。自然と小さな笑みが零れ落ち、舗装された大地に落ちた。フランとバルフレアは交差する道まで一緒に歩いたが、そこで別れた。当てもなく街をふらぐらと歩き回ることが許されないバッシュとアーシェは宿屋で荷物の整理をしているはずだ。フランはそんな二人を思い描きながら進む。アルケイディスには何回も来ているので、頭の中に手書きの地図がある。背の高い建物や、大きな魔法学校、いろいろなものを売っている店。それらに目を奪われることもなく、ヴィエラの戦士であるフランは公園へと辿り着いた。帝都だけあって、とても広い。緑は彼女にとってとても癒されるカラーだった。帝都の中で異質なその色は。フランはゆっくりと歩き回った。季節は春で、過ごしやすく、そして花は咲き乱れている。公園を取り囲むのはごく薄い紅色をした花を大量に咲かす木々で、それは吹き抜ける風によってはらはらと散らされていく。儚い美しさがそこにはあった。それを見て回る人たちの姿もある。ベンチで並んで弁当を突っつきながら花を見るカップルや、緑の地を無邪気な笑い声をあげて駆け回る小さな子供の姿をフランの瞳は映す。帝都アルケイディスでは珍しいヴィエラ族の登場に、目を丸くする人間(ヒュム)もいた。フランは花弁の雨の中を進んだ。この花を見ていると、昔を思い出す。姉や妹と、里で咲く花を見上げた日なんかを。それはもう戻らない過去。どう足掻いてもありえない未来。彼女の胸がいっぱいになる。過去は捨てたのだと言っても、里で過ごした記憶や思い出がすべて無くなるわけではない。フランは歩いた。花のトンネルの中を。ちらつく思い出を抱きながら。

――どれだけの間、そうしていただろう。
いつの間にか公園を何周もしていた。体力には自信のある戦士のフランでも流石に草臥れてきた。空席になったベンチに腰を下ろし、目の前に広がる世界を見やる。草の上で、ボールを投げあう少年の姿や、背が高い建物などが視界に飛び込んでくる。子供の高い声や、花の蜜を求めてやってきた小鳥の鳴き声が耳に入る。時間は確実に進んでいた。そろそろ戻るべきか、そうフランが思った時だった。彼女の肩に温かな手が置かれたのは。珍しくぼんやりしていたので、気配にも気づかなかった。吐息がきこえる。

「…バルフレア」

相棒がそこにはいた。ヘーゼルグリーンの瞳に、彼女が映し出される。名を呟くように呼べば、彼は笑った。こんなところで何をしていたんだ、と問いかけながら。フランは花に誘われたのだと素直に答える。花や木々、総じて自然と呼ばれるものに惹かれるのはヴィエラの血が流れているから。森を捨てたとはいえ、懐かしむ気持ちが少なからずあるから。とてもじゃないが口には出せない。しかしその答えは花丸がもらえるほど的確なものだった。

「そろそろ行こうぜ、フラン。ヴァンとお嬢ちゃんの買い物も終わるころだからな」
「…ええ、分かったわ」

フランは立ち上がる。だがそんなフランに彼が言葉を落とした。

「ちょっと待った」
「何?」
「髪に花弁がついてる」

バルフレアの長い指が銀髪に埋もれた薄紅色の花弁を器用に取っていく。埋もれていたそれは彼が手放すと、生暖かい風に乗って遠くへ走り去っていった。そしてバルフレアは豊かなフランの髪をそっと撫でる。フランは何も言わない。拒否もせず、逆に喜ぶこともせず。こういったスキンシップをふたりはたまにとっていた。触れずともそこに絆はあるのだけれど、たまには触れたくなるのだと自由を愛する空賊バルフレアは言うのだ。バルフレアは数分そうしていた。それを終えると、フランが改めて立ち上がる。いつの間にか鳥は鳴き止んでいた。ふたりは歩きだし、公園を出る。そこを出ると変わらない帝都の姿が空賊をとらえる。公園が自由の塊ならば、ここは堅苦しいものの塊だろう。人々はなによりも情報を求める。情報収集が下手ではここで生きていけないといえるほどに。ふたりは顔を見合わせてから、はあと息をつく。空が遠い。建物と建物の間で顔を覗かせている空が。フランたちが宿屋に戻ると、仲間たちはもう揃っていた。遅かったな、というバッシュと少し目を吊り上げたアーシェ、食事の準備を始めているパンネロ、買ってきたばかりの魔法に目を輝かせるヴァン。フランとバルフレアは何も発言することなくその場に溶け込む。フランはアーシェに僅かに謝罪を漂わせ、彼女はそれを上手く掴んでみせた。それからフランはパンネロのそばへと行き、バルフレアはバッシュと会話を始める。パンネロがフランに言う、「なにか良いことでもあったんですか?」と。フランはとても穏やかな顔をしていた。咲き誇る、花のような。


title:白々

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