FF12 | ナノ


final fantasy xii

――空中要塞バハムート。

アーシェは剣を握った。そして敵兵を斬り伏せていく。その目に、剣に、迷いはない。これがきっと最後の戦いになる。自由を取り戻す為の長い戦いの日々が、ここで終りを迎える。アーシェは振り返った。そこには然程年の変わらない少女パンネロと、最速の空賊を名乗るバルフレアの姿がある。それから隣に目をやればヴィエラの戦士でありバルフレアの相棒フランが魔法を詠唱していた。少し前を行くのはパンネロのボーイフレンドのヴァンと、何かとアーシェを支えてきたバッシュがいる。六人での旅は過酷なものだった。イヴァリース全土を巡る、戦いの旅。悲しみも痛みも、嫌というほど味わってきた。今のようにモンスターだけでなく人間を相手とすることもしょっちゅうだった。砂漠の小国ダルマスカの王女であるアーシェ・バナルガン・ダルマスカ。自分の無力さを嘆き、力を求めた。全てを奪ったアルケイディア帝国への復讐。それが彼女の抱いた願いであった。しかし旅をする内に、彼女は気付いた。復讐は、また新たな悲しみが生まれるだけなのだ、と。帝国は憎い。それは変わらない。だが、その思いに振り回されてはいけなかったのだ、と。ヴァンも柵から開放され、バルフレアとフランも過去を受け入れ、バッシュもまた運命を乗り越えた。そんな仲間たちを優しい目で見つめるパンネロ。アーシェは息を深く吸った。辺りの帝国兵全てを倒したところで、彼女はすぐ隣にいるフランを見た。フランはその視線にすぐ気付いた。だが、何も言ってこない。彼女はそういう人物である。最初はそれに苛立ったが、今では心で分かりあえているからそういった感情は抱かない。アーシェは後ろを見た。するとパンネロが駆け寄ってくる。金色の髪が揺れて綺麗だった。

「怪我とかしてませんか?」

親しくなった今も、パンネロの口調は変わらない。最初から「お前」と呼んできたヴァンとは間逆である。

「大丈夫よ。ありがとう、パンネロ」

アーシェがそう言って微笑んだ。こうやって自然に微笑むことが出来るようになったのはいつからだろう。解放軍の一員として身分を隠し生きていた頃も同年代の少女と会話することがあったが、その頃はとても無理だった。自分の正体を知っている唯一の存在であったウォースラ・ヨーク・アズラスにも笑みを見せることもなかったから。

「いつでも言ってくださいね?回復なら任せて下さい!」
「頼りにしてるわ」

パンネロはアーシェのその台詞を聞くと、花のような笑顔を見せる。あまり武器を振るい戦うことが得意ではないパンネロだが白魔法などはとても得意なのだ。彼女は努力家で、フランから魔法を教わったりしてきた。ヴィエラであるフランは長い時を生きてきた故に博識で、魔法の扱いも得意であったからだ。最初はあまり乗り気でなかったフランも今ではパンネロを妹のように見守っている。

「もうすぐ、最後の戦い…ですね」

金髪の少女が言う。ハニーブラウンの瞳は透き通っている。それだけでなく、強い思いも宿っていた。

「そうね……」

長かった。出会いと別れを繰り返して、今、息をしている。ヴァンも、バルフレアも、フランも、バッシュも、パンネロも、アーシェも。時に激しく衝突し、それでも砕けなかった絆。平和と自由の為の戦い。正義とは何なのかをアーシェは何度も自問してきた。自分の掲げる正義と、他者が振り翳すそれは似ているようで異なる。この広く美しい世界イヴァリースを思うが故に武器を振るう。傷付け、傷付けられ、今へと辿り着いた。足元は血で赤く染まっているかもしれない。第三者は自分のことを悪と罵るかもしれない。そういったドロドロとした黒いものを抱えていると自覚し、その上でアーシェたちは戦うことを選んだ。もう、来た道を振り返らない。進むだけだ。仲間と呼べる、大切な存在と共に。そしてまた敵兵がアーシェたちの前に現れる。フランとパンネロが詠唱を始めた。バルフレアとバッシュ、ヴァンが駆け出す。アーシェもそれに続く。走りだしたアーシェを柔らかな光が包んだ。パンネロがプロテスをかけてくれたのだ。剣を握る。帝国兵もまたアーシェに切っ先を向けている。

「私は――私たちは、ここで立ち止まるわけにはいかないッ!」

アーシェはそう、叫んでいた。


title:告別

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